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チーム・マネジメント

チームマネジメント、人間-機械システム、そしてヒューマンファクターズを考える

太古から放射線の中で生命は生きてきた 【シーベルト】

 宇宙において核分裂核融合は常にどこかで行われている事象です。地球上で私たちが恩恵を受けている太陽からのエネルギーは、太陽が水素をへリウムに変える核融合反応によって生成されています。太陽サイズの恒星の寿命は100億年と推定されており、太陽誕生から46億年が過ぎて残り半分です。太陽中心にある水素を使いきってしまうと、ヘリウムの核融合反応を開始して炭素や酸素が生成されます。そして、太陽は急激に大きくなって赤色巨星となり、地球も太陽に飲み込まれます。その後、核融合反応が停止すると太陽は自らの重さで縮んでいき、宇宙に多く存在する白色矮星となって一生を終えます。

 太陽より10倍以上重い星(超巨星と呼ばれます)の場合、核融合の進行が激しくて寿命500万年と推定されています。水素そしてヘリウムの核融合反応の後、自重によって中心圧力が上昇そして温度も超高温となり、次の段階の核融合反応が開始され、酸素からマグネシウムやケイ素、そして鉄を作り出します。重い物質も生成されますが、鉄が最も安定な物質であるため、軽い物資は核融合して鉄へ、重い物質は核分裂して鉄へ変わっていきます。星の中心は鉄で潰れ、その後ばらばらに壊れて、生成した様々な物質を宇宙へまき散らします。

 まき散らされた物質が再び重力で星の中心に集まり、恒星そして惑星を形作ります。まさに宇宙の塵から地球も生み出され、生命が誕生し、人も宇宙の塵の申し子です。しかし、核分裂核融合などによって放射線が放出され、宇宙には放射線が満ち溢れています。強い放射線は生命を死滅させ、宇宙で生命を維持することは困難です。地球上では、地磁気、大気そして水によって放射線が弱められ、生命を守る環境が偶然にも維持されてきました。

 

 宇宙から地球へ降り注いでくる放射線宇宙線と呼んでいます。地球が大部分を防御してくれていますが、地球上の生命は常に宇宙線に曝されてきました。または、地球上の天然鉱物(ウランやトリウムなど)からも放射線が放射され続けており、私たちも自然環境から放射線による被ばくをしています。日本における平均の自然被ばく量(年間)は1.5ミリシーべルト(mSv)と計測されています(世界平均で2.4 mSv) 。ただし、大地の組成や高度によって地域差が生じます。

 人体や生物に対する放射線量を表す単位としてシーべルト(Sv)が用いられます。ただし、Svは大きな値であるため、千分の一の単位であるmSvが一般的に表記されます。人体に影響が生じ始める(発がんリスクの上昇がわずかに認められる)放射線量は100 mSvと言われています。100 mSv以下では人体への影響は観察されていません。放射線量は蓄積されていく量であるため、1時間当たり 1 mSvの放射線が照射されるならば100時間で達してしまいます。1 Svを超えると健康に害が現れ、具体的にはリンパ球が減少し始めて免疫力が落ち、感染症で命を落とすかもしれません。4 Svでは治療しなければ50%の被ばく者が死に至り、50 Svを超えると48時間以内に死亡すると報告されています。

 身近なところで、胸部レントゲン撮影を1回受けると0.05 mSvの被ばくをします。宇宙線の強度は、高度が上がるにつれて大気による遮へいが低下するため、1,500 m上昇するごとに約2倍になります。10,000 m上空を飛行する航空機では地上の100倍近い放射線が浴びることになります。東京-ニューヨーク間を航空機で移動すると0.2 mSvの放射線を被ばくすることになります。高度400 kmの宇宙ステーションでは、宇宙飛行士は1日 1 mSvの被ばくを受け、半年の滞在で約180 mSvにも達することになります。

 

