人間の情報処理能力 【コンピュータとの違い】
日々の生活や仕事において、目や耳などから情報を得て、頭の中で考え又は反射的に行動しています。当たり前のことですが、人間の動きを調査して、情報処理システムに当てはめ、人間の特徴や能力の限界を明らかにする研究が進められています。この研究を知った上で、自分の行動を観察してみると、新たな発見があるかもしれません。
人間の情報処理について様々な研究者が独自のモデルを発表していますが、その一つである黒田モデル(下図)を用いて説明していきます。
人間は、視覚・聴覚・味覚・嗅覚・触覚などの感覚器から情報を得ています。感覚器に入ってくる情報量を計測し、総合すると1 Gbps (Giga bits per second)すなわち毎秒10億ビットにもなるそうです。最も多いのは視覚(目)からの情報であり、3 Mbps (Mega bps)すなわち毎秒300万ビット程度です。YouTubeにおけるHD(High Definition)画質モードの伝送速度が2Mbpsですので、人間が2つの目で一度に2画面を見ていることを考えると、そのくらいの情報を受け取っていることになります。聴覚(耳)からの情報量は30kpbs (kilo bps)すなわち毎秒3万ビット程度で、固定電話、AMラジオの音質は32kbpsで設計されています。
入力情報を受けて、コンピュータの中央演算装置装置(CPU: Central Processing Unit)にあたる部分で考えています。人間の思考速度を計測したところ100 bps程度であったそうです。そして、一度に一つのことしか考えられません。自分の行動を振り替えてみると、文書作成中に質問されると並行して回答することはできないし、回答した後に何を書こうとしていたんだっけとなることが良くあります。また、テレビを見ていると、身動きもしなくなり、それ以外のことを考えられなくなります。
人間の特徴として、1 Gbpsの膨大の入力情報に対して思考速度はかなり遅いため、前処理過程において情報を絞り込むことになります。すなわち、大量の情報を捨てています。運転中、前方で人が道路へ飛びたして来た時、その人の行動に注視して(その人以外は見えなくなり)、直ぐにブレーキを踏むか、距離があるのでスピードを緩めるだけで良いのか判断します。この特徴は「注意の欠落」と呼ばれるヒューマンエラーを誘発させ、集中している以外の重要なシグナルを見落とし、事故に繋がる危険性があります。
前処理において、前の考え事が終わるまで情報を一時保持する場所として短期記憶があります。短期記憶は、一度に記憶できる数が「7プラス・マイナス2個」と小さい上に、再生までに許される時間が10秒から20秒程度と非常に短い特徴があります。しかも他からの情報が入ると消去されてしまいます。例えば、電話番号を聞いて一時的には覚えられますが、他のことを済ませた後に思い出そうとしても忘れています。この特徴は「記憶の欠落」と呼ばれるヒューマンエラーを誘発させ、忙しすぎると実施しようとしていた操作を怠り、事故に繋がる危険性があります。
それに対して、長期記憶は、人間の脳の中で神経細胞(ニューロン: neuron)が結合・ネットワーク化して、情報伝達・記憶がなされます。どのようにして計測したのか分かりませんが、人間の脳には10の20乗ビットにも相当する情報を記録することできるそうです。市販のハードディスクが数TB(Tera Bytes: 兆バイト)であることを考えると如何に膨大な量であるかが分かります。
長期記憶として定着させるためには、時間をかけて何度も何度も繰り返して、ニューロンのネットワークを太く繋ぐ必要があります。一夜漬けの勉強は試験が終わったら次の日には綺麗に忘れ去られていました。苦労して学んだことは、久しぶりに使う時でも直ぐに思い出せたりします。