チーム・マネジメント

有人宇宙の運用管制から、チームマネジメント、人間-機械システム、そしてヒューマンファクターズを考える

チームにおいて防護システムを確立せよ 【ダブルチェック】

「ダブルチェック」とは、経理のみならず、あらゆる分野で、人と組織の健全性を守る「保護メカニズム」である。 京セラ名誉会長 稲盛 和夫
作業の効率化、人員削減の大号令を受けて、一人で作業を実施しなければならないことが多くなってきました。作業手順に従うだけの単調作業ならば効率化一辺倒だけでも良いかもしれませんが、責任のある判断が求められる仕事ならば一人による実施で良いのでしょうか?

ヒューマンエラーをゼロにできないという認識に立てば、それを防ぐ一つの手立てとして、ダブルチェックが行われます。ダブルチェックとは作業を二人で確認して進めていくことです。当たり前過ぎて、深く突っ込んで手法について議論されることはありません。

ヒューマンエラーの種類
  • スリップ (Slip)(いわゆる しくじり)とは、個々の状況や必要な操作を正しく認識していたが、誤った動作をしてしまうことである。
  • 違反 (Violation)は、標準的でない操作が正しくないことを知りながら、誤りを侵すことである。
  • 間違い (Mistake)は、正しい意図を理解できず、誤った操作を選択することである。

「ダブルチェックの原則」は、間違いを発見して防止するために有効なテクニックと認識していましたが、人間として過ちを犯すことも防止する厳格なシステムであることを気付かされました。不正会計等の事件がありますが、大部分が一人に任せていた業務で発生しています。定期的にダブルチェツクが実施されるシステムになっていたら、そのような事件は防止できたかもしれません。

些細なミスが発生し、ミスを起こした担当の責任が問われます。ここでダブルチェックの原則があれば、組織的にチームとして何故ミスの発生を未然に防げなかったのであろうかと、個人を責めるよりもチームの防止策を見出すことに力点が移ります。

効率よりも安全や信頼に対する比重を高く置いていた頃ならば、先輩から後輩への指導も兼ねて、全ての作業を二人で進められたかもしれません。効率を問われてしまえば、一人で進められる作業は基本的に一人で行うことになります。したがって、ダブルチェックの実施方法も変更しなければなりません。

一人で実施した作業を結果を記録して、決められたチェックポイントで他の人が記録を通じて作業結果を検証したり。シフト勤務ならば、前シフトの要員が作業の準備を実施し、次シフトが準備された作業を行うことによって、ダブルチェックの仕組みを維持する方法などです。

また、電車の運転などで活用されていますが、一人の運転手が操作する場合にダブルアクションを徹底することです。指差呼称として、操作には直接関係ないですが指差しで意識を向けた後に操作したり、作業内容を呼称した後に作業を実施します。他の方法として、作業した後で客観的な立場に立って自らの作業結果を確認します。ただし、ダブルアクションによって、エラーは低減できますが、完全な除去は難しいかもしれません。

重大な局面、絶対に間違えてはならない操作では、二人以上のダブルチェックを心掛けるように意識しなければなりません。一人で実施しているのではなく、チームで実施していることを忘れずに。ダブルチェックの注意点として、二人目のチェックを担当する人は、同じ視点ではなく、別の視点からチェックを行うことです。同じチェックをしていたのでは、同じ過ちを犯すかもしれませんし、チェック機能を有効に活用できません。

1994年6月4日、名古屋小牧空港において中華航空140便が着陸体勢に入っていましたが、旅客機の機首が空を見上げるほどの異常な姿勢となり、失速して地面に激突する事故が起こりました。中華航空140便の自動操縦は、ゴーアランド・モード (Go-around Mode)へ遷移しており、もう一度着陸をやり直すために再度上昇させようとしていました。それに対して、パイロットは、着陸モードへ切り替えることができずに、強引に着陸させようと機体を下降させようと操縦していました。

機長と副操縦士が搭乗していましたが、当然パイロットとして同じような考え方をしていました。一世代前の旅客機では航空機関士(Flight Engineer)が乗務していました。メカニック出身の航空機関士ならば、航空機システムを系統的に理解した上で適切な手順を踏み、着陸モードへ切り替えられたはずと考えられています。

日頃行っているダブルチェックについて、以上の観点から見直してみると、強固なダブルチェックの仕組みを構築できます。


参考文献