チーム・マネジメント

有人宇宙の運用管制から、チームマネジメント、人間-機械システム、そしてヒューマンファクターズを考える

質問する意義について問う 【質問する力】

 日本における教育の弊害として、試験やテストでは正解がある質問が取り扱われます。採点でも〇または×が明確になっています。一歩でも社会に出れば、答えが明確な問題などありません。白と黒で色をつけるとすれば、全ての回答(決断)はグレーであり、限りなく白に近いグレー、限となく黒に近いグレーとなります。
 チーム活動において、質問することの重要性を認識するようになりました。と言っても、テストで出題される質問形式ではありません。メンバーとコミュニケーションを取るにも、ただ自分の考えを述べるだけでは不十分であり、言葉のキャッチボールが必要となります。促進するための鍵となるのが質問することです。


 質問による力を見直してみます。人間は質問されると、意識しているかに関わらず、考え始めて、答えを見つけ出します。質問を受けて脳活動が活発になることも知られています。すなわち、質問によって相手を動かすことができます。ここで相手を動かすと言っても、こちらが望んだ通りに動いてくれる訳でなく、相手を強制的に考えさせるだけです。質問は相手に負荷をかけることになるので、質問を続けて追求してばかりでは相手から拒絶されるかもしれません。


 質問のタイプとして、はい(Yes)、いいえ(No)で回答できる単純質問があります。事実を明らかにするためには良いかもしれません。質問されたほうも深く考えずに回答ができるため、相手に負担を与えません。二者択一の質問も同様かもしれません。その反面、質問をしてもお互いの発想が広がっていきません。
 二者択一から正解を出す、例えばいろいろ議論をして一つの案を選択する。一見して正しい決定のように見えます。その前に、二つの案についての矛盾を質問して、発想を広げ、第三の案を見出すことも求められます。質問には基本的に5W1H("いくら(How much)"を追加した5W2Hも提唱されています)で表されます。その中で、なぜ(Why)は本質に迫る質問として重要です。(以前の記事


 質問者の姿勢に基づくタイプの違いもあります。質問する上で注意しておくべきことは、ポジティブ(Positive)質問とネガティブ(Negative)質問です。ポジティブ質問は現状を肯定して相手を誘導する質問、ネガティブ質問は現状を否定して相手を誘導する質問となります。ネガティブ質問で、相手を追い込んでしまえば、相手と精神的な壁ができ、負の感情に基づいて相手は答えることになります。好意の返報性に基づいて、自分に好意を持ってもらうには、相手に好意を持つことが必要です。ポジティブ質問に心がけ、少しの言い回しの違いが質問力を大きく左右します。


 質問の目的として、相手を理解し、自らが置かれた状況や環境を理解し、そして省みて自分を理解するためです。すなわち、質問力は人間関係の構築において基礎となる力となります。電子メールやSNSを通じて、逐次質問していてはトラフィック量が多くなるだけで、質問力は活かすことはできないです。雑談、面談、ミーティングの場において質問力は発揮されます。
 質問によって、相手を説得し、相手の行動を修正していくことが行われています。物理学の作用・反作用ではないですが、人に何かを押しつけようとすると、同じ力で反抗しようとすることがあります。その特性を認識して、質問の仕方によって、命令する形ではなく、相手から自らの行動を選択させるようにできます。


 何気なく活用している質問力を体系的にまとめておきたいのでいろいろと整理してきました。単純と思える質問ですが、調べてみると奥が深いです。実務に活用していきます。

 

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Credit: NASA

 

参考文献

  1. ビジョナリー・カンパニー 2 - 飛躍の法則
  2. 社長の質問力 ―社員が勝手に動き出す
  3. 最強の質問力―未知の能力を引き出し合う究極の思考法
  4. 人を動かす質問力 (角川oneテーマ21 C 171)
  5. できる営業マンの「質問力」入門
  6. 質問力―論理的に「考える」ためのトレーニング (日経ビジネス人文庫 (い5-2))

 

空気を知り、生存していくために 【空気】

 私たちは、空気(air, atmosphere)を目では見えず、日常では意識することはありません。空気はあって当たり前の存在と思っています。無くてはならないが意識しないことを「空気のような存在」と呼んだりもします。存在しないわけではなく、空気の流れを風として感じ、空気が汚れていると息が詰まります。そして、最近では「空気を読む」ことが強調されます。

 

