24時間/365日を闘い続けるチーム 【シフト勤務】
私たちのように24時間/365日に渡ってシステムを監視する業務に関わらず、病院や介護施設などで命を見守るため、更には効率性や利便性を追求して、交代勤務で業務を進めることも珍しくなくなってきました。
交代勤務では、徹夜といった一時的な対応と異なり、継続してシフト勤務(夜勤、遅勤など)が求められます。通常勤務と違って、シフト勤務に従事するだけで体力的にも精神的にも負担が大きくなります。人間が本来持つ生理リズムも乱れるため、夜更かしに強いから夜勤に強いという感覚では通用しないです(朝に早いシフトもありますし)。(以前の記事)
シフト勤務の大変さを身にしみて知っているため、病院やコンビニなどで明らかに夜勤の人だな(コンビニで食料を買い込むということは私も夜勤です)と思うと、「ご苦労さまです」と言いたくなります。ふと思うのは、社会が人間性よりも経済性を優先しているような感もあります。
不必要にシフト勤務が増えることは無駄だと思いますし、人間の能力を最大限に活かせず、生産性は低下していると思います。そのため、人工知能を活用してシフト勤務がない未来像を描きますが、命を守る仕事には必要不可欠であることは変わらないでしょう。今回はシフト勤務について考察していきます。
24時間連続して業務を回すためには、要員計画においてシフト勤務体制を取ることになります。シフト勤務体制には幾つかの交代制を引くことができます。
(a) 3交代制
一般的なシフト勤務体制であり、一つの作業担当に対して3名が交代して、8時間勤務を行うことによって、24時間をカバーします。引き継ぎ時間(30分から1時間)を考慮すると、実質8時間半から9時間(休憩時間を含む)の勤務となります。
(b) 2交代制
作業担当に対して2名が交代して、12時間勤務を行うことによって、24時間をカバーします。労働基準法にて1日8時間勤務(休憩時間を除く)との規定があり、必ず残業時間が発生することになります。
(c) 変則2交代制
例として、8時間勤務と16時間勤務の2名が交代して24時間をカバーします。16時間勤務とは、連続して2日分の勤務を行うことです。分かりやすいのは、16:00~24:00(0:00)、0:00~8:00のそれぞれを1日分の勤務として連続16時間勤務します。
注:勤務間インターバル規制が導入され、法律で義務付けられた場合、16時間勤務はできなくなります。(追記)
短期間や急遽要員が減って一時的に2交代制(12時間勤務)を取ることはあると思いますが、基本的なシフト勤務体制ではありません。毎シフト3時間以上の残業となってしまうため、1ヶ月の勤務日数を20日として概算しても、残業60時間以上となって労使協定の上限を超えてしまいます。
16時間勤務ならば残業超過の問題は発生しませんが、必要な要員数は3交代制と変わりはありません。16時間勤務を好む人もいますが、常に集中力が必要な作業ならば16時間を継続することは困難です。私の経験からも負担が多い勤務と感じます。
基本は3交代制となります。日勤(例 9時~17時)を基準にしても良いですが、続くシフトの勤務時間(例 17時~25時)の終了が深夜を回ってしまいます。そうすると公共交通機関が動いていません(多くの人が自動車通勤かもしれませんが)。そのため、早勤(例 7時~15時)、遅勤(例 15時~23時)、夜勤(例 23時~7時)の3つのシフトとなります。
必要な要員数も検討すると最低限5名が必要です。1ヶ月を30日とすると90シフトに要員配置が必要となり、5名ならば1人18シフトの勤務となります。実際には夏期休暇などの長期休暇や有給休暇の取得もあるため、常に少なくとも6名~7名の要員を確保する必要があります。更に、新規要員の訓練、シフト外作業、急遽の欠員などを考慮すると、7名以上ならば安心できます。
シフト計画の組み方も様々ですが、夜勤の割り当て方に最も注意を払う必要があります。体内時計を維持するために連続夜勤を2日までとする指針もありますが、連続夜勤2日で要員数7名ならば月2回以上(隔週毎)夜勤に入らないとなりません。連続3日とすると、夜勤サイクルに慣れた直後に通常サイクルに戻さなくてはなりません。連続4日とすると要員数7名ならば約1ヶ月(4×7=28日)毎の夜勤サイクルとなります。連続5日にすると心理的に長い気がします。
シフト勤務の生産性が低下する理由として、シフト勤務の時間に合わせて生活パターンを変え、無駄ともいえる時間調整が必要となってきます。夜勤が始まる前日を休日にしなければなりませんが、夜には出勤しなければならないため、実質上は休みとなりません。それに対して、夜勤の翌日が休日ならば長い休日となります。遅勤の翌日を早勤とすると、職場へ8時間以内に戻ってくる必要があるため、通常は計画しません。
交代勤務では、担当シフトから次シフトへ業務を引き継ぐため、30分から1時間くらいの引き継ぎ時間があります。引き継ぎ事項として、現在の状況、異常等の特記事項、予定している作業、やらねば(ToDo)リスト、問題点・課題などがあります。正確かつ確実に引き継ぐため、口頭で報告するとともに、紙に書き出しておいて引き渡すほうがよいです(引き継ぎが不十分であると、帰宅後に電話等で呼びだされるかもしれません)。
