チーム・マネジメント

有人宇宙の運用管制から、チームマネジメント、人間-機械システム、そしてヒューマンファクターズを考える

頼り切っている視力の限界を認識する【視覚】

 視覚からの情報は、知覚できる情報の80%を占めていると言われています。確かに、何か変な音を聞いたとしたら、視覚を通じて何が発生したか確認してしまいます。視覚を信頼しきっていますが、信じているよりも視覚は頼りないものなのかもしれません。

 視覚において重要な器官は眼です。人間は2つの眼球を持ち、成人の眼球は約24mmで10円玉くらいの大きさとなります。眼球は、外界の光を水晶体によって屈折させ、集積した光を網膜にある細胞によって形や色を認識します。脳は2つの眼からの映像をまとめて立体的に見ることができます。

 水晶体は透明度の高い弾力性のある組織でカメラのレンズのようであり、近くを見るときは水晶体を厚くし、遠くを見るときは薄く調整されます。加齢とともに、水晶体の弾力性が失われて固くなり、近くを見るのに必要な厚さにならないのが老眼です。近年では、スマホやパソコンなどの画面を長時間見ることで眼を酷使することで、眼のピント調整力が低下し、夕方頃になると老眼と同じような症状になるスマホ老眼に注意が必要です。

 網膜には錐体(すいたい)と桿体(かんたい)という2つの細胞があるとのことです。錐体細胞は中心窩(ちゅうしんか)に集中していて、視力や色の識別に優れています。桿体細胞は周辺部に多く、視力は低く、色も識別できませんが、動くものに対して感度がいい特徴があります。視野として左右180度、上下130度くらいの広い範囲となりますが、中心窩の大きさは直径1 mm程度で5 mから離れて見る切手の大きさくらいしかよく見えません。

 しかし、私たちが見ている(と思っている)映像は鮮明です。中心窩の小ささを補うため、無意識に眼球を左右そして上下と動いており、そのような不安定で常に動いている二次元映像を脳が統合して、視覚として鮮明な三次元映像を描いています。

 この視覚も完全ではありません。例えば、網膜には光を感知する細胞がない部分すなわち盲点があります。外方約15度(左目ならば左15度)の視点が見えていません。盲点を確かめるには、紙に×を描き、×から若干離して●を描き、片目で×を見ながら紙を前後に動かすと●が消える距離があります。見えていませんが、盲点に対応する視野は不自然に黒くならず、盲点周辺の情報によって補完されて気づきません。この補完機能によって、眼の病気で一部視野を失っても気づかないこともあるそうです。

 脳の障害によって視覚を失ったとしても、眼の機能は生きています。実証された事例として、視覚障害者が、障害物が散らかった部屋を歩いてもらったところ、支えなしに障害物を避けて歩くことができたとのことです。私たちは、光を知覚する器官として眼に注目してしまいますが、眼のみでなく皮膚なども光を感知することができます。

 視覚は、変化を敏感に反応して、見逃さないようにしています。しかし、あまりにも表示期間が短い映像は認識されないことが分かっています。多くの実験において、0.04秒間に表示された映像は認識できないが、0.06秒になると認識できるようになります。識閾(しきいき、意識が出現または消失する境界を指す)下であることをサブリミナル(subliminal)と呼んでいます。1秒間30フレームで構成された動画の場合、1つの映像は0.033秒間表示されます。1フレームだと認識できず、2フレーム以上継続されると認識されることになります。識閾下の広告を繰り返して流すことで購買欲を高める方法をサブリミナル広告と呼んでいます。有効性は不明ですが、使用は禁止されています。

 視覚と聴覚による錯覚として「マガーク効果」と呼ばれる事象があります。視覚上で話している人の口の動きは「ガ」であるにもかかわらず、聴覚上では「バ」という音声を受け取ります。視聴者の脳は矛盾に直面します。そして脳は、二つの情報を融合することで無意識のうちにこの矛盾を解消します。二つの感覚入力が十分に同期していると、脳はそれらを一つの中間的な知覚表象、すなわち聴覚入力の「バ」と視覚入力の「ガ」の折衷音「ダ」と認識します。

