チーム・マネジメント

有人宇宙の運用管制から、チームマネジメント、人間-機械システム、そしてヒューマンファクターズを考える

我々が進む道を自ら定めて更なる高みへ【ミッション】

われわれは月へ行くことを選びます。この10年のうちに月へ行くことを選び、そのほかの目標を成し遂げることを選びます。われわれがそれを選ぶのは、たやすいからではなく、困難だからです。この目標が、われわれの能力と技術のもっとも優れた部分を集め、その真価を測るに足りる目標だからです。この挑戦が、われわれが進んで受け入れるものであり、先延ばしにすることを望まないものであり、われわれが、そして他の国々が、必ず勝ち取ろうとするものだからです。  ジョン・F・ケネディ大統領

アメリカの宇宙事業に関するライス大学での演説 - John F. Kennedy Presidential Library & Museum

 チームの定義として「ある目的のために活動を同じくする人々の集まり」とあり、ある目的 すなわち ミッション(Mission)は何かが重要となってきます。アポロ計画のように、誰もが理解しやすく、上層から設定されたミッションならば、チームとして結束して活動を進めることは難しくありません。

 チームを結成する以前の段階において、自らが進むべきミッションを設定することは生みの苦しさを伴う困難な活動です。ここでは、ミッション設計について考えていきます。

 ミッション(Mission)の定義について、日本語では「使命(与えられた重大な任務)」と訳されます。語源としては、最初は布教活動において用いられ、伝道師を派遣して信仰を広めることから来ています。そのため、日本語の「使命」には含まれませんが、ミッションのニュアンスには、教えを広める、派遣する、遠征するの意味合いも含まれています。ビジネスにおいてミッション宣言(Mission Statement)を掲げることがありますが、企業が果たすべき目的や企業の存在理由などを表明することになります。日本語で相当する用語には、社是(しゃぜ)や綱領(こうりょう)があります。

 ミッションには未知に挑戦する任務という意味もあるので、ここではミッションとの用語を使ってきます。日本ではミッションとの用語は一般的ではないので、使命、社是、志(心に決めた目標)の用語のほうが適している場合もあると思います。

 ミッション設計にあたり、ドラッカー(Peter F. Drucker)が重要な示唆を与えてくれています。ドラッカーは、リーダーが初めに行うべきは、自らの組織のミッションを考え抜き、定義することと語っています。

ミッションそのものは永遠のものでよい。しかし、目標は具体的でなければならない。目標は達成されて変わることがあって当然である。最も犯しやすい過ちが、ミッションによき意図を詰めこみすぎることである。ミッションはシンプルかつ明確にしなければならない。

ミッションの三本柱
第一に、機会すなわちニーズを知らなければならない。
第二に、自らの手にする人的資源、資金、そして何よりも能力によって世の中を変え、自ら基準となりうるものは何かを考えなければならない。自らが基準となりうるためには優れた仕事を行うことができなければならない。成果に新たな次元を持ち込むことができなければならない。
第三に、何を大切に思うかを考えなければならない。つまりミッションとは非人格的たりえないものである。

 ミッションのためにチームは活動していきますが、チームを構成するメンバーの観点から見れば、自分たちのミッションに共感でき、重大さを認識しているほど、自らの仕事に情熱を注ぐことができます。その結果チームとして成果があがり、その成果に対して自信が持て、誇りを感じることができます。ミッションは、宣言として外部に向けたメッセージであるとともに、チーム内のメンバーに向けたメッセージでもあります。

 ドラッカーが指摘したミッションに込めるべき三本柱は、良い企業が偉大な企業に成長する要因を研究したコリンズ(Jim Collins)が「ビジョナリーカンパニー②」において、「針鼠の概念」として指摘している項目と一致しています。「針鼠の概念」では、「情熱をもっと取り組めるもの」「自分が世界一になれる部分」「経済的原動力になるもの」の三つの円が重なる部分を目指すことです。

 ミッションというと、理想像や崇高な姿を描くことを考えてしまいますが、ドラッカーは機会やニーズを、コリンズは経済的原動力になるものを問っています。そうすると、世俗的で泥臭い内容になりそうです。言われてみれば、社是として崇高な思想を掲げている企業もありますが、それが組織の活動にどのように結びついているのか不明に感じることもあります。

 自分たちの能力や使える資源に限度があるならば、自分たちの強みを知り、その強みを生かすことが重要であることは言うまでもありせん。そのように考察してみると、ミッション設計の第一段階において、チームの強み(Strength)と機会(Opportunity)を検討するSWOT(Strengths, Weaknesses, Opportunities, Threats)分析は有効なツールなのかもしれません。

 自分たちの強みと機会を理解して、言葉に魂を入れて情熱を込めるのが、ミッションを制定する次の段階になります。ミッションの叩き台を草案して、多くのメンバーを巻き込んで白熱した議論を進めて、自分たちで作り上げた宣言として仕上げることが良いかもしれません。

本田技研工業 社是

わたしたちは、地球的視野に立ち、世界中の顧客の満足のために、
質の高い商品を適正な価格で供給することに全力を尽くす。

 ミッション(使命)やビジョン(目標)などを小さな1枚のカードにまとめたものを「クレド(Credo)」と呼ばれることがあります。クレド(Credo)とは信条のことであり、語源はラテン語で「我は信ず」から由来しています。1枚のカードに収めて、メンバーに常に携帯できるようにして、過ちそうになった時や決断に迷った時にカードを見て立ち返り、自らを問うことができます。

望遠鏡を修理したり、国際宇宙ステーションに新しい装置を取り付けたりするためのシャトル・ミッションのように、行動が決められている状況では、みんながひとつになるのは簡単だ。目的がきっちりと定められているし、期限もあるから、ほとんどの人は目的を達成するために集中力を保てる。でも、国際宇宙ステーションの場合、目標はもっとあいまいだ。実験を続け、ステーションを維持すること、細々とした清掃員的な仕事もたくさんあるし、家事とおんなじでいつまでやっても終わりが来ない。しかも、滞在期間が長いから、小さな不平やイライラが溜まっていき、いつしか大問題に発達しかけることもある。だから、第35次長期滞在の船長を務めたとき、僕は愚痴が会話に忍び込むのに気づくたび、あえて愚痴に歯止めをかけた。といっても、単に僕の意思を残りのクルーに押し付けるわけにはいかなかった。クルー自身が探検隊行動規範の価値を認めてくれたからこと、僕たちは不平不満の出ない集団になれたんだ。  カナダ宇宙飛行士 クリス・ハドフィールド

Credit: NASA

参考文献

  1. プロフェッショナルの条件―いかに成果をあげ、成長するか (はじめて読むドラッカー (自己実現編))
  2. ドラッカー名著集 4 非営利組織の経営
  3. 「ついていきたい」と思われるリーダーになる51の考え方
  4. Good to Great: Why Some Companies Make the Leap...And Others Don't
  5. 邦訳 ビジョナリー・カンパニー 2 - 飛躍の法則
  6. 経営の教科書―社長が押さえておくべき30の基礎科目
  7. 1枚の「クレド」が組織を変える!
  8. 宇宙飛行士が教える地球の歩き方