チーム・マネジメント

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決定事項よりも決定プロセス 決断遅れのリスク 【意思決定】

様々な重要な場面において「意思決定」との用語が用いられるようになりました。ところが、日本語として「意思決定」は新しい用語であり、国語辞書(広辞苑など)にも載っていません。ご承知のように意思決定はDecision Makingの日本語訳です。

Decisionは、決意、決心、決断などの意味を含みますが、最良なことを検討した上での決定を示します。次に作り出す(Making)とあるように意思決定は過程があるプロセスです。すなわち、意思決定とは、組織において、ある目標達成のための諸手段を考察し、分析し、その一つを選択決定する人間の認知的活動と定義されます。

ピーター・ドラッカーは、意思決定はリスクを取る決断であり、意思決定のプロセスを以下のように整理しています。

  1. 問題分類 一般的な問題か? 例外で固有な事項か? 初めて分類される事象であるか?
  2. 問題提起 対処しようとしている問題は何か?
  3. 問題解決策 制約条件は何か?
  4. 最善策の選択 制約条件を持たし、許容できるよりも最善の策を選択する。
  5. 決定を行動に移行 決定を満たす行動は何か? それについて誰が知っているか?
  6. 実施結果の評価 どのように決定は成し遂げられたか? 想定した事項は適切であったか? 適さなかったか?

意思決定を行うには、先ずは問題を認識しなければなりません。学校教育では、問題解決を教えることに時間を費やしており、成績が優秀な人ほど問題を与えれば解けます。けれども、間違って問題を捉えれば、どんなに解決方法が素晴らしくても結果は失敗します。アインシュタインは「生死のかかった問いを1時間で解かなくてはいけないとしたら、最初の55分は、問いを考えるのに使う。適切な問いさえわかれば、5分もかからず解けるから」と言ったそうです。

幾つかの解決策が検討されたら、組織において合意を形成して、最終判断が下されます。通常意見の対立があり、収束に努めますが、最終的な決定は多数決や責任者に一任されます。逆に全く反対意見がなければ十分な検討がなされていない可能性があります。また、曖昧な妥協案が採用されると、実行に移した時に上手く機能しないかもしれません。

歴史を顧みると失敗した意思決定の事例が見られます。有名な時事として小田原評定があります。豊臣秀吉小田原城北条氏を攻めた際、城中で和戦の意見が対立し、いたずらに日時を送ったことがありました。今日では、小田原評定をいつまでたっても結論に至らない会議などを指すようになりました。歴史のその時、勢力優勢な北条方が早めに決定を下して、豊臣方に対していれば歴史は変わっていたでしょう。

次の時事として、その後の勝敗を決定づけたミッドウェー海戦における南雲提督の決定です。敵空母はいないと早合点して、地上基地攻撃用の爆弾に搭載兵器を換装を命じました。それが完了したとき米軍空母発見の急報に接して、敵艦隊攻撃用の雷爆装に転換を命じ、大混乱が起きて攻撃隊の発進が遅れました。雷爆装した艦載機が甲板一杯に乗っている状態の空母にめがけて、米軍急降下爆撃機の襲撃を受けて主力空母4隻全てを失い、航空機289機を喪失し、戦死者3,057名にもおよびました。戦史の評価として、雷爆装に転換せずに攻撃隊を発進させ、敵の爆撃機を防いでいれば、主力空母をすべて喪失する大敗にはならなかったと考えられています
私自身は、戦略段階での意思決定がどれだけ早くできるのかを意識しています。不必要に早く決めないことは理論上は正しいのですが、実戦においては意思決定の早さは多くの場合で必要とされ、タイミングを逸すれば状況が不利に展開する場合がほとんどだからです。戦略を早く決めることも、早く決めないことも、それぞれ拙速か巧遅のどちらかのリスクを抱えることになります。大事なのはどちらのリスクもわかった上で、「今決める」か「まだ決めないか」を選ぶことです。  USJ CMO  森岡 毅
意思決定が遅れることによって、リスクを増す可能性があります。しかしながら、将来について全て見通せなく、想定した部分も多くて不安がつきまといます。それが意思決定におけるジレンマとなります。管制の仕事でもそうですが、現場で辛くて大変な事態は、急きょ問題が発生して短時間に意思決定して、自分たちの力だけで解決しなければないらない状況です。時間、情報、リソースが十分でなくても、決断しなければ最悪の状態になりかねず、一方で対処にミスも失敗も許されません。

そして、意思決定プロセスの中で最も見落しがちなのが実施結果の評価です。決定選択すれば終わりではなく、その結果を反省して、問題は解決できたのか、仮定や想定したことは正しかったのか、他の手段が適切であったのかを振り返ります。次回同様な問題が発生した場合、迷わず対処できるようになりますし、仮定や想定事項を少なくすることができます。

意思決定のプロセスを再確認して、リスクを見極めて、リスクを取る決断そして実行が必要となります。

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参考文献