 地球から離れた場合、地球圏の外側では太陽から放出されたプラズマの流れ いわゆる 太陽風が吹き荒れています。平均速度は秒速350~700km、温度は摂氏約10万度に達する太陽風は、主に陽子と電子からなり、まさに放射線の束と言えます。地球の中心には、溶解した鉄のコアが強大で巨大な発電機(ダイナモ)として電流を発生させ、強力な磁場を形成しています。この地球が生み出す地磁気によって、太陽風を捻じ曲げて弾き飛ばして、大気圏まで吹き荒れるのを防いでいます。このため、地磁気が弱い火星と異なり、大気が宇宙空間へ飛ばされることを防いでいます。

 太陽風地磁気が対決している場では、高いエネルギーを持った荷電粒子が多く存在します。アメリカ初の人工衛星 エクスプローラ1号に積んだ計器を通じて、宇宙物理学者 バンアレン(Van Allen)によって発見され、バンアレン帯(Van Allen radiation Belts)と呼ばれています。バンアレン帯の形はひしゃげたドーナツ状をしており、1,000 kmから60,000 kmに渡っています。地球圏を出るためには、この放射線量が極大なバンアレン帯を通過しなければなりません。可能な限り短時間で通過する必要があり、通過だけで20 mSV程度の被ばくをすると言われています。

 1972年 4月27日 アポロ16号は月から地球に帰還しました。その年の8月に大規模な太陽フレアが発生しました。もし宇宙飛行士が月面上にいて、太陽フレアから発生した太陽風を直撃したとしたら、宇宙服を着用していても10 Svに達していたと見積もられています。致死量に達する被ばくとなります。

 

 宇宙に溢れている放射線は何でしょうか? 1898年にイギリス物理学者 アーネスト・ラザフォード(Ernest Rutherford)がウランから放射される放射線を発見し、物質中で直ぐに止まる線をα(アルファ)線、なかなか止まらない線をβ(ベータ)線と名付けました。その後にβ線よりもっと浸透力が強い線が発見され、γ(ガンマ)線と名付けられました。現在ではそれぞれの正体について、α線がヘリウム原子核β線が電子、γ線が電磁波であることが判っています。そして、中性子線、陽子線といった放射線の種類もあります。

 放射線を出す物質のことを放射性物質と呼んでおり、ウランヨウ素セシウムなどがあります。α線を出す放射性物質にはプルトニウムウランがあります。生体に吸収された放射線のエネルギー量が同じであったとしても、α線による影響はβ線γ線と比べて20倍になります。この係数のことを線質係数と呼んでおり、単位 シーべルト(Sv)は線質係数を考慮して放射線量を表しています。 

種類 線質係数 正体 防御
α線 20 高速で飛び回るヘリ
ウムの原子核
紙やアルミ箔程度
β線 1 電子の高速な流れ 厚さ数mmのアルミ板や厚さ 1 cm程度
のプラスチック板、水 10 cm程度
γ線 1 電磁波 透過力が強く、コンクリートや鉄、鉛
など、鉛でも 10 cm程度の厚さが必要
中性子 10 中性子の高速な流れ 遮へい困難、1 m以上の厚さの鉛が必要
水素原子を含む水によって減速、ホウ素
化合物などで吸収
陽子線 5~20 陽子の高速な流れ 到達距離は放射エネルギーによって異なる

 

 放射性物質放射線生成の仕組みについて、放射性物質は不安定な物質であり、安定した物質へ変化していきます。この反応を原子核崩壊と呼んでおり、放射性物質原子核放射線を放出して別の原子核に変化することです。原子核崩壊には、放出する放射線に応じてα崩壊、β崩壊、γ崩壊などがあります。

 放射性物質ウランを例として取り上げます。天然のウランには、質量数238の同位体を99.3%、235の同位体を0.7%、234の同位体を微量に含んでいます。同位体とは、原子番号が同じで質量数が異なるもの、化学的性質は同じです。自然にあるウラン238からの原子核崩壊は以下のように変化していきます。