 視覚は、眼の機能(視力)のみではなく、脳も鍛えることによって、強くなってきます。視力は6歳頃までに完成して、視覚は小学生の頃に急速に発達します。視覚は、20歳頃に最も良くなり、その後は30歳頃から次第に低下します。高齢者の視覚は若者の2/3ぐらいまで落ちるとの報告もあります。子供の頃に視覚を鍛えず、テレビやスマホなどで視力を落としてしまっては、見ることは全ての基本ですから生涯に渡って苦労することになります。

 

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Credit: NASA


参考文献

  1. スポーツ選手なら知っておきたい「眼」のこと
  2. 意識と脳――思考はいかにコード化されるか
  3. しらずしらず――あなたの9割を支配する「無意識」を科学する
  4. キュレーション 知と感性を揺さぶる力 (集英社新書)

 

 

質問する意義について問う 【質問する力】

 日本における教育の弊害として、試験やテストでは正解がある質問が取り扱われます。採点でも〇または×が明確になっています。一歩でも社会に出れば、答えが明確な問題などありません。白と黒で色をつけるとすれば、全ての回答(決断)はグレーであり、限りなく白に近いグレー、限となく黒に近いグレーとなります。
 チーム活動において、質問することの重要性を認識するようになりました。と言っても、テストで出題される質問形式ではありません。メンバーとコミュニケーションを取るにも、ただ自分の考えを述べるだけでは不十分であり、言葉のキャッチボールが必要となります。促進するための鍵となるのが質問することです。


 質問による力を見直してみます。人間は質問されると、意識しているかに関わらず、考え始めて、答えを見つけ出します。質問を受けて脳活動が活発になることも知られています。すなわち、質問によって相手を動かすことができます。ここで相手を動かすと言っても、こちらが望んだ通りに動いてくれる訳でなく、相手を強制的に考えさせるだけです。質問は相手に負荷をかけることになるので、質問を続けて追求してばかりでは相手から拒絶されるかもしれません。


 質問のタイプとして、はい(Yes)、いいえ(No)で回答できる単純質問があります。事実を明らかにするためには良いかもしれません。質問されたほうも深く考えずに回答ができるため、相手に負担を与えません。二者択一の質問も同様かもしれません。その反面、質問をしてもお互いの発想が広がっていきません。
 二者択一から正解を出す、例えばいろいろ議論をして一つの案を選択する。一見して正しい決定のように見えます。その前に、二つの案についての矛盾を質問して、発想を広げ、第三の案を見出すことも求められます。質問には基本的に5W1H("いくら(How much)"を追加した5W2Hも提唱されています)で表されます。その中で、なぜ(Why)は本質に迫る質問として重要です。(以前の記事


 質問者の姿勢に基づくタイプの違いもあります。質問する上で注意しておくべきことは、ポジティブ(Positive)質問とネガティブ(Negative)質問です。ポジティブ質問は現状を肯定して相手を誘導する質問、ネガティブ質問は現状を否定して相手を誘導する質問となります。ネガティブ質問で、相手を追い込んでしまえば、相手と精神的な壁ができ、負の感情に基づいて相手は答えることになります。好意の返報性に基づいて、自分に好意を持ってもらうには、相手に好意を持つことが必要です。ポジティブ質問に心がけ、少しの言い回しの違いが質問力を大きく左右します。


 質問の目的として、相手を理解し、自らが置かれた状況や環境を理解し、そして省みて自分を理解するためです。すなわち、質問力は人間関係の構築において基礎となる力となります。電子メールやSNSを通じて、逐次質問していてはトラフィック量が多くなるだけで、質問力は活かすことはできないです。雑談、面談、ミーティングの場において質問力は発揮されます。
 質問によって、相手を説得し、相手の行動を修正していくことが行われています。物理学の作用・反作用ではないですが、人に何かを押しつけようとすると、同じ力で反抗しようとすることがあります。その特性を認識して、質問の仕方によって、命令する形ではなく、相手から自らの行動を選択させるようにできます。


