環境変化に耐えられる力 【ロバスト性】
システム開発において、想定した環境下において、当初の目的を達成するシステムを開発する。当然なことと思いますが、想定外の状況となっても、必要最低限の機能は維持されるべきであり、システムを崩壊を食い止めなければなりません。
2011年 福島原子力発電所の事故について様々な報告書が作成されています。明らかになってきているのは、地震が直接的な原因ではなく(地震は想定内)、国会等でも指摘されてながら津波対策が取られていませんでした。致命的だったのは津波によって多重系の冷却機能を全て喪失したことにあると理解しています。再稼働が問われていますが、電力が途絶えた場合の炉内冷却に対する対策が十分議論されていないと感じます。
制御系設計において、制御対象を数式で表した理論上ののモデルに対して制御は良好であるが、実機に対して適用してみると予定していた性能が出ないことが課題として見えてきました。そこで、モデル誤差があっても良好な制御性能が保てるように、ロバスト制御(Robust Control)の研究が進められています。
ここでロバスト(Robust)の定義ですが、日本語に直訳すると「頑健な」となりますが、少し意味が違うような気がします。もともとの意味は、生態学から由来しており、生態系における相互作用ネットワークが質的に変化しないことを指しています。すなわち、環境の変化に耐えられる生態系の許容力を表しています。
一般的な意味では、システムが持つ変化に対する許容力を示しており、外力が加わってもその影響をうまく吸収し、システムが持つ機能や構造、自己同一性やフィードバック効果を本質的に保ちながら、自らを再編成することのできる能力として定義しています。
生態系(人間の身体も含む)ならば高いロバスト性(Robustness)を発揮します。大きな自然災害が発生して、生態系が根こそぎ破壊されたとしても、何も無くなった土地へ何処から植物の種子が飛んできて草花が芽吹き、そして昆虫が姿を現します。鳥たちも渡りつき、動物も顔を出します。生命の星「地球」において、灼熱の大地、大氷河時代、隕石衝突によると見られる恐竜時代の終焉も超えて、地球上に生命を維持し、育んできました。
人間の身体でも、利き腕が不自由になっても逆腕で器用に使えるようになったり、左脳に障害を持って言語機能を失ったとしても、訓練と意欲によって右脳に言語機能を取得したり、視力を失うとそれを補うために聴力が研ぎ澄まされたりとロバスト性を確認できます。
自動化された機械で機能の一部を失えば、冗長構成になっていれば切り替えるだけで済みますが、システムを崩壊させないように自ら再構成することは難しいです。システム停止によって安全化できるならば、最終的な自動処置として停止を組み込んでおけば良いですが、航空機、宇宙システム(人工衛星にはスピンモードと呼ばれる安全処置があります)、原子力発電所などではシステム停止が危険状態を招くことになります。
実際のシステム運用では、一部故障が生じたとしても、運用を継続しなければなりません。その時に、人間である運用者の真価が問われることになります。
Credit: NASA
参考文献