 当たり前のような空気ですが、地球の大気圏の最下層にある気体のことを示しています。無色透明で、主成分は窒素(nitrogen)が約78%、酸素(oxygen)が約21%、残りの大部分はアルゴン(argon)等の稀ガスから構成されます。地球温暖化の原因とされている二酸化炭素(carbon dioxide)は、現在の構成比として0.035%ですが、18世紀には0.028%であり、急激に上昇しています。人間は、空気中の二酸化炭素が3~4%を超えると頭痛・めまい・吐き気などを催し、7%を超えると数分で意識を失います。
 二酸化炭素には水蒸気と同様に赤外線を吸収する性質があり、地球から宇宙向けて放射される熱放射の一部を吸収して、地表面付近の気温を上昇させる働きがあります(温室効果 greenhouse effect)。氷河が溶けて海に氷解する映像、異常気象のニュースから地球温暖化(global warming)を知ることができます。気温上昇が抑えられれば良いですが、このまま続けば悪循環のスパイラルに陥る可能性があります。すなわち、気温が上昇して海などから水が蒸発して水蒸気となります。水蒸気も温暖化ガスであり、大気中に増えた水蒸気によって温室効果が高まり、更に水蒸気が増えます。この循環が暴走していき、地球の海から水がすべて蒸発したら、気温は1000℃を超えて、もはや地球上には生命が生存できなくなります。二酸化炭素が約97%の金星(Venus)のように灼熱の大地に。
 空気から呼吸で取り込んでいる酸素は、人間を含む動物にとって必要不可欠な気体ですが、酸化(酸素と化合すること)からイメージするように、必ずしも良いだけではわけではありません。まず酸素は我々の身体も構成する有機物を分解する作用があります。私たちが活動するためには、摂取した食物を分解して、ブドウ糖(grape sugar, d-glucose)を生成します。ブドウ糖を酸素で分解することによって、活動に必要なエネルギーを取り出すとともに、酸素との化合物である二酸化炭素と水に分解します。
 上空10~50 kmの成層圏では、太陽からの紫外線を受けて、酸素原子2つからなる酸素分子が分離して原子状の酸素が発生します。更に原子状の酸素と酸素分子が結合して、酸素原子3つからなるオゾン(ozone)が生成されます。このオゾン層が太陽からの有害な紫外線を吸収し、地上へ届く量を減らす働きをしています。冷蔵庫の冷媒やスプレー缶に使用していたフロン(flon)などが成層圏で紫外線で分解されて塩素原子(chloride ion)を生じてオゾン層を破壊することがわかり、南極大陸上空にオゾン層に穴があいたオゾンホール(ozone hole)が確認されました。それに伴い、白内障や皮膚がんが増加したことが報告されています。1987年に「オゾン層を破壊する物質に関するモントリオール議定書」が採択され、フロンなどの生産・使用を規制されています。その成果もあって、オゾンホールは縮小していることが確認されています。人類が環境改善できた良い事例となっています。

 

 ここまでが科学的な空気の説明ですが、日本人が敏感になっている「空気」の存在もあります。「空気を読む」ことが求められ、読めないとダメな烙印を押されかねません。その場の空気が支配して、最終的な決定も下したり、みんなを圧倒する力を持っています。実体はなく、科学的には解明できないです。
 その「空気」を理解するため、「世間」が衰退してきて流動化したものが「空気」であるとの説明には納得させられました。旧来の日本には村社会があり、生活する世の中が世間でした。その世の中で生きていくためには、その一員として、決まりや掟を守ることが求められます。「世間」を構成するルールとして、①贈与・互酬の関係、②長幼の序、③共通の時間意識、④差別的で排他的、⑤神秘性(呪術性)が挙げられています(参考文献4を参照してください)。5つのルールのうち、幾つかだけが機能している状態が「空気」だと言うのです。
 欧米では宗教によってそのような掟を啓示していますが、宗教心が薄いというか、あまり意識していない日本人だから空気に左右されるかもしれません。農耕が中心であった日本人にとって、神道の影響もあり、村そして世間が絶対の存在でした。工業・商業化の波を受けて、農作が中心であった世間から離れ、会社がその役目として①贈与・互酬の関係、②長幼の序、③共通の時間意識を担うようになりました。終身雇用・年功序列も崩れており、その役割を担えなくなってきています。現代では、その代わりとして、空気に求める構図となってきていると思われます。それは自分が所属する共同体を探していることになるでしょうか。
 しかしながら、恒常的ではなく不安定な空気によって、重大な事項が決定されるならば、その影響は計り知れないものになります。決定が遂行される頃には、そんな空気は消尽してしまい、何故その結論が導き出されたのかも理解できなくなります。そんな不完全な空気に左右されるのは怖い気がします。山本 七平さんは、歴史を振り返り、太平洋戦争への突入、戦艦大和の特攻などを空気の観点から再考しています。

