チーム・マネジメント

有人宇宙の運用管制から、チームマネジメント、人間-機械システム、そしてヒューマンファクターズを考える

集団に群れる心理、集団となることで危険なこと 【集団思考】

 集団(Group)は、人々が集まった団体であり、ある機能(生産的である必要はありません)を持っています。そして、所属する構成員の間において相互依存の関係があることも特徴です。歴史は人が群れ(集団)を作って行動してきたことを物語っており、集団では漠然と認識している社会性(Sociality)が重要となってきます。

 人類は社会性を営む能力を発展させてきました。集団において生きていくため、多くの人を識別したり、習慣に適用できるよう、脳が大きく発達したとも言われています。決まりごとは法律や制度によって定められている気がしますが、人は成長に伴ってあまり意識もせず、社会のルールを理解し、それに従っています。そのように育った社会の影響を受けて、考え方(Mindset)が固定化され、思い込み・先入観、思考様式が決定づけられる負の面も現れてきます。

 社会で育てられてきた人だから集団に所属することは当然なのかもしれません。そして、出身地や卒業した学校、勤務している会社や所属している組織を取り上げ、自分が何者なのであるかを説明します。集団に所属した/所属していることが、個人のアイデンティティ(Identity)を示す際に重要となってきます。所属する集団を選べるようになれば、学校、サークル、会社など自分の評価が向上するように選択することになります。そして所属することだけで安心感を得ることができるのかもしれません。

 

 集団を構成される上で、明文化されるか、暗黙であるかは問いませんが、構成員の考え方や行動を律する集団内の約束事が定められてきます。ここでは集団規範(Group Norm)と呼ぶことにします。集団規範は、逸脱者に対する制裁、同調者に対する報酬の規準となり、構成員の意識を画一化する面もあります。日本では個人主義(Individualism)の尊重を謳っていますが、実体は全体主義(Totalitarianism)と思いませんが、集団主義(Groupism)の側面が強いと思います。いじめ問題、不祥事や過労死の事件などにおいて、集団主義の弊害が表れていると思えてなりません。

 集団の影響を受けた個人は、自分では自発的な意思で決断していると考えていますが、実際には集団規範に沿って行動しています。その全てが悪いわけではないですが、意識しないところで集団の方針に従って決断する怖さは知っておくべきです。極端の例かもしれませんが、テロリスト(terrorist)集団に加わった市民は、共同生活の中で集団の思考に染まり、一般市民を殺害することを自ら選んで自爆していきます。

 

 集団になることで、個人の行動が変わってくることが指摘されています。有名なのは「赤信号みんなで渡れば怖くない」でしょうか。禁止されていることも集団でならば心理的な抵抗もなく実施してしまう。日本人の特徴として取り上げられることもあります。

 集団になると社会的手抜きが発生することはリンゲルマン効果として知られています。フランス農学者 マクシミリアン・リンゲルマン(Maximilien Ringelmann)が、集団作業における1人あたりの貢献度を数値化したところ、1人で行った時の力を100%とすると、2人の場合は93%、3人では85%、4人では77%、5人では70%、6人では63%、7人では56%、8人では49%と1人当たりの貢献度は低下しました。要因は様々なことが考えられますが、集団が大きくなると貢献度が低くなることは明らかです。リンゲルマン効果の余談ですが、メールの返事を求めるならば、宛先に組織や部署名で送信した場合、返信がなかなか戻ってきません。対策として、宛先に担当者の名前を指定すると改善されます。

 人間は集団に所属しているのに、集団が招いた結果には鈍感というか認識できていないのかもしれません。戦争、原発事故、テロなどをニュースで知ったとしても、自ら生活している環境が変化しなければ、実感は少なく遠い世界で起きていることと思い込んでしまいます。統計の数字で見れば、飛行機事故による死亡率よりも自動車事故による死亡率の方が高いです。なのに、気軽に自動車を運転しているのに、飛行機に乗ることを怖がります。

 

 多様性(Diversity)の重要性について様々な提言されています。その根底には集団による過ちを防止する意図があると思います。集団化が進めば同質性の強い構成員から集団が構成されます。優秀な人であっても、集団内でのみ成立する考え方で判断を行い、他から見れば違法な行為も正当なことと信じて疑わなくなります。それを集団思考(Groupthink)の愚と呼ばれています。

