チーム・マネジメント

チームマネジメント、人間-機械システム、そしてヒューマンファクターズを考える

我々を地球に閉じ込めたままなのか?【重力】

無重力状態は、私たち地球の住人にとって、いささか奇妙なしろものにはちがいない。しかし人間の身体組織は、手足がめっぽう軽くなったと感じながらも、すぐそれに順応する。そのときの私の状態を話そう。私はふわりと座席から浮きあがり、キャビンの天井と床のあいだに宙づりになった。この状態への移行はきわめてなだらかだった。重力の作用が消えはじめると、気分がたまらなくよくなった。突然、なんでもかるがるできるようになる。手も、足も、身体全体も、まるで自分のものでないような感じ。重さを全然感じなくなってしまうのだ。坐ることもできない、横になることもできない、キャビンのなかで宙ぶらりんになったままだ。固定されていなかったものは何もかも宙に舞いあがった。さながら夢でも見ているような気持ち……地図も、鉛筆も、手帳も……液体はホースからしたたり落ちると、小さな球状になって、空間を自由自在に動きまわる。キャビンの壁にふれると、ちょうど花にやどる露の玉のように、べたりとそこに吸いついてしまう。 ガガーリン(Yuri Gagarin)

 地球上に生まれ、自分の重さを感じ、人は2本足で大地を踏んで立ち上がります。物を落とせば床に落ちます。日頃に見慣れたことですが、重力(gravity)がなければ、手足で体を支える必要はなく、物はふわふわと漂っています。重力とは、地球上の物体に下向きに働いて重きの原因となる力であり、地球の引力と地球の自転による遠心力の合力です。ここで、遠心力は最大値となる赤道上においても引力の約290万の1であるため、大部分は地球の引力によるものです。重力加速度 g は 9.8 m/s2となります。地球の中心から距離が離れると万有引力が小さくなるため、高地になるほど重力加速度は小さくなります。

 

 宇宙を支配する万有引力(Universal Gravitation)の法則は、ニュートン(Isaac Newton)が木からリンゴが落ちることからひらめきを得たと言われますが、質量を有するすべての物体の間で普遍的に作用する引力があることを示しています。そして、その引力は両者を結ぶ直線の方向に向かい、両物体の質量の積に比例して距離の2乗に反比例するという法則を発見しました。

 ガリレオ(Galileo Galilei)が、イタリアにあるピサ(Pisa)の斜塔から落体による重力の実験を行なったと言われています(実話かは不明)。ピサの斜塔の頂上から大小2種類の球を同時に落とし、両者が同時に着地するのを実演したと伝えられています。それまでの物体の落下速度が重さに比例するという理論の誤りを正し、空気の抵抗がなければ質量の大小にかかわらず加速度が一定であることを証明しました。

 アポロ15号が月面に着陸して、宇宙飛行士 デイヴィッド・スコット(David R. Scott)さんがガリレオが唱えた法則が正しいことを証明しました。空気の無い月面において、ハヤブサの羽を片手に持ち、小型のアルミニウム製ハンマーをもう一方の手に持って、同時に2つの物を落としました。ガリレオが唱えたように、羽もハンマーも同時に着地して、土ぼこりを立てました。

 

 アインシュタイン(Albert Einstein)が一般相対性理論を発表して万有引力に対する世界観も変わりました。一般相対性理論によると、万有引力は四次元時空間(時間及び空間)が質量によって歪むために生じると考えられています。一般相対性理論の基本となる等価原理は、慣性質量と重力質量は等価 すなわち 加速度運動している系と重力の作用している系は同じであることを示しています。具体例として、自由落下によって作られる無重力状態は、重力場が存在しない状態と等しいことになります。

 相対性理論に基づいて万有引力の法則を定式化したものをアインシュタイン方程式と呼んでいます。非線形の方程式であるために簡単に解を得ることはできません。シュヴァルツシルト (Karl Schwarzschild)は、球対称な重力場に限定し、重力場自体が時間的に変動しない仮定の下で解を導き出しました。シュヴァルツシルトの解から、質量が高密度となれば、光を含めた一切の物がその強大な重力から外へ出られないブラックホール(Black Hole)の出現を予想しています。