 

 チームは共同体であり、気をつけないと不安定な空気に包まれる危険があります。先に述べた「世間」を構成するルールのうち、③共通の時間意識や④差別的で排他的は特に当てはまりやすいです。チーム活動において、全ての空気が悪いわけではなく、前向きでチームをまとめる良い意味での空気が醸し出されることもあります。
 空気が支配で問題となるのは、対立する価値観を認めず、絶対価値観のみで冷静な論理根拠も伴わず、物事が決まってきたら注意すべきです。一体化がチームの特徴でもありますが、チーム内での対立や摩擦を全て排除するためには、自らの意見を抑えて空気に従わなくてはなりません。山本 七平さんは、そんな空気に対抗するために「水を差す」という言い方で対案を提言しています。

ある一言が「水を差す」と、一瞬にしてその場の「空気」が崩壊するわけだが、その場合の「水」は通常、最も具体的な目前の障害を意味し、それを口にすることによって、即座に人びとを現実に引きもどすことを意味している。  山本 七平

 客観的な事実で現実に戻れれば、空気による過ちは低減できるかもしれません。気まずい空気でも、ユーモアで笑いを起こせれば、吹き飛ばすことができるかもしれません。もし空気が支配しているが、水を差すことができなければ、時間かせぎや先送りも有効な方法かもしれません。その頃には空気は消滅しているでしょう。

 

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Credit: NASA

 

参考文献

  1. 空気のはなし―科学の眼で見る日常の疑問
  2. 生命の星の条件を探る
  3. 「空気」の研究
  4. 「空気」と「世間」 (講談社現代新書)

 

我々が進む道を自ら定めて更なる高みへ【ミッション】

われわれは月へ行くことを選びます。この10年のうちに月へ行くことを選び、そのほかの目標を成し遂げることを選びます。われわれがそれを選ぶのは、たやすいからではなく、困難だからです。この目標が、われわれの能力と技術のもっとも優れた部分を集め、その真価を測るに足りる目標だからです。この挑戦が、われわれが進んで受け入れるものであり、先延ばしにすることを望まないものであり、われわれが、そして他の国々が、必ず勝ち取ろうとするものだからです。  ジョン・F・ケネディ大統領

アメリカの宇宙事業に関するライス大学での演説 - John F. Kennedy Presidential Library & Museum

 チームの定義として「ある目的のために活動を同じくする人々の集まり」とあり、ある目的 すなわち ミッション(Mission)は何かが重要となってきます。アポロ計画のように、誰もが理解しやすく、上層から設定されたミッションならば、チームとして結束して活動を進めることは難しくありません。

 チームを結成する以前の段階において、自らが進むべきミッションを設定することは生みの苦しさを伴う困難な活動です。ここでは、ミッション設計について考えていきます。

 ミッション(Mission)の定義について、日本語では「使命(与えられた重大な任務)」と訳されます。語源としては、最初は布教活動において用いられ、伝道師を派遣して信仰を広めることから来ています。そのため、日本語の「使命」には含まれませんが、ミッションのニュアンスには、教えを広める、派遣する、遠征するの意味合いも含まれています。ビジネスにおいてミッション宣言(Mission Statement)を掲げることがありますが、企業が果たすべき目的や企業の存在理由などを表明することになります。日本語で相当する用語には、社是(しゃぜ)や綱領(こうりょう)があります。

 ミッションには未知に挑戦する任務という意味もあるので、ここではミッションとの用語を使ってきます。日本ではミッションとの用語は一般的ではないので、使命、社是、志(心に決めた目標)の用語のほうが適している場合もあると思います。

 ミッション設計にあたり、ドラッカー(Peter F. Drucker)が重要な示唆を与えてくれています。ドラッカーは、リーダーが初めに行うべきは、自らの組織のミッションを考え抜き、定義することと語っています。

ミッションそのものは永遠のものでよい。しかし、目標は具体的でなければならない。目標は達成されて変わることがあって当然である。最も犯しやすい過ちが、ミッションによき意図を詰めこみすぎることである。ミッションはシンプルかつ明確にしなければならない。