引き継ぎが終われば、基本的に残業はありません。ただし、担当シフト後も異常時対応で残ったり、交通機関の乱れ等で次シフト要員が遅れたり、帰宅時に台風が接近して建物内に待機などもあります。また、シフト要員が急遽体調を崩したり、家庭の事情があった場合、急遽シフト交代が求められます。特に夜勤シフトの入れ替えは苦労します。
要員の体調管理、先ずは負荷が低減されるようにシフトスケジュールを調整することが重要となります。各人も家庭やプライベートの予定もあるため、できる限り早めに数か月前にはシフトスケジュールを掲示したほうが良いです。変更要望や問題が発生すれば、早急に調整してスケジュールへ反映します。自らの業務の重要性を省みればシフト勤務に異論はないですが、数日前に勤務を命じられれば反発があるかもしれません。
シフト勤務に伴う特定業務従事者は、半年(6ヶ月以内)毎に健康診断を受診することになります(労働安全衛生規則 45条)。シフト勤務に伴う健康への影響について専門ではないのでわかりません。私の経験から言えるのは、生活が不規則になるため、寝不足や不眠症、運動不足となり、体重が増加していくことに注意です。正に生活習慣病の予防に重点をおくべきですね。
絶え間なく継続して業務を進めるため、シフト勤務体制を確立することが必要となります。そのため、要員を確保するだけでは成り立たず、現場の苦労を理解したい上で可能な限り負担を軽減しなければなりません。本稿が負荷軽減に少しでも役立てばうれしいです。
Credit: NASA
警報をシステムとしてとらえ直す【警報システム】
警報(Alarm)は、日常生活の至る所に掲示されていますが、当たり前すぎて深く考察することはありませんでした。警報に対する受け取り方も日本と海外では異なるような気がします。日本では様々なことに「注意」「注意」「注意」と喚起されますが、警報に対する行動を学んだとすれば避難訓練くらいでしょうか。警報をシステムとして理解していないからか、シビア・アクシデントに対する実効的な避難計画が策定されていなくても、経済的利益が優先されるのでしょうか。
日本では「警報」や「注意」が混在して用いられますが、欧米では「危機(Danger)」「警告(Warning)」「注意(Caution)」が意味する深刻度は明確に異なります。危機(Danger)ならば、正に危険できわどい状況であり、避けなければ死亡や重症を負うことを示しています。警告(Warning)は、潜在的に危険を伴う状況であり、避けなければ死亡や重症を負う可能性があります。注意(Caution)は、潜在的に危険を伴う状況であり、避けなければ中度の怪我または軽傷を負う可能性があります。
警報の目的として、安全化(Safer World)、情報提供(Provide Information)、誘導される行動(Influence Behavior)、注意喚起(Reminder)があげられます。警報によって、危険を回避して安全な状況を保つとともに、危険レベルを通知します。警報を受けた者は、それが意味する危険度を理解し、即座に対処すべきかを決断します。警報に応じた適切な対応をできるように、緊急時の手続きや行動指針を理解し、訓練等を通じて習熟しておく必要があります。定期的に警報について確認して、それらの習得した知識を再認識させ、いざ緊急時には確実に対処できるようにせいます。
安全を図るには、ハザード制御(以前の記事 危険や不測の事故を避けるために 【ハザード制御】 - チーム・マネジメント)について述べたように、設計によって先ずハザードを排除し、排除できなかったならばハザードから防御して影響を抑え、排除そして防御ができなければ警報にて対処することになります。
警報をプロセスとして捉えると、①警報が発令されたことに気づかせる、②警報が示す内容や深刻度(危機、警告、注意など)を伝える、③もし警告を留意しなかった場合に起こり得ることや生命への危機などを理解させる、④危険のリスクを下げ、更に取り除くための適切な行動を取らせる、の順番となります。各段階が適切に流れなければ、警報システムは機能しないことになります。
①気づかせの段階では、人は基本的に警報状況を確かめたりしないため、警報発令は十分に目立つ必要があります。気づかせるために、警報は何らかの媒体を介して伝えられます。標識などに印刷されて掲示されたり、コンピュータの画面にポップアップウィンドウが表示されるかもしれません。これらの視覚を通じた警報は、注意を向けて見ないと気づかない欠点があります。他のこと(他の画面)に気を取られていると、見落とすかもしれません。
火災警報や地震速報についてメロディで識別できるように、音声による警報は、無指向性の性質もあり、間違いなく注意を引くことができ、視覚による警報よりも利点があります。他の媒体として、家庭で使用されるプロパンガスは本来無臭ですが、ガス漏れを嗅覚で気づくように放臭剤が付加されています。自動車の運転補助として、危険な状態を感知するとハンドルを振動させて通知するシステムもあります。
