チーム・マネジメント

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空を飛ぶために 宇宙へ向かうために 【シミュレーション技術】

シミュレーション(Simulation)とは「システム挙動をほぼ同じ法則に支配される他のシステムまたはコンピュータによって模擬すること」を意味します。航空の分野でも古くから活用されています。例えば、航空機の空力特性を計測するため、実機サイズに対する実験では大規模になってしまいます。そのため、ミニチュア模型を風洞に設置してデータを取得し、風洞実験データを実機サイズに換算して空力特性を特定します。

スーパーコンピュータ『京』について話題になっているように、コンピュータの演算速度が超高速になったため、全て数値計算によってシミュレーションを実施することも行われています。ただし、準備には膨大な作業と能力が要求されます。

航空宇宙において、シミュレーションの適用範囲は、模擬実験としてだけでなく、模擬訓練の要素も大きくなってきました。航空機のシミュレーション技術が、フライトシミュレータ(Flight Simulator)として汎用ゲームとしても知られるようになりました。フライトシミュレータは、パイロットの訓練用として開発され、最新のシミュレータでは、フライトの模擬度も高くなり、加速感、振動、音なども感じられ、実際にコックピットに座っているかのようです。

パイロットの育成訓練として、実際の航空機を操作して操縦スキルを習得します。しかし、実際に航空機を飛ばせば、燃料代や機体整備などが必要となってきます。訓練中に操作を誤れば、機体を損傷するリスクそして人命を失うリスクも伴います。そのため、一部の訓練をシミュレータによって行うことに利点があります。

更に進んでシミュレーションにしかできないこともあります。最悪の状況も模擬できますので、着陸態勢時において急激なダウンバーストに見舞われたケース、1台のエンジンが停止したケース、電源を喪失する不具合が発生したケースなどがあげられます。実機訓練ならば事故につながる可能性もありますが、シミュレーションならば対処できなくても深い疲労感を感じるだけです。

シミュレーションならば失敗してもその後対処できるスキルを身につければ良いはずです。訓練で経験したことが実際に発生しても、対応を理解していて自信があるため、冷静に対処できます。アメリカ海兵隊において伝承されているように「平時に汗を流せば、戦時に血は流れない」。時として冷や汗かもしれません。

有人宇宙において、宇宙飛行士として選抜されていても、最初は誰も宇宙に行ったことがありません(当然ですが)。宇宙船を模擬したシミュレータにおいて訓練を積むことになります。宇宙船の挙動をコンピュータによって実際のように見せなくてはならなく、複雑に入れ組んだロジック、膨大な数式によって実現されます。

宇宙飛行士及び地上の管制官が参加するシミュレーション訓練を提供するため、シミュレーションシナリオを作成し、宇宙船シミュレータを操作するシミュレーション・チームが別に組織されます。シミュレータを宇宙に飛んでいるように動かすわけですから、シミュレーション・チームも宇宙船を深く知る専門家(Expert)である必要があります。

シミュレータから生成されたデータは、宇宙船のコックピットや管制センターのコンソール(Console)へ伝送されます。それを確認しながら、宇宙飛行士がスイッチを操作したり、管制官が指令(Command)を送信することによって、シミュレータのコンピュータが宇宙船の挙動を模擬し、ループ状となって最新ステータスのデータを送り返します。

シミュレーション訓練は、ノミナル(Nominal; 計画通り)ケース、コンティンジェンシ(Contingency; 不測事故)ケースの大きく2つの区分に分けられます。ノミナルでは、事前に立案した運用計画通りにシナリオを流して、ミッションが達成できることを確認します。特に、宇宙飛行士と管制官の連携、意思決定ポイント、手順の習熟などが評価されます。

コンティンジェンシでは、例えば、シミュレーション・チームが宇宙船の一部機能を不能(Malfunction)にして、宇宙飛行士及び管制官が異常を発見して、影響を評価し、決められた安全化処置を的確に実施します。その後、ミッションを達成するための回復措置、更に不具合箇所や故障を復旧させます。

特にコンティンジェンシケースでは最初から完璧な対応はできません。シミュレーション後に反省して、規則や基準を明確にして即時に判断できように準備したり、システムへの理解を深めたり、出来なかったことを手順に追加したり、課題の解決に向けて進んでいきます。シミュレーションを多く経験して、反省を繰り返すことによって、実際の宇宙飛行へ向けた準備ができます。

シミュレーションを通じて、未知であり、宇宙に行ったことが無い人が宇宙を理解するプロセスは有人宇宙特有なことかもしれません。宇宙飛行士が語るのは、宇宙に行っても、地上の訓練でしていたことと変わりなく、見慣れた環境であったと話されます。

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Credit: NASA


参考文献