 何気なく活用している質問力を体系的にまとめておきたいのでいろいろと整理してきました。単純と思える質問ですが、調べてみると奥が深いです。実務に活用していきます。

 

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Credit: NASA

 

参考文献

  1. ビジョナリー・カンパニー 2 - 飛躍の法則
  2. 社長の質問力 ―社員が勝手に動き出す
  3. 最強の質問力―未知の能力を引き出し合う究極の思考法
  4. 人を動かす質問力 (角川oneテーマ21 C 171)
  5. できる営業マンの「質問力」入門
  6. 質問力―論理的に「考える」ためのトレーニング (日経ビジネス人文庫 (い5-2))

 

空気を知り、生存していくために 【空気】

 私たちは、空気(air, atmosphere)を目では見えず、日常では意識することはありません。空気はあって当たり前の存在と思っています。無くてはならないが意識しないことを「空気のような存在」と呼んだりもします。存在しないわけではなく、空気の流れを風として感じ、空気が汚れていると息が詰まります。そして、最近では「空気を読む」ことが強調されます。

 

 当たり前のような空気ですが、地球の大気圏の最下層にある気体のことを示しています。無色透明で、主成分は窒素(nitrogen)が約78%、酸素(oxygen)が約21%、残りの大部分はアルゴン(argon)等の稀ガスから構成されます。地球温暖化の原因とされている二酸化炭素(carbon dioxide)は、現在の構成比として0.035%ですが、18世紀には0.028%であり、急激に上昇しています。人間は、空気中の二酸化炭素が3~4%を超えると頭痛・めまい・吐き気などを催し、7%を超えると数分で意識を失います。
 二酸化炭素には水蒸気と同様に赤外線を吸収する性質があり、地球から宇宙向けて放射される熱放射の一部を吸収して、地表面付近の気温を上昇させる働きがあります(温室効果 greenhouse effect)。氷河が溶けて海に氷解する映像、異常気象のニュースから地球温暖化(global warming)を知ることができます。気温上昇が抑えられれば良いですが、このまま続けば悪循環のスパイラルに陥る可能性があります。すなわち、気温が上昇して海などから水が蒸発して水蒸気となります。水蒸気も温暖化ガスであり、大気中に増えた水蒸気によって温室効果が高まり、更に水蒸気が増えます。この循環が暴走していき、地球の海から水がすべて蒸発したら、気温は1000℃を超えて、もはや地球上には生命が生存できなくなります。二酸化炭素が約97%の金星(Venus)のように灼熱の大地に。
 空気から呼吸で取り込んでいる酸素は、人間を含む動物にとって必要不可欠な気体ですが、酸化(酸素と化合すること)からイメージするように、必ずしも良いだけではわけではありません。まず酸素は我々の身体も構成する有機物を分解する作用があります。私たちが活動するためには、摂取した食物を分解して、ブドウ糖(grape sugar, d-glucose)を生成します。ブドウ糖を酸素で分解することによって、活動に必要なエネルギーを取り出すとともに、酸素との化合物である二酸化炭素と水に分解します。
 上空10~50 kmの成層圏では、太陽からの紫外線を受けて、酸素原子2つからなる酸素分子が分離して原子状の酸素が発生します。更に原子状の酸素と酸素分子が結合して、酸素原子3つからなるオゾン(ozone)が生成されます。このオゾン層が太陽からの有害な紫外線を吸収し、地上へ届く量を減らす働きをしています。冷蔵庫の冷媒やスプレー缶に使用していたフロン(flon)などが成層圏で紫外線で分解されて塩素原子(chloride ion)を生じてオゾン層を破壊することがわかり、南極大陸上空にオゾン層に穴があいたオゾンホール(ozone hole)が確認されました。それに伴い、白内障や皮膚がんが増加したことが報告されています。1987年に「オゾン層を破壊する物質に関するモントリオール議定書」が採択され、フロンなどの生産・使用を規制されています。その成果もあって、オゾンホールは縮小していることが確認されています。人類が環境改善できた良い事例となっています。