 時間の進みが変動するため、宇宙船がブラックホールに吸い込まれた場合、十分遠い場所から観察すれば、宇宙船の落下には無限の時間がかかり、ある位置でほとんど停止してしまうことになります。重力によって、速度が上がり、時間の進みが遅くなり、距離が長くなったようになります。見方を変えられば、重力場によって、時間そして空間が歪められ、重力角速度が働いているように思えます。

 

 地表で通常感じる重力を 1G(9.8 m/s2)として、日常で重力加速度の変動を感じるのは、エレベータ(Elevator)に乗って昇降する時でしょうか。身体が重くなったり、軽くなったりして、少し落ち着かない気分になります。遊園地などでジェットコースター(Jet Coaster)に乗れば高い加速度を体感できます(富士急ハイランド ドドンパの最大加速度 4.25G)。登山をすれば、エレベスト頂上における重力は0.997Gに低下します。3%軽く感じる程度です。

 航空・有人宇宙において飛行士が許容できる加速度の調査が行なわれています。背中に重力を感じる姿勢が最も耐えられ、最大15Gまで許容できるとの結果もあります。逆にうつ伏せですと許容できる加速度が8Gまでに低下します。ロケットでの打上げ姿勢は、真横に寝そべって座り、仰向け(顔が上空を向く すなわち 上昇方向)となります。アポロ宇宙船を運んだサターンロケット(Saturn Rocket)では加速度が4G以下に抑えるように制御されていました。スペースシャトル(Space Shuttle)は、3G以下であり、宇宙飛行士にやさしい乗り物でした。

 

 地球上で生命は1Gの重力を受けて進化してきました。動物や人間が微小重力環境の宇宙へ滞在しても生存できることは確認されていますが、無重力が生命の進化へ与える影響は未知の研究領域です。カガーリンが宇宙飛行を行なう前では、高重力や無重力の環境下において人が生存できるかもわかりませんでした。

 高重力に対する医学的試験は、大きい遠心加速器を用いて、人が座るコックピットをぐんぐん回して、高い加速度を発生されます。ソ連の時代、宇宙飛行士を対象として極限まで試験することはできないため、平均的な頭脳と健康体を持つ軍人が選ばれ、極限の医学的試験が行われました。体験者によれば10Gを7分耐えることもあったそうです。それらの試験は国家機密であり、試験に参加したことを外部に漏らすこともできず、宇宙飛行への貢献を称えられることもなかったようです。

 そのようにして人が耐えられる加速度を知ることができました。しかし当時は、人が無重力 すなわち 重力を感知することが無い状況で生き残れるのかは確信が持てなかったようです。ソ連では、モスクワ大学にあるエレベーターを用いて2秒か3秒ほどの無重力を体感する試験が行われていました。アメリカでは、ボーイング707ジェット機に乗り、長い放物線上の弧を描いて飛んでいました。2分くらいの無重力環境を経験することができました。未知の無重力を克服してきました。

 

 しかしながら、長時間の無重力状態が人体に及ぼす影響として、平衡感覚の異常、血液循環の衰え、血液内の赤血球血漿の減少、骨の中のカルシウムの減少などが確認されています。重力による荷重がかかっていないため、骨の強度は低下していき、半年の宇宙滞在で平均15%減少するとの報告もあります。国際宇宙ステーションでは、毎日2時間の運動が計画的に組み込まれ、宇宙飛行士は体を鍛えています。減少する速度は抑えられますが、骨の強度は低下は防げていません。

 地球から離脱するためには、まだまだ大きな課題が立ちはだかっています。

 

jsc2006e02418


参考文献

  1. 宇宙への道 (1961年) (ポケット・ライブラリ)
  2. アポロとソユーズ―米ソ宇宙飛行士が明かした開発レースの真実
  3. 一般相対性理論の直観的方法
  4. Spacecraft Systems Engineering (Aerospace Series)
  5. ガガーリン ----世界初の宇宙飛行士、伝説の裏側で