チーム・マネジメント

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チームの決定事項に多数決を適用すべきなのか【多数決】

民主主義(Democracy)において、多数決は基本的原則の一つであり、多数決で物事を決定することに疑いもしませんでした。日常の会議において多数決で決定することはあまりないと思いますが、国会、議会、3名以上の裁判官による裁判、会社の取締役会や総会においても、多数決の原理が適用されています。

チームの意思決定における多数決の有効性を考察していたところ、イギリスの国民投票においてEU(European Union)離脱が多数決の過半数で決議されました。その結果について、ここで議論するつもりはありませんが、多数決について一歩進んで特徴や問題点をまとめておきます。

多数決(decision by majority, majority rule)の定義を再確認しておきます。多数決とは『会議などで賛成者の多い意見によって集団としての意思を決する方式』です。説明するまでもなく、いたってシンプルな方式です。しかし深く考えてみると、賛成者の多い意見が最も良い決断であるのか、多いとは過半数(全体の半数を1でも超える)で良いのか、投票権を持つ人の範囲はどこまでか、1人が投票できるのは1票で良いのかなど疑問がわいてきます。

多数の意見が正しいのかとの問いには、日本でも裁判員制度が導入されましたが、陪審定理(Condorcet's jury theorem)が一つの根拠にあげられます。陪審定理は、正しい判断をする者が過半数となる確率は、陪審員の人数が増えるにつれ、100%近くまで上昇するということです。しかし、真実でないことで陪審員裁判員)が操作され、無罪となるはずが有罪となる危険性はあります。

決定事項の正当性を問う決議ならば良い結果が得られそうですが、選択を問う多数決ならばどうでしょうか。多数者の権利が強くなって少数者の権利が軽んじられる選択、それに対して少数者の権利が強くなる選択があるとすれば、多数決では必ず多数者の権利が強くなって、少数者の支配が正当化されてしまいます(多数者の専制)。正にマイノリティー(minority)に対する問題です。

近年、投票率の低下が問われて改善の兆しも見えませんが、棄権者が多い場合の多数決による決定は有効なのでしょうか。代議制(選挙などで選出された代表者が政治を行う制度)ですと、投票率50%でちょうど過半数を取ったとすれば、全体4分の1(25%)の賛成者の意見によって全てを決定できることになります。

多数決というと、多くは過半数が基準となりますが、特別な条件が付いた3分の2や4分の3が決定するときの基準となることもあります。数学者ラプラス(Laplace)も多数決について考察していますが、過半数による決定には欠陥があり、多数決が間違っている可能性があると指摘しています。原則的な基準には絶対多数が求められるべきとも言っています。満場一致が最も優れていることになります。

多数決の矛盾として、ペア敗者(候補者2人毎の多数決での敗者)が全体での多数決だと最多票を得て勝利してしまうことがありえることです。これを防止するために票の重みを変えたボルダ(Borda)方式があります。例えば、選択肢が3つとしたら、1位には3点、2位には2点、3位には1点というように加算して、その総和で全体の順序を決めるやり方です。ボルタ方式ならば、通常の多数決と比較して、満場一致と近い結果が得られます。

しかし、ボルタ方式には実務上で問題があります。良いと判断した順位に従って誠実に3点、2点、1点と投票すれば結果は有効ですが、私意が入って、推薦する候補者に3点を入れ、対抗者は2位であるが推薦する候補者に脅威となるから1点にしたりします。このような操作が入ると、ボルタ方式による結果に意味がなくなってしまいます。そのため、議案によってボルタ方式を使い分ける必要があります。

会議における決定も論理的に結論が導きだされず、その場の成り行きで決まることもあります。多数決による決議でも場が持つ雰囲気に左右されることは明らかです。ポピュリズム(Populism)が話題となりますが、理性的に判断する知的な市民よりも、情緒や感情によって態度を決める大衆を重視し、その支持を求める手法のことです。そして、投票のタイミングによって全く正反対の結論が出る可能性があります。

会議等において議長となる人は、その場の流れを支配したり、議決するタイミングを選ぶことができます。多数決には投票の逆理(Paradox of Voting)と呼ばれる問題が知られています。例えば、選択肢として3案あり、ここではA案、B案、C案とします。3案を多数決で決めようとしたところ、どの案も過半数には達せず、3分の1ずつの賛成者がいたとします。このままでは決定できません。フランス人のコンドルセ(Condorcet)が指摘し、コンドルセパラドックスとも呼ばれています。

そこで、先ずはA案とB案で多数決を行い、A案が過半数ならばA案とC案で多数決を行って決定します。正当なように聞こえますが、多数決を行う組み合わせで結論が変わってきます。その組み合わせを選べるのも議長で、自らの判断で求めている結論を導きだせます。

人間の行動なので、全てが合理的に決まるよりは、感情に左右されることもあります。多数決を使いこなすには、広い見識を持って良識がなければ、もっとも正しい結論は導きだせないかもしれません。

 

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参考文献

  1. 多数決を疑う――社会的選択理論とは何か (岩波新書)
  2. 数と正義のパラドクス 頭の痛い数学ミステリー
  3. 会議を制する心理学 (中公新書ラクレ)
  4. 「空気」の研究 (文春文庫 (306‐3))