 ウラン238 → トリチウム234 + α線(ヘリウム4)
 トリチウム234 → プロトアクチニウム234 + β線γ線
 プロトアクチニウム234 → ウラン234 + β線
 ウラン234 → トリチウム230 + α線
 トリチウム230 → ラジウム266 + α線
 ラジウム266 → ラドン222 + α線

 原子核崩壊はまだまだ続き、最終的には安定した鉛206に落ち着きます。原子核崩壊を受けて、地球内部からしみだしてくるラドン222(気体)が水に溶け込んだのがラジウム温泉です。

 

 原子炉燃料として使用されているウラン235は、中性子を衝突させると大変不安定な状態になります。そして、2つの原子核に分裂して、幾つかの中性子を放出します。代表的な核分裂反応としては下記のようになります。実際には80種類程度の核分裂生成物が生じることになります。これらの生成物が核燃料廃棄物に含まれています。

 中性子ウラン235 → イットリウム103 + ヨウ素131 + 2個 中性子
 中性子ウラン235 → ルビジウム95 + セシウム137 + 4個 中性子

 この核分裂によって、質量の総和は減少します。この質量欠損は、アルベルト・アインシュタイン(Albert Einstein)が発表した相対性理論の結論である質量とエネルギーの等価性 E=mc2 に従って、質量と光速の2乗を掛け合わした甚大なエネルギーへ変換されます。

 ウラン235中性子を衝突させて、核分裂後に中性子が放出されます。新たに放出された中性子ウラン235に衝突すると、連鎖的に核分裂反応が継続することになります。放射性物質を集めてある程度の塊にすると、核分裂が連鎖反応を起きてしまう量を臨界量と呼ばれています。核爆弾は、ウラン235プルトニウム239の密度を高め(濃縮して)、臨界量に達せば作り出せてしまいます(怖いほど単純です)。1999年に茨城県東海村においてJCO臨界事故が起きていますが、街中で核爆弾が炸裂するほどに発展する危険性がありました。作業員の2名が亡くなり、1名が重症を負っています。

 原子炉燃料には、ウラン235と共にそれほど不安定でないウラン238が大部分の96%含まれています。ウラン238ウラン235核分裂で発生した高速中性子が衝突して生み出されるのがプルトニウム239です。プルトニウム239は、自然界にはごく微量であり、放射性物質として危険であることはもちろん、化学物質として発がん性もあり極めて猛毒です。臨界量がウラン235より少なくてすみ、核爆弾の原料として用いられています。

 中性子ウラン238 → ウラン239
 ウラン239 → ネプツニウム239 + β線
 ネプツニウム239 → プルトニウム239 + β線

 

 地球上の生命が放射線の中を生き抜いてきたということは事実です。放射線によって細胞内の遺伝子(DNA)の切断が起きることも知られています。生命にはDNAが受けた傷を修復する能力も身につけていますが、突然変異を誘発する原因となっており、種の進化を促してきた面もあります。自然放射線ならば自己修復できますが、大量な放射線を受けると、DNAがずたずたとなって大量に細胞が死んで生命が途絶えたり、がん細胞として変異することもありえます。

 原発事故が起きる前は気にしなかっただけで、放射線は私たちの周りを飛んでいます。核の時代とも言われる現代において、浴びる放射線の量を管理することは重要で、もしかしたら日常的なことになりつつあるのかもしれません。半減期(半分に減るまでの期間)2万4400年にもおよぶ人類が作り出したプルトニウム、多様な核分裂生成物が含まれた核燃料廃棄物を人類が管理し続けることができるのか疑問に思います。地球の磁気圏を超えれば、高密度の宇宙線放射線)が飛び回っています。それに対する防御方法を確立しなくては、人が搭乗した惑星間航行を達成することはできません。

Coronal Mass Ejection: Artist Concept (NASA, Sun)

参考文献

  1. 知っておきたい放射能の基礎知識 (サイエンス・アイ新書)
  2. 放射線のひみつ
  3. 増補新版 地底から宇宙をさぐる――ニュートリノ質量が発見されるまで
  4. 宇宙のつくり方
  5. 宇宙災害:太陽と共に生きるということ (DOJIN選書)