 集団規範が強い集団ほど、異なった意見を持つ人、対立している人を受け入れることは困難になります。ますます集団思考の罠にはまっていくことになります。それを理解している組織では、各自の考え方や思考を受け入れ、異論を唱えることを義務と考えるところもあります。

 チームも人々の集まりという点では集団と同じです。ここでもう一度チームの定義に立ち返り、「ある目的のために活動を同じくする人々の集まり」を再確認して、集団化における弊害を取り除くことが必要です。すなわち、目的を達成することに注力して、信頼関係は必要ですが相互依存関係は無くす努力が必要です。

Japanese HDR scene (45)福島第一原発(Fukushima Daiichi Nuclear Power Station)

 

参考文献

  1. 考えてるつもり ――「状況」に流されまくる人たちの心理学
  2. 隠れた脳
  3. なぜ、「異論」の出ない組織は間違うのか
  4. マインド・コントロール
  5. サピエンス全史(上)文明の構造と人類の幸福

問題を解決するため、理論で考えぬく力を磨く【論理学】

 数学を通じて論理思考が強化されるはずですが、試験のために答えを導き出す力のみを鍛えています。しかしながら、社会には正解のある問題はありません。中学数学における証明問題で、「ゆえに」の意味で《 ∴ 》の記号、「なぜなら」の意味で《 ∵ 》の記号を用いて解答していましたが、振り返るとあまり使用する機会はありません。

 私の経験でも論理計算や論理記号が必要となったのは、計算機(コンピュータ)向けのプログラミングを組むようになってからです。基本として論理積(AND)「∧」や論理和(OR)「∨」があります。論理計算は2進数 真(1)又は偽(0)の世界である計算機(コンピュータ)の内部で実行されていることです。例えば、P∧Qが真(1)ならば「PとQがともに真(1)」となります。

 プログラミングを通じて論理思考を鍛えることができますが、プログラミングを体験しただけでは習得できないと思います。そして、思考法として学ぶには別に訓練が必要になります。論理学を体系的に組み立てたのは、古代ギリシアの哲学者 アリストテレス(紀元前前384年〜前322年)です。いわゆる三段論法として、大前提(Major Premise)・小前提(Minor Premise)および結論(Conclusion)から構成されます。有名な例として、「人間は死ぬ」(大前提)、「ソクラテスは人間である」(小前提)、故に「ソクラテスは死ぬ」(結論)との論理立てができます。

 前提となる事柄をもとにそこから確実に言える結論を導き出す推論法のことを演繹的推論(Deductive Inference)と呼んでいます。三段論法は演繹的推論の代表です。演繹的推論において、前提が正しいことが絶対となります。確実な事実はない時代であるとすれば、その前提が揺らぐことも考えられ、演繹的推論で導き出された結論は矛盾を抱えていることになります。そして、演繹的推論では前提の枠を超えるような新しい知識は創造できません。

 不変的な自然法則、社会共通の基盤となっている法律や判例ならば、公理としての大前提と見なすことはできます。大きな枠組みが決まっている範囲内での問題や推測は、演繹的推論は有効とも言えます。理論派で頭の切れる人は演繹的な考え方が素晴らしく思うかもしれませんが、現実では演繹的推論だけに頼ることは危険な気がします。

 それに対して、帰納的推論(Inductive Inference)は、前提となる公理から始めるよりは、事実を知ることを出発点とします。科学的なアプローチは帰納的推論の積み重ねと捉えることができます。帰納的推論とは、「多くの事実観察から一定の法則(ようなもの)を導き出す」という方法とも言えます。

 完全に正しい解はなく不確実性が高い状況において、演繹的推論では矛盾を抱えて結論を出せなくなるため、帰納的推論を選択すべきです。不十分な情報や信憑(ぴょう)性に疑わしい情報しかなかったとしても、帰納的推論から仮説を立てて、事実と照らし合わせて、仮説そして検証の過程を繰り返すことによって、仮説の精度を上げていくことができます。

