チーム・マネジメント

チームマネジメント、人間-機械システム、そしてヒューマンファクターズを考える

警報をシステムとしてとらえ直す【警報システム】

 警報(Alarm)は、日常生活の至る所に掲示されていますが、当たり前すぎて深く考察することはありませんでした。警報に対する受け取り方も日本と海外では異なるような気がします。日本では様々なことに「注意」「注意」「注意」と喚起されますが、警報に対する行動を学んだとすれば避難訓練くらいでしょうか。警報をシステムとして理解していないからか、シビア・アクシデントに対する実効的な避難計画が策定されていなくても、経済的利益が優先されるのでしょうか。

 日本では「警報」や「注意」が混在して用いられますが、欧米では「危機(Danger)」「警告(Warning)」「注意(Caution)」が意味する深刻度は明確に異なります。危機(Danger)ならば、正に危険できわどい状況であり、避けなければ死亡や重症を負うことを示しています。警告(Warning)は、潜在的に危険を伴う状況であり、避けなければ死亡や重症を負う可能性があります。注意(Caution)は、潜在的に危険を伴う状況であり、避けなければ中度の怪我または軽傷を負う可能性があります。

 警報の目的として、安全化(Safer World)、情報提供(Provide Information)、誘導される行動(Influence Behavior)、注意喚起(Reminder)があげられます。警報によって、危険を回避して安全な状況を保つとともに、危険レベルを通知します。警報を受けた者は、それが意味する危険度を理解し、即座に対処すべきかを決断します。警報に応じた適切な対応をできるように、緊急時の手続きや行動指針を理解し、訓練等を通じて習熟しておく必要があります。定期的に警報について確認して、それらの習得した知識を再認識させ、いざ緊急時には確実に対処できるようにせいます。

 安全を図るには、ハザード制御(以前の記事 危険や不測の事故を避けるために 【ハザード制御】 - チーム・マネジメント)について述べたように、設計によって先ずハザードを排除し、排除できなかったならばハザードから防御して影響を抑え、排除そして防御ができなければ警報にて対処することになります。

 警報をプロセスとして捉えると、①警報が発令されたことに気づかせる、②警報が示す内容や深刻度(危機、警告、注意など)を伝える、③もし警告を留意しなかった場合に起こり得ることや生命への危機などを理解させる、④危険のリスクを下げ、更に取り除くための適切な行動を取らせる、の順番となります。各段階が適切に流れなければ、警報システムは機能しないことになります。

 ①気づかせの段階では、人は基本的に警報状況を確かめたりしないため、警報発令は十分に目立つ必要があります。気づかせるために、警報は何らかの媒体を介して伝えられます。標識などに印刷されて掲示されたり、コンピュータの画面にポップアップウィンドウが表示されるかもしれません。これらの視覚を通じた警報は、注意を向けて見ないと気づかない欠点があります。他のこと(他の画面)に気を取られていると、見落とすかもしれません。

 火災警報や地震速報についてメロディで識別できるように、音声による警報は、無指向性の性質もあり、間違いなく注意を引くことができ、視覚による警報よりも利点があります。他の媒体として、家庭で使用されるプロパンガスは本来無臭ですが、ガス漏れを嗅覚で気づくように放臭剤が付加されています。自動車の運転補助として、危険な状態を感知するとハンドルを振動させて通知するシステムもあります。

International Space Station siren by esaoperations | ESA ESOC | Free Listening on SoundCloud

 ②伝えるの段階では、警報の内容、何が進行しているのかをメッセージとして伝達します。視覚による情報提供が中心になってきます。危機(Danger)、警告(Warning)、注意(Caution)を伝えることで緊急度が理解できますが、米国では色でも識別できるように、危機(Danger)は赤地に白い文字、警告(Warning)はオレンジ地に黒い文字、注意(Caution)は黄色地に黒い文字で描かれます。標識などでも用いられているように、図形を伴ったメッセージならば、伝える内容が明確になり、警告を受けた者は認識しやすくなります。

 ③理解させるの段階では、伝えられたメッセージから自らが置かれた状況を認識させることになります。実際に警報が発令された直後よりは、事前の学習や訓練が重要になってきます。危機(Danger)や警告(Warning)の意味を知っていれば人命に危機が迫っていること、表示されるメッセージを理解できれは回避しなければ事故に至ることを認識できます。理解を深めれば、警報について熟知することができ、警報に対して敏感になり、迅速な対応がとれるようになります。

 ④行動を取らせるの段階でも、事前の訓練が重要となってきます。「訓練は実戦のように、実戦は訓練のように」と言われるように、警報が発令された場合の行動について繰り返して訓練を積むことが求められます。例えば、津波警報が発令されたら迷わず高地へ逃げる。この行動が取れるかで生死を分けてしまいます。

 警報システムを構築した後で、実際の稼働において問題となるのは誤報です。説明するまでもないですが、誤報とは危機でもないのに間違って警報を発令することです。たまに発令された誤報ならば予行演習の一環にもなりますが、頻繁に誤報が生じるとその警報に慣れて信じなくなり、真の危機が起きても対処できなくなります。それこそオオカミ少年の効果です(英語ではCrying Wolfであり、Wolf Boyでは通じません)。

 逆に重大事態になるまで警報が出されないと、ボーダム・パニック(以前の記事 自動化がもたらす弊害 【ボーダム・パニック】 - チーム・マネジメント)でも説明しましたが、異常はないと思っていたところ、徒然に深刻な事象であることの通知がなされれば、パニックとなって迅速に対応できません。警報システムの設計において、どのような警報をどのような基準で発令するかの検討そして評価が全体の信頼性をあげるために重要となります。

 大規模な事故や緊急事態となれば、短時間に多数の警報が表示され、様々な警報音も鳴り響きます。このような状態を「クリスマス・ツリー(Christmas tree)現象」とも呼びますが、何が重要なのかを把握できず、混乱を極めてしまいます。1979年に起きたスリーマイル島(Three Mile Island)原子力発電所で起きた事故でも、クリスマス・ツリー現象も伴って、炉心の冷却状況が把握できず、運転員の判断ミスで注水を止めてしまって炉心溶融を招いてしまい、重大な原子力事故に至っています。

 2011年の福島第一原子力発電所事故ではどうだったのか? 様々な事故報告書を拝読させていただきましたが、クリスマス・ツリー現象よりも更に危機的な事態に陥っていました。地震直後には様々な警報が鳴っていましたが、津波による浸水によって全電源が喪失し、中央管制室も真っ暗となり、各種の計器もすべて表示しなくなりました。完全にブラックアウトして、最後の砦である警報システムも喪失していました。数区画離れた原発が暴走し始めていますが、懐中電灯をかき集め、手探りで周りの状況を知ることしかできませんでした。安全確保の基本である「止める」「冷やす」「閉じ込める」のうち、停電前に核分裂反応の停止が確認されたものの、冷却できずに水素爆発そして炉心溶融に繋がりました。

 警報は鳴れば良いではなく、確実に安全を確保して機能するためには、警報システムとして見直しが必要かもしれません。ハードウェアのみではなく、ソフトウェア(規定、手順など)やヒューマンウェア(教育や訓練を通じて)の改善も求められます。

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Credit: NASA
 

参考文献

  1. Designing Effective Warnings
  2. Warning Research: An Integrative Perspective
  3. 「失敗学」事件簿 あの失敗から何を学ぶか (小学館文庫)
  4. 「信じられないミス」はなぜ起こる―ヒューマン・ファクターの分析 (中災防新書 (004))
  5. 福島原発事故はなぜ起こったか 政府事故調核心解説
  6. メルトダウン 連鎖の真相