チーム・マネジメント

チームマネジメント、人間-機械システム、そしてヒューマンファクターズを考える

生身の身体で宇宙へ挑むことができるのか 【サイボーグ】

 人間は宇宙船の助けなしで宇宙では生存すことはできません。超真空の宇宙空間では、身体を構成する体組織も瞬時に分解して蒸発してしまいます。気圧を保つ容器(Capsule)内に留まることが必須となります。呼吸を維持するためには、酸素の供給を受けて、吐き出した二酸化炭素を除去することも求められます。生命代謝を図るには、食料・水を摂取して、排出物を廃棄しないとなりません。そして、無重力状態において骨格を保つために運動も欠かせません。

 宇宙ステーションにおける宇宙飛行士の活動を通じて、人間が長期間(最長1年間)に渡って宇宙で活動するために必要な技術やシステムの開発は進んできました。空気や水に関して、二酸化炭素を除去して酸素を生成する技術や、使用済みの汚れた水を綺麗な飲料水まで再生する技術も確立され、輸送する空気や水を大幅に削減できる見込みができました。食料について、国際宇宙ステーション(ISS:International Space Station)でレタス等の栽培を試みていますが、現状ではほぼ全ての食料を地上からの輸送に頼っています。


Space in 4K - First Lettuce Grown and Eaten in Space

 大容量の荷物を輸送できる超大型ロケットがあれば、数年分の食料を積むこともできるかもしれません。人間が活動するために食事は不可欠で基本として1日3食を摂取することになります。フリーズドライ(Freeze Drying)食料ならば、水分を昇華させて乾燥させるので重量を軽くでき、食べる前にお湯を加えて元に戻します。1食100gとしても1か月で1人が摂取する食料は9 kgくらいとなります。目的地に到達するまで人間を冬眠させて代謝を下げ、食料の消費は抑えられるかもしれませんが、まだSF(Science Fiction)の世界です。

 また、長期宇宙における無重力の影響について、最近の研究成果によると、視力低下そして失明する可能性が指摘されています(参考記事)。重力について以前に考察しました(以前の記事)。無重力の対策について人類が宇宙に生活する場所としての宇宙コロニー(Space Colony)構想でも検討されています。巨大な構造物ならば、軸回りに回転させることで得られる遠心力を、人工重力として活用できるかもしれません。

 

 人類が地球圏を離れて活動するならば、最も対策の目途が立っていないのは、放射線対策と考えられます。耐放射線の技術が大幅に向上していれば、福島第一原子力発電所事故に対する対応も後手に回らず、早急に冷却設備を復旧させて水素爆発も起きずに済んだかもしれません。以前の考察で放射線が宇宙に満ちていことを説明しました(以前の記事)。地球上では磁気圏や大気・海が宇宙からの有害な宇宙線(Cosmic Ray)を遮ってくれます。そして、ISSが飛んでいる高度400kmも磁気圏内であり、地球が守ってくれています。

 宇宙から地球へ直接入射する宇宙線を一次宇宙線と呼んでいます。一次宇宙線は、太陽系外の超新星爆発によって生成される高エネルギーの銀河宇宙線、太陽から放射される太陽宇宙線の2つにわけられます。銀河宇宙線は、大部分が陽子であり、α線(ヘリウム原子核)が8%、β線(電子)が1%、その他の原子核が0.2%から構成されます。鉄やニッケルくらいまでの原子核が多いですが、重い元素の原子核重粒子)も存在します。それに対して、太陽宇宙線も、大部分が陽子で、α線β線、それより僅かに重い原子核(鉄まで重くないです)も含まれています。

 太陽系へ注ぎ込む銀河宇宙線の量は大きな変動はないですが、太陽宇宙線は太陽活動の活発さによって変化します。11年周期で太陽活動の極大期が確認されています。太陽極大期では、太陽宇宙線が強くなって銀河宇宙線を弾き飛ばすことも確認されています。銀河宇宙線重粒子が低減するため、地球圏外の惑星間航行に適しているかもしれません。しかし、予測が難しい太陽宇宙線の束(太陽風)を縫うように航行進路を取らなければなりません。太陽風を直撃してしまえば、致死量の放射線を浴びてしまいます。

 

 地球大気圏には、一次宇宙線が地球の大気中の原子核に衝突して生成される二次宇宙線が存在しています。二次宇宙線は中間子・陽電子・電子などの高エネルギー粒子です。同様に宇宙船の外壁に宇宙線が当たり、そこから別の放射線が生成されます。この放射線によっても宇宙飛行士は被ばくすることになります。

 放射線遮蔽について、α線は紙1枚でも遮蔽でき、β線は宇宙船外壁で使われるアルミニウムでも止めることができます。γ線(電磁波)ならば重金属の鉄や鉛で吸収することができます。高速中性子線は、鉛でも通過しますが、陽子1個の原子核を持つ水素に当たると減速します。高速中性子線は水やコンクリートなどの水素を多く含むもので遮蔽できます。重量を考えなければ、分厚い鉄・鉛・コンクリートによって遮れば、α線β線γ線中性子線から防御できそうです。ただし、鉛の比重は11.3であり、10cmの立方体で11.3kgの重さにもなります。