 

 ここまでが科学的な空気の説明ですが、日本人が敏感になっている「空気」の存在もあります。「空気を読む」ことが求められ、読めないとダメな烙印を押されかねません。その場の空気が支配して、最終的な決定も下したり、みんなを圧倒する力を持っています。実体はなく、科学的には解明できないです。
 その「空気」を理解するため、「世間」が衰退してきて流動化したものが「空気」であるとの説明には納得させられました。旧来の日本には村社会があり、生活する世の中が世間でした。その世の中で生きていくためには、その一員として、決まりや掟を守ることが求められます。「世間」を構成するルールとして、①贈与・互酬の関係、②長幼の序、③共通の時間意識、④差別的で排他的、⑤神秘性(呪術性)が挙げられています(参考文献4を参照してください)。5つのルールのうち、幾つかだけが機能している状態が「空気」だと言うのです。
 欧米では宗教によってそのような掟を啓示していますが、宗教心が薄いというか、あまり意識していない日本人だから空気に左右されるかもしれません。農耕が中心であった日本人にとって、神道の影響もあり、村そして世間が絶対の存在でした。工業・商業化の波を受けて、農作が中心であった世間から離れ、会社がその役目として①贈与・互酬の関係、②長幼の序、③共通の時間意識を担うようになりました。終身雇用・年功序列も崩れており、その役割を担えなくなってきています。現代では、その代わりとして、空気に求める構図となってきていると思われます。それは自分が所属する共同体を探していることになるでしょうか。
 しかしながら、恒常的ではなく不安定な空気によって、重大な事項が決定されるならば、その影響は計り知れないものになります。決定が遂行される頃には、そんな空気は消尽してしまい、何故その結論が導き出されたのかも理解できなくなります。そんな不完全な空気に左右されるのは怖い気がします。山本 七平さんは、歴史を振り返り、太平洋戦争への突入、戦艦大和の特攻などを空気の観点から再考しています。

 

 チームは共同体であり、気をつけないと不安定な空気に包まれる危険があります。先に述べた「世間」を構成するルールのうち、③共通の時間意識や④差別的で排他的は特に当てはまりやすいです。チーム活動において、全ての空気が悪いわけではなく、前向きでチームをまとめる良い意味での空気が醸し出されることもあります。
 空気が支配で問題となるのは、対立する価値観を認めず、絶対価値観のみで冷静な論理根拠も伴わず、物事が決まってきたら注意すべきです。一体化がチームの特徴でもありますが、チーム内での対立や摩擦を全て排除するためには、自らの意見を抑えて空気に従わなくてはなりません。山本 七平さんは、そんな空気に対抗するために「水を差す」という言い方で対案を提言しています。

ある一言が「水を差す」と、一瞬にしてその場の「空気」が崩壊するわけだが、その場合の「水」は通常、最も具体的な目前の障害を意味し、それを口にすることによって、即座に人びとを現実に引きもどすことを意味している。  山本 七平

 客観的な事実で現実に戻れれば、空気による過ちは低減できるかもしれません。気まずい空気でも、ユーモアで笑いを起こせれば、吹き飛ばすことができるかもしれません。もし空気が支配しているが、水を差すことができなければ、時間かせぎや先送りも有効な方法かもしれません。その頃には空気は消滅しているでしょう。

 

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Credit: NASA

 

参考文献

  1. 空気のはなし―科学の眼で見る日常の疑問
  2. 生命の星の条件を探る
  3. 「空気」の研究
  4. 「空気」と「世間」 (講談社現代新書)