International Space Station siren by esaoperations | ESA ESOC | Free Listening on SoundCloud
②伝えるの段階では、警報の内容、何が進行しているのかをメッセージとして伝達します。視覚による情報提供が中心になってきます。危機(Danger)、警告(Warning)、注意(Caution)を伝えることで緊急度が理解できますが、米国では色でも識別できるように、危機(Danger)は赤地に白い文字、警告(Warning)はオレンジ地に黒い文字、注意(Caution)は黄色地に黒い文字で描かれます。標識などでも用いられているように、図形を伴ったメッセージならば、伝える内容が明確になり、警告を受けた者は認識しやすくなります。
③理解させるの段階では、伝えられたメッセージから自らが置かれた状況を認識させることになります。実際に警報が発令された直後よりは、事前の学習や訓練が重要になってきます。危機(Danger)や警告(Warning)の意味を知っていれば人命に危機が迫っていること、表示されるメッセージを理解できれは回避しなければ事故に至ることを認識できます。理解を深めれば、警報について熟知することができ、警報に対して敏感になり、迅速な対応がとれるようになります。
④行動を取らせるの段階でも、事前の訓練が重要となってきます。「訓練は実戦のように、実戦は訓練のように」と言われるように、警報が発令された場合の行動について繰り返して訓練を積むことが求められます。例えば、津波警報が発令されたら迷わず高地へ逃げる。この行動が取れるかで生死を分けてしまいます。
警報システムを構築した後で、実際の稼働において問題となるのは誤報です。説明するまでもないですが、誤報とは危機でもないのに間違って警報を発令することです。たまに発令された誤報ならば予行演習の一環にもなりますが、頻繁に誤報が生じるとその警報に慣れて信じなくなり、真の危機が起きても対処できなくなります。それこそオオカミ少年の効果です(英語ではCrying Wolfであり、Wolf Boyでは通じません)。
逆に重大事態になるまで警報が出されないと、ボーダム・パニック(以前の記事 自動化がもたらす弊害 【ボーダム・パニック】 - チーム・マネジメント)でも説明しましたが、異常はないと思っていたところ、徒然に深刻な事象であることの通知がなされれば、パニックとなって迅速に対応できません。警報システムの設計において、どのような警報をどのような基準で発令するかの検討そして評価が全体の信頼性をあげるために重要となります。
大規模な事故や緊急事態となれば、短時間に多数の警報が表示され、様々な警報音も鳴り響きます。このような状態を「クリスマス・ツリー(Christmas tree)現象」とも呼びますが、何が重要なのかを把握できず、混乱を極めてしまいます。1979年に起きたスリーマイル島(Three Mile Island)原子力発電所で起きた事故でも、クリスマス・ツリー現象も伴って、炉心の冷却状況が把握できず、運転員の判断ミスで注水を止めてしまって炉心溶融を招いてしまい、重大な原子力事故に至っています。
2011年の福島第一原子力発電所事故ではどうだったのか? 様々な事故報告書を拝読させていただきましたが、クリスマス・ツリー現象よりも更に危機的な事態に陥っていました。地震直後には様々な警報が鳴っていましたが、津波による浸水によって全電源が喪失し、中央管制室も真っ暗となり、各種の計器もすべて表示しなくなりました。完全にブラックアウトして、最後の砦である警報システムも喪失していました。数区画離れた原発が暴走し始めていますが、懐中電灯をかき集め、手探りで周りの状況を知ることしかできませんでした。安全確保の基本である「止める」「冷やす」「閉じ込める」のうち、停電前に核分裂反応の停止が確認されたものの、冷却できずに水素爆発そして炉心溶融に繋がりました。
警報は鳴れば良いではなく、確実に安全を確保して機能するためには、警報システムとして見直しが必要かもしれません。ハードウェアのみではなく、ソフトウェア(規定、手順など)やヒューマンウェア(教育や訓練を通じて)の改善も求められます。
Credit: NASA
参考文献
- Designing Effective Warnings
- Warning Research: An Integrative Perspective
- 「失敗学」事件簿 あの失敗から何を学ぶか (小学館文庫)
- 「信じられないミス」はなぜ起こる―ヒューマン・ファクターの分析 (中災防新書 (004))
- 福島原発事故はなぜ起こったか 政府事故調核心解説
正確な情報伝達のための工夫について【管制用語】
- 航空管制入門
- 「分かりやすい説明」の技術 最強のプレゼンテーション15のルール (ブルーバックス)
- 宇宙飛行士の採用基準 例えばリーダーシップは「測れる」のか (角川oneテーマ21)
- 大人のための書く全技術