チーム・マネジメント

有人宇宙の運用管制から、チームマネジメント、人間-機械システム、そしてヒューマンファクターズを考える

加速して限界速度を超え、持続は力なり 【慣性の法則】

慣性の法則(the law of inertia)は、ニュートン(Newton)運動の第一法則とも言われ、物体は外力の作用を受けない限り、静止または等速度運動の状態を続けることを示しています。

宇宙機の運動も基本的にはニュートン力学(Newtonian mechanics)を用いて表すことができます。ただし、航行速度が光速に近づくならば、相対性理論(the theory of relativity)を適用しなければなりません。現状では、地球を周回する程度ならば光速に比べて極めて遅いです。

宇宙機は、自動車、航空機、船舶とは違い、航行において常時エンジンからの推進力は必要ありません。ロケットによって加速されて宇宙空間に到達すると、慣性の法則の通り、宇宙機は推進力なしで運動の状態を継続します。地球を周回する宇宙機ならば、地球による重力と周回によって生じる遠心力が平衡して周回運動を続けます。

宇宙機が通る軌跡を軌道(Orbit)と呼んでいますが、ニュートン力学から軌道を導き出すと、楕円(真円を含む)の形状をした軌道となります。これはケプラーの法則(Kepler's laws)としても知られています。
 
実際の軌道は、地球が赤道方向に膨らんでおり、山や海もあるために完全な球形状ではなく、摂動(perturbation)の影響を受けます。また薄い空気による抵抗によって高度が徐々に低下してきます。高度を再上昇させたり(reboost)、所定の軌道からのずれを補正し、楕円軌道の形状を変更するため、必要に応じて軌道制御(Orbital Maneuver)が実施されます。
 
宇宙を航行するためには宇宙速度(Space Velocity)を超える必要があります。宇宙速度には3段階があります。
 
 第一宇宙速度 V1:地球を周回するために必要な速度(地表で毎秒7.9 km)
 第二宇宙速度 V2:地球重力から離脱して太陽系内を航行するために必要な速度
         (地表から毎秒11.2 km)
 第三宇宙速度 V3:太陽系から脱出するのに必要な速度(地表から毎秒16.7 km)
 
宇宙空間の定義ですが、地表から100 kmを超える地点を宇宙空間と呼ぶのが慣習となっています。よって、高度100 km以上を飛行すれば宇宙飛行(Space Flight)となります。
 
宇宙旅行のタイプとして、サブオービタル(Suborbital)との用語が用いられます。サブオービタルとは、地球周回軌道に乗らない、弾道軌道を意味しており、第一宇宙速度を超えません。軌道としては、地上から弾丸が弧を描いて飛ぶように、高度100 kmの宇宙に到達して地上に帰ってきます。
 
宇宙探査機は地球重力から離脱するため、第二宇宙速度を超える必要があります。小惑星探査機「はやぶさ2」は、現在地球と併走して航行していますが、2015年12月3日の地球スイングバイ(Swing-by)によって加速し、小惑星Ryuguへ向かいます。スイングバイは、宇宙機が天体の近傍を通過して、その重力で宇宙機の軌道を変更する技術です。計画した軌道変更を行うためには、通過する高度及び角度が重要となります。
 
前置きとして宇宙に関わる解説が長くなってしまいました。話題は慣性の法則に戻り、人間のやる気にも慣性の法則が適用されることです。
 
自らの経験を顧みても思い当りますが、人間の脳は、一度基本回転数を上げるとその状態をしばらく続け、一度作業を始めたらそれを続けてしまいます。この特徴を覚えていると、やる気がでなくても、先ずは始めてしまえば、慣性の法則で最後までやり遂げることができます。

新しいことに挑戦する時にも、間違えたらどうしようと考えていたら動きだせません。頭の中で考えているだけなら、他の事に邪魔された途端に忘れ去られ、何もなかった無に帰してしまいます。先ずは動いて初速を得て、問題が生じたら修正を繰り返し、失速せずに継続することが重要なのかもしれません。
 
チーム活動においても、組織が大きくなればなるほど、動き出すまでに時間がかかり、動き出すとその状態が継続されます。そして、進む方向を変えようとしたり、動作を止めようとすると大きな力が必要となります。正に慣性の法則が働いています。
 
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Credit: NASA
 
参考文献
  1. Satellite Orbits: Models, Methods and Applications
  2. 脳が冴える15の習慣―記憶・集中・思考力を高める (生活人新書)
  3. なぜか結果を出す人の理由 (集英社新書)
  4. 即戦力の磨き方 (PHPビジネス新書)