チーム・マネジメント

有人宇宙の運用管制から、チームマネジメント、人間-機械システム、そしてヒューマンファクターズを考える

推進力を生み出す機関の特性【比推力】

 高真空である宇宙空間を航行する宇宙機に搭載される唯一の推進機関はロケットエンジン(Rocket Engine)です。ロケットエンジンは、搭載した推進剤にエネルギーを与えて、高速噴流を生成し、その噴出によって推力を得る推進機関の総称です。
 自動車エンジンを特徴づける指標としてトルクや燃費などがあるように、ロケットエンジンを特徴付ける指標として推力や比推力などがあります。発生する推力は、時間当たりの放出質量とその排出速度で決まります。それに対して、比推力(Specific Impulse)は、一般には聞かない指標であると思いますが、単位質量流量当りの推力を示しています。比推力の単位は秒であり、決められた推進剤の量で所定推力を何秒出せるかを示す数字と説明すれば理解しやすいでしょうか。
 日本の主力ロケットH2A/Bロケットや欧州のアリアン(Ariane)ロケットなどは、液体水素燃料エンジンを搭載したロケットです。液体水素燃料エンジンの比推力は400秒程度となります。ソビエト連邦から派生してきたロシアのソユーズ(Soyuz)ロケットや米国SpaceX社のファルコン(Falcon)ロケットなどでは、燃料としてケロシン(Kerosene;灯油)を用いており、比推力は300秒程度と性能は低下します。ロケット用ケロシンはRP-1(Rocket Propellant-1)とも呼ばれます。RP-1の特徴として、値段が低く、常温では液体で安定しており、水素と違って爆発の心配はありません。水素は、空気に4〜75%混ざり、機械的な衝撃や静電気等の小さなエネルギーが加わると着火して爆発します。
 宇宙へ到達した後のエンジンとして、電気推進方式のエンジンがあります。電気推進は、推進剤を電気によって加速して宇宙へ放出することによって推力を得ます。発生できる推力は小さいので地球からの離脱に用いることができません。電気推進の一種として、小惑星探査機「はやぶさ」にも搭載されたイオンエンジン (Ion engine)があります。
 イオンエンジンは、マイクロ波を使って生成したプラズマ状イオンを静電場で加速してノズルから噴射させることで推力を得ます。比推力は3000秒程度であり、通常の化学反応を用いたロケットよりも一桁高い性能を持っています。すなわち燃費は良く、推力は小さいながらも長時間駆動させることによって、大きな加速を得ることができます。
 イオンエンジンは、探査機や人工衛星などの小型宇宙機には適用できますが、チャイルド-ラングミュアの法則(Child-Langmuir law)により推力密度を著しく制限されるため、大型化は図ることが困難です。そのため、近年研究が進められているエンジンとしてホールスラスタ (Hall Thruster) があります。ホールスラスタには、イオンエンジンのような制限がなく、大電力化が容易となります。ホールスラスタの比推力も1600〜3000秒程度の達成ができます。

 ここまでが宇宙ミニ知識として比推力の解説でした。

 能力の向上を図るのに、初心者では集中して短期間に向上できるケースもあるますが、高い水準を達成するには継続的な努力が必要となります。「卓越したレベルの技能と経験を獲得するためには累積1万時間以上、10年以上継続した練習が必要」と言われます。
 瞬発力で一瞬だけ2倍のことができたとします。それも素晴らしいかもしれませんが、直ぐに元に戻っています。1日に1パーセントの改善が見られたならば、1.01倍の小さな進歩かもしれません。しかし、改善が継続して続いたならば、1年間では1.01の365乗 すなわち 37.8倍のことができるようになります。
 これまでの考察を通しても、高い推力よりも、高い比推力を有しているほうが、延びる余地は遥かに大きいともいえます。

 

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Credit: NASA


参考文献

  1. 宇宙システム概論―衛星の設計と開発
  2. Spacecraft Systems Engineering (Aerospace Series)
  3. 300人の達人研究からわかった 上達の原則