ミッションの三本柱
第一に、機会すなわちニーズを知らなければならない。
第二に、自らの手にする人的資源、資金、そして何よりも能力によって世の中を変え、自ら基準となりうるものは何かを考えなければならない。自らが基準となりうるためには優れた仕事を行うことができなければならない。成果に新たな次元を持ち込むことができなければならない。
第三に、何を大切に思うかを考えなければならない。つまりミッションとは非人格的たりえないものである。

 ミッションのためにチームは活動していきますが、チームを構成するメンバーの観点から見れば、自分たちのミッションに共感でき、重大さを認識しているほど、自らの仕事に情熱を注ぐことができます。その結果チームとして成果があがり、その成果に対して自信が持て、誇りを感じることができます。ミッションは、宣言として外部に向けたメッセージであるとともに、チーム内のメンバーに向けたメッセージでもあります。

 ドラッカーが指摘したミッションに込めるべき三本柱は、良い企業が偉大な企業に成長する要因を研究したコリンズ(Jim Collins)が「ビジョナリーカンパニー②」において、「針鼠の概念」として指摘している項目と一致しています。「針鼠の概念」では、「情熱をもっと取り組めるもの」「自分が世界一になれる部分」「経済的原動力になるもの」の三つの円が重なる部分を目指すことです。

 ミッションというと、理想像や崇高な姿を描くことを考えてしまいますが、ドラッカーは機会やニーズを、コリンズは経済的原動力になるものを問っています。そうすると、世俗的で泥臭い内容になりそうです。言われてみれば、社是として崇高な思想を掲げている企業もありますが、それが組織の活動にどのように結びついているのか不明に感じることもあります。

 自分たちの能力や使える資源に限度があるならば、自分たちの強みを知り、その強みを生かすことが重要であることは言うまでもありせん。そのように考察してみると、ミッション設計の第一段階において、チームの強み(Strength)と機会(Opportunity)を検討するSWOT(Strengths, Weaknesses, Opportunities, Threats)分析は有効なツールなのかもしれません。

 自分たちの強みと機会を理解して、言葉に魂を入れて情熱を込めるのが、ミッションを制定する次の段階になります。ミッションの叩き台を草案して、多くのメンバーを巻き込んで白熱した議論を進めて、自分たちで作り上げた宣言として仕上げることが良いかもしれません。

本田技研工業 社是

わたしたちは、地球的視野に立ち、世界中の顧客の満足のために、
質の高い商品を適正な価格で供給することに全力を尽くす。

 ミッション(使命)やビジョン(目標)などを小さな1枚のカードにまとめたものを「クレド(Credo)」と呼ばれることがあります。クレド(Credo)とは信条のことであり、語源はラテン語で「我は信ず」から由来しています。1枚のカードに収めて、メンバーに常に携帯できるようにして、過ちそうになった時や決断に迷った時にカードを見て立ち返り、自らを問うことができます。

望遠鏡を修理したり、国際宇宙ステーションに新しい装置を取り付けたりするためのシャトル・ミッションのように、行動が決められている状況では、みんながひとつになるのは簡単だ。目的がきっちりと定められているし、期限もあるから、ほとんどの人は目的を達成するために集中力を保てる。でも、国際宇宙ステーションの場合、目標はもっとあいまいだ。実験を続け、ステーションを維持すること、細々とした清掃員的な仕事もたくさんあるし、家事とおんなじでいつまでやっても終わりが来ない。しかも、滞在期間が長いから、小さな不平やイライラが溜まっていき、いつしか大問題に発達しかけることもある。だから、第35次長期滞在の船長を務めたとき、僕は愚痴が会話に忍び込むのに気づくたび、あえて愚痴に歯止めをかけた。といっても、単に僕の意思を残りのクルーに押し付けるわけにはいかなかった。クルー自身が探検隊行動規範の価値を認めてくれたからこと、僕たちは不平不満の出ない集団になれたんだ。  カナダ宇宙飛行士 クリス・ハドフィールド

Credit: NASA

参考文献

  1. プロフェッショナルの条件―いかに成果をあげ、成長するか (はじめて読むドラッカー (自己実現編))
  2. ドラッカー名著集 4 非営利組織の経営
  3. 「ついていきたい」と思われるリーダーになる51の考え方
  4. Good to Great: Why Some Companies Make the Leap...And Others Don't
  5. 邦訳 ビジョナリー・カンパニー 2 - 飛躍の法則
  6. 経営の教科書―社長が押さえておくべき30の基礎科目
  7. 1枚の「クレド」が組織を変える!
  8. 宇宙飛行士が教える地球の歩き方