 地球圏から離れて宇宙飛行を試みようとすけば、さらに重大な問題に直面します。銀河宇宙線に含まれる重い元素の原子核重粒子)が飛び回っています。この重粒子からなる放射線は驚異的な速度とエネルギーを有しており、人体に当たればその破壊力は凄まじいです。DNAは引きちぎられて変異を引き起こし、発生する腫瘍はその他の放射線と比べても悪性度が高いとの報告があります。重粒子に衝突すれば修復不能なほど破壊的に損傷します。

 そして、遮蔽壁に重粒子が当たったとすると、核分離を生じさせて、他の二次宇宙線を発生したり、他の軽い原子核に変移する可能性もあります。そのため、重粒子に対しては遮蔽壁も有効ではありません。重粒子の中でも多く存在するのが鉄の原子核で、確率的には1年間に渡って地球圏外で過ごしたとすると、鉄の原子核に最低一度はぶつかる危険性があります。

 

 船外活動(EVA:Entra-Vehicular Activity)のために宇宙飛行士は宇宙服を着用しますが、宇宙服は、内部気圧を維持することが主目的であり、耐放射線の性能はありません。原発事故に対応するため、放射線防護服を着用した人が活躍しています。ひとつの目的は、放射性物質を身体に付着したり、体内に入ることを防ぐことです。ふたつ目は、遮蔽物が入っており、放射線による被ばくを軽減するものです。使用済みの放射線防護服は使え捨てであるため、福島第一原子力発電所内には廃棄待ちの使用済み防護服が山積みになっています。

 放射線が頻繁に多く飛び交う環境では、全てを封じ込めるのは不可能であるとも言えます。放射線が体内細胞にぶつかれば異常をきたしますが、放射線の大部分は通過するだけです。重粒子が遮蔽物や壁に衝突すれば二次的な放射線を生成され、それによって被ばくすることがあるから厄介です。

 イスラエル企業StemRadが開発した放射線防護ヴェスト「AstroRad」をNASAへ供給するとのニュースがありました。「AstroRad」は原子力事故等で作業者が身に着けるように開発された「360 Gamma」を宇宙線へも対応できるように改修したものです。ヴェストとして着用して、器官の幹細胞密集部を保護することに特化しています。細胞分裂した細胞ががん化することを防いで、がん発症を抑えることを目的にしています。

 

 耐宇宙線の発案として、薬物による放射線障害の低減、遺伝子編集による放射線への抵抗力強化なども挙げられていますが、実用化には程遠いです。現在のがん治療方法を進めて、免疫系を強化し、異常な細胞を見つけ出して排除することができるかもしれません。がん治療でも困難さはわかりますが、がんを抑制することが先か、がんの進行が先かによって、生死を分けてしまいます。

 SFの世界かもしれませんが、死に絶えた臓器の一部を機械等に置き換えて、人は生き残ることができるのでしょうか。実社会においても病気や障害のため、人工透析を受けている患者、人工心臓を組み込んだ患者、義手・義足を装着した障害者もおります。

 1960年に米国の科学者 マンフレッド・クラインズが「サイボーグ(Cyborg)」を提唱しました。サイボーグ(Cyborg)は、Cybernetic Organismの略語であり、宇宙空間・海底などの特殊な環境に順応できるように、人工臓器などで体を一部を改造された生物を指します。先ほど述べたように、医療目的で患者の機能を回復させるサイボーグは進歩しています。健常者が装着して機能を強化させるサイボーグも開発されています。パワードスーツとも言える日本企業 サイバーダインのHAL(Hybrid Assistive Limb)は実用されています。

 

 サイボーグ技術が発展すれば、宇宙線放射線に打ち勝てるのでしょうか。ロボットの遠隔操作は、ドローンや重機などでも示されているように進歩してきています。しかしながら、福島第一原発事故でも明らかになったように、現在の技術では高い放射線を伴う環境下ではロボットを活用することはできません。1979年に起きたスリーマイル島原発事故でも遠隔操作による技術の必要性は認識されていました。日本では原発に重大事故は起きないとの神話を信じて、高放射線下の遠隔ロボットについて真剣に研究開発も進めてきませんでした。

 電子機器が高い密度の放射線にさらされると、誤作動を生じさせたり、過電流が流れて回路をショートさせます。シングルイベント(Single Event)として、航空宇宙で使用される電子機器では対応策が取られます。荷電粒子がメモリ素子などに当たると記録されているデータが反転します。1つのビット反転ならば自動修復する機能を搭載します。ただし、複数の反転が同時に生じてしまうと復旧できなくなります。また過電流を検出して機器を遮断し、自動的にリセットして機能は復旧できます。しかし、頻繁にリセットが発生すれば使い物にならず、過電流保護装置が故障すれば回路破損につながります。

 

 人間が地球圏を離れることは、まだまだ大きな壁が立ちはだかります。放射線を予測して低い線量の部分を駆け抜けていかなくてはなません。重粒子を完全に防ぐことはできず、放射線防護策についても見直さないとなりません。そしてダメージを受けた後、早急に回復できるような治療法も求められます。

 

Hubble Frames an Explosive Galaxy

 

参考文献

  1. 宇宙での放射線の問題とその計測
  2. 放射線の遮へい (08-01-02-06) - ATOMICA -
  3. 宇宙船搭乗員の放射線防護 (09-02-07-09) - ATOMICA -
  4. 宇宙用材料と放射線 (08-04-01-10) - ATOMICA -
  5. 人工知能は敵か味方か
  6. イスラエル発の防護ヴェストが、火星に向かう人類を「宇宙線」から守る|WIRED.jp