チーム・マネジメント

有人宇宙の運用管制から、チームマネジメント、人間-機械システム、そしてヒューマンファクターズを考える

計画通りに進まない 戦略を磨く 【戦略】

かつて私は、戦略という言葉を使うことをためらった。軍事の匂いが強すぎるといわれたからだ。だが考えは変わった。プランが知的な遊びに終わっていることが多いことに気づいたのだ。綺麗に綴じて棚に置き、それだけで素晴らしいことを行った気になっている。プランはつくっても、実際に行動しないかぎり何も変わらない。これに対し、戦略は行動志向である。 ピーター・ドラッカー

 全てが右上がりに進んでいけるのならば、これまでのように明るい将来を描いた計画(Plan)を立案していれば、いつか到達できるかもしれません。そのため、様々な業務において、計画を立て、計画に沿って仕事を進めれば良かったです。しかしながら、不確実性(Uncertainty)の高い時代に入り、予測が立ちづらく刻々と変化する中で、古新聞となってしまった計画に従っていれば、古い地図だけを参考にしながら航海に出るようです。

 そのような問題を認識すると、時々刻々と計画を見直す必要があります。ただし、改訂した計画を飾っておくだけでは何の意味もなく、関係者に周知させて行動に反映させる必要があります。組織が大きくなれば、逐次変更を周知できずに現場が混乱する可能性があります。

 状況が刻々と変化する場所という点では戦争における戦場があげられます。戦争の中で生き抜くために、中国の戦国時代で孫子が伝えた兵法、18世紀欧州の激戦を受けてクラウゼヴィッツ (Karl von Clausewitz)が書き上げた『戦争論』があり、「戦略(Strategy)」という言葉が生まれました。語源は古代ギリシア語の「将軍(strategia)」から派生したもので、ある目標を達成するために大局的に事を運ぶ方策を示しています。

 ただし、戦争で用いられる戦略が、ビジネスや業務において、参考にはなりますがそのまま活用できるわけではありません。継続性が失われる断絶の時代、加速的に変化し続けて過去は忘れ去れ、予測不可能な不確実性の高い将来では、計画性を重視することから、戦略性を重視する考え方へ変えていかなければなりません。まさに一寸先は闇です。行灯(あんどん)を掲げて目標地に向けて進むしかないです。

 戦略的な考えをするために、行動する目標について定めることになります。長期的な視野に立てば、その目標はチームや組織のミッションと一致します(以前の記事)。そして、その目標がチームや組織の存在意義となり、独自性を明らかに示し、進める活動を明示します。戦略における目標は競争に勝つことと理解するのは間違いかもしれません。『戦争論』では「戦争は政治の延長である」として政治目的を達成すること、『孫子』は「戦わずして勝つ」ことが最良であり、国が滅亡せずに繁栄することが目的となっています。

 

 ミッションや目標を達成するためには、チームや組織作りが大切になるのことは間違いありません。戦略的な立場に立てば、実動部隊としてチームや組織を整えることが必要となってきます。そして更に機械とも統合したシステムとして機動力を発揮できるように統括していかなければなりません。統合システムを確立するためにも、本番にむけて事前に練習や演習を積んで、多くの失敗を積み、対応策を身につけておくことも有効となります。

 現在地から目標へ向かって進んでいくには、先ずは足元にある現在地を再認識しておく必要があります。現状の状況を正しく描いた地図(現実には存在しないですが)を持っていたとしても、全く異なる場所を現在地と認識してしまっては、目標へ進む方向も誤ってしまいます。現在地と目標に到達する間には「時間」という要素があります。その時間が長ければ長いほど、不確実な要素が多くなります。

 行動を起こして前進していけば、刻々と地図も変わっていくために書き換える必要があります。そして、これまで認識していなかった新たな事柄も明らかになります。追い風になりったり、向かい風になるかもしれません。その場その場で適切に柔軟に対応していかなければならなく、臨機応変に対処できることが人間の特徴であるとも言えます。そのためには、先ずは思い込みでなく現実を謙虚に受け入れること、自分たちでは制御できない(取り除いたり、変更できない等)ことも多々あり、その認識の上で進む道を選択していくことが求められます。

 

 戦略的思考で重要なことは、古典的な戦略論の中でも述べられていますが、失敗したとしても負けないことです。失敗を恐れて何もしなければ、状況は刻々と悪化していき、最後は撤退することになります。小さな失敗をしていも、その失敗から学んで成長して、第一線に復帰することが必要となります。致命傷となる大きな失敗をしては二度と戻ることはできません。致命傷を回避する手順を決めておく必要があります。

 進行していても当然として全てが上手く進むことはないでしよう。臨機応変にできても、間違いもするし、失敗もします。ただし、そこから学習して経験を積み、先読みの力を高めることによって、速く目標に到達できます。そして一番のポイントは、致命的な失敗を防ぎ、全滅は避け、底に落ちても上昇して、精神面では諦めないことが重要なのかもしれません。

 

Dragon to Mars


参考文献

  1. ドラッカー名著集 4 非営利組織の経営
  2. ハーバード戦略教室
  3. Clausewitz on Strategy: Inspiration and Insight from a Master Strategist
  4. 最高の戦略教科書 孫子
  5. 新版 あたらしい戦略の教科書
  6. 確率思考の戦略論 USJでも実証された数学マーケティングの力