チーム・マネジメント

チームマネジメント、人間-機械システム、そしてヒューマンファクターズを考える

人間を育てる難しさ 教えるのか? 学ばせるのか?

やってみせて、言って聞かせて、させてみて、 ほめてやらねば人は動かじ。
話し合い、耳を傾け、承認し、任せてやらねば、人は育たず。
やっている、姿を感謝で見守って、信頼せねば、人は実らず。
                  連合艦隊司令長官 山本 五十六

教育や人材育成は組織にとって重要課題であることは間違いありません。数多くの組織が独自の教育プログラムを持っており、何が正しい、正解が一つという訳にはいかないと思います。ここでは、運用管制チームの育成を通じて、私が考えていることについて述べていきます。

 

チームに初めて配属された新人にとって、先輩方の姿を間近で見て、自分も一人前になろうとモチベーションも高まります。人間は、先人の背中を見て、真似て、学びながら成長していくのだと思います。我々も、その視線を感じて、正しい姿勢や前向きな情熱を失わず、気持ちを引き締めなければなりません。そして、正しい姿勢を伝搬させていく必要があります。

 

大学では実務で直ぐに活用できない学術的知識(人生にとって重要となることもあります)を教えられ、仕事の現場では直ぐに活かせるスキルや経験が求められます。このギャップを新人教育やOJTを通じて埋めるしかないのが実状です。即戦力を求められる時代において、充分な教育期間を与えられません。運用要員として認定されるための訓練に2年程度必要でしたが、コスト削減の下では可能な限り短期間で仕上げることが求められます。そうなると、最低限のことを教えるので手一杯です。

 

カリキュラムに沿って手短にノウハウや要領だけ教えれば、定型的で機械的な仕事には困らないかもしれません。実際の運用において、様々な異常や不具合が発生し、刻々と状況も変化していきます。そのような中で、教わっていなかった、マニュアルに書いてなかったといって、「システムを崩壊させました」、「搭乗員を危機に晒しました」などの言い訳にはなりません。

 

教わったことが最低限できるレベルを「運用者(Operator)」と呼んでいますが、困難な状況に遭遇しても解決できる能力・スキルを備えた要員が「管制官(Controller)」であると私は考えています。完璧な管制官は理想像なのかもしれませんが、毎日を振り返って私も至らない点は幾つもあります。理想像を掲げて日々レベルアップを図る真摯さは、システムそして命も預かる者として必須の条件かもしれません。

 

管制官への道では、他人に教わる姿勢から自ら学んでいく姿勢へ変わる必要があります。しかし、新しい被訓練者(候補者)は、判断基準が確立しておらず、良いと悪いの判断に迷うことが大部分です。そのため、教官(メンター: Mentor)が被訓練者を指導して一人前に育てていきます。指導にあたって、正しい姿勢を評価し、悪い行動は修正していかなければなりません。

 

一つひとつの行動に対して、テストのように○又は✕が明確につけられる訳ではありません。そして、ダメと思われた行動を指摘して、それを排除しようとしても、根底にある考え方を修正しないと難しいかもしれません。また、厳しいコメントやミスをきつく指摘すれば、受け手は保身的になって負の感情を抱き、素直に受け入れないかもしれません。フィードバックにおいて、まずは良いところは誉め、次に改善すべきことを伝えます。その際、改善しなければならない背景も強調して伝えることが重要です。

 

判断基準を身につけさせるため、やってはいけないこと すなわち 悪い点のみを強調すると、訓練を通じて植え付けられた多くの制約の中で任務を遂行しようとします。押し寄せる制約の中で、重要で実施していけないことを取りこぼし、大事故を起こす危険性があります。それに対して、重要な制約のみを徹底的に覚えさせて、自ら改善できる能力を訓練すれば、訓練後も日々進歩していき、事故につながるようなミスを犯すこともありません。

 

訓練を与える側で気を付けなければならないのは、ネガティブトレーニング(Negative Training)になっていないか常に監視する必要があります。ネガティブトレーニングとは、データが古かったり、間違った情報、訂正されていない旧版の手順等に基づいて訓練を実施することです。ネガティブトレーニングを通じて技能を身につけてしまうと、それを直すことは1から訓練するよりも倍以上の訓練時間が必要となります。最悪のケースでは被訓練者の生涯を左右しかねない恐れもあります。

 

私も業務の中で人材育成の難しさを実感しています。今回の考察が少しは参考となればと思います。

 

 

 

参考文献

 

  1. Developing the Leader Within You (Maxwell, John C.)
  2. 和訳 あなたがリーダーに生まれ変わるとき―リーダーシップの潜在能力を開発する
  3. 宇宙飛行士の採用基準 例えばリーダーシップは「測れる」のか (角川oneテーマ21)

 

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