 真実は観る者の視点によって様々な姿を見せます。自分が認識したことと他の人が捉えたことは異なってきます。先ほどの信憑性に低い事実も多視点から評価して、見方によっては真実が隠れているし、誰の視点でも間違っているとの結論を得られれば真実ではないでしょう。論理展開として弁証法(Dialectic)が上げられ、「正」である賛成意見を提示し、続いて「反」である反対意見をぶつける。その上で最終的な結論として「合」を得るやり方です。

 世界は全て論理だけで動いているわけではないですが、論理的な思考法を理解しているだけで、世界の見方は変わってきます。

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参考文献

  1. 統計学とは何か ―偶然を生かす (ちくま学芸文庫)
  2. 思考のチカラをつくる本: 判断力・先見力・知的生産力の高め方から、思考の整理、アイデアのつくり方まで (単行本)
  3. すべてを可能にする数学脳のつくり方
  4. 大人のための書く全技術

 

複雑なシステムの挙動を予測できるのか 【カオス】

 「太陽系の中で地球はどのように運動しているのだろうか?」 古代の天文学者も長年に渡って思索していた問いです。物理学、天文学、又は宇宙工学を学ばれた方ならば、ケプラーの法則はご存じだと思います。ケプラーの法則は、ヨハネス・ケプラー(Johannes Kepler)によって発見された惑星の運動に関する法則です。

ケプラーの法則(Kepler's laws)
第1法則(楕円軌道の法則)
 惑星は、太陽をひとつの焦点とする楕円軌道上を動く。
第2法則(面積速度一定の法則
 惑星と太陽とを結ぶ線分が単位時間に描く面積は一定である。
第3法則(調和の法則)
 惑星の公転周期の2乗は、軌道の長半径の3乗に比例する。

 ケプラーの法則は、ニュートン(Sir Isaac Newton)が発見した万有引力の法則(the law of gravitation)そしてニュートン力学(Newtonian mechanics)を用いて、論理的に綺麗に導き出されます。理論なので仮定の上で成り立っており、太陽と惑星の2つの物体しか存在しない場合となります。軌道力学(Orbital mechanics)では2体問題(two-body problem)と呼んでいます。

 太陽を周回する地球の運動は、太陽を中心としたほぼ円軌道(離心率 0.0167)です。太陽による引力が大部分ですが、実際には月や木星などによる影響も受けています。太陽が支配的であるため、ケプラーの法則を用いてもそれほどの誤差は生じません。

 2体問題として、地球の周りを周回する宇宙機(Spacecraft)はどうでしょうか? 運動を表すことに高い精度を求めないのであればケプラーの法則を用いて、地球をひとつの焦点とする楕円軌道となります。実際の宇宙機の運動は、その楕円軌道からずれることになります。その原因は、地球が真球の形をしていないために重力が歪んでいたり、空気による抵抗、月による引力などが挙げられます。地球引力以外に働く力を摂動(perturbation)と呼んでいます。

 太陽系は、水星、金星、地球、火星、木星土星天王星海王星と8つの惑星から構成され(2006年 冥王星準惑星に変更されました)、実際の運動は多体問題(many-body problem)で、数学的に説くことはできません。しかし、コンピュータを用いてシミュレーションを行い、運動の軌跡を描くことはできます。太陽系が誕生して46億年が経過して、数多くの微惑星が衝突そして合体が繰り返されて、現在の惑星配列が整って安定した状態で惑星間の距離は離れています。そのため、ケプラーの法則を用いてもそれほど違いはありません。

 

 しかしながら、宇宙活動が進捗して、地球から離れて月に近づく宇宙機の運動はどうなるのでしょうか? 地球、月、宇宙機の3体問題(three-body problem)として研究が進められてきました。3体問題は幾つかの仮定を設定することによって特殊解が導き出されます。ご承知の方もいると思いますが、その特殊解としてラグランジュ点(Lagrangian Points)が提起されました。

 3体問題に3つの仮定を置き、①3体(地球、月、宇宙機)ともに同じ平面上を運動している。②1体(宇宙機)が他の2体に影響を及ぼさないほど微小である。③2体(月、宇宙機)の軌道を円軌道とする。その特殊解が示すことは5ヶ所の点で重力が均衡になります。それらの点のことをラグランジュ点と呼んでいます。

 地球と月を結んだ線上に3ヶ所 L1、L2、L3が存在します。この3ヶ所のラグランジュ点上で留まることができますが、少しでもずれるとラグランジュ点から離れる方向に力が働くために不安定です。それに対して、周回軌道を月よりも60度先行した位置 L4 と60度後ろの位置 L5 では、少しでもずれるとラグランジュ点へ戻る力が働くために安定です。将来の宇宙活動に向けて、誰が(どの国が)ラグランジュ点を支配するかに焦点が移ってきています。

追記[2017.12.14] L1、L2、L3を周回する軌道をハロー軌道(Halo Orbit)と呼びます。米国とロシアが協力を進める月近傍有人拠点 深宇宙探査ゲートウェイ(Deep Space Gateway)はL1に建設されることになりそうです。

 

 3体問題ですら解析的に理解するのは困難となってきますが、更に多体問題ともなると理解不可能です。まさに混沌として無秩序なカオス(Chaos)現象となります。多体問題の例として、おもに火星と木星の軌道の間にある小惑星群があげられます。小惑星の軌道は惑星による引力によっても乱れやすく、火星より内側に軌道を変える可能性もあります。そして、地球にも接近して、場合によっては衝突する確率もゼロではありません。少しの摂動による変化を受けて、小惑星が隕石として地球に衝突することは、多体問題のために予測ができません。

 多体問題として、近年問題として認識されている宇宙デブリ(Space Debris)です。宇宙デブリは、自然な宇宙塵もありますが、増加の一途であるのは打上げロケットや人工衛星の残骸や破片などです。地球を周回する物体は、第一宇宙速度以上になると地球の周りを回り続けます(以前の記事)。10 cm 以上の大きいものが約2万個あると報告されています(2010年 現在)。デブリの追跡がなされていますが、摂動やデブリ同士の衝突などによって、長期間にわたって軌道を予測することは困難です。

 地球の空気による抵抗によって、高度 600 km 以下のデブリならば数年で落下して、大気との摩擦によって燃え尽きます(チタンやステンレス合金など融点が高い部品は落下する危険性は残ります)。したがって、地上で被害を受ける可能性はかなり小さいです。ただし、地球周回軌道上で約 8 km/sの猛スピードでデブリに衝突されれば、ロケットや人工衛星は甚大の被害を受けます(実際には、人工衛星も約 8 km/sで飛んでいるため、相対速度はそれほど大きくないはずです)。また高度が高いデブリならば、永久に地球へ落下することはなく、消滅することもありません。

 宇宙飛行士が住むことができる国際宇宙ステーションでは、デブリによる被害を最小限とするため、デブリバンパー(Debris Bumper)が外壁に設置されています。デブリバンパーは薄い金属板であり、もしデブリが衝突してもバンパーが溶けたり、変形したり、穴が開くことで、デブリの運動エネルギーを熱に変えて、居住空間の外壁が維持すべき気密性は失われないように設計されています。バンパーによって 1 cm 以下のデブリを防御できますが、大きなデブリは外壁まで貫通してしまいます。10 cm 以上のデブリが衝突しそうだったら、ステーションの軌道を変更して逃げるしかありません。

 

 多体問題ようなカオス現象 すなわち わずかの差が時間経過後に大きな違いが生じて予測できない現象を引きおこすことに注目が向けられています。この現象は、気象学者 エドワード・ローレンツ(Edward Norton Lorenz)が発表した論文「予測可能性:ブラジルの蝶の羽ばたきはテキサスで竜巻を引き起こすか」からバタフライ効果(butterfly effect)としても知られています。ローレンツがコンピュータ上で気象予想プログラムを実行していたところ、入力値が「0.506127」と「0.506」の違いで、全く異なる予想が出力されました。多種多様な小さな要素が影響を与えるならば、その結論には不確実性が踏まれており、予測困難になります。

 システムが巨大になるにつれ、難解(complicated)であるうちは挙動を理解できますが、複雑(complex)となって多くの部分が入り組んで錯綜してくると、中長期的な挙動を予測することは不可能となってきます。新しいテクノロジーによって、スピードアップそしてネットワークが張り巡らせ、複雑(complex)システムとして再構築されてきています。そして、バタフライ効果による影響を受けてカオス現象に囲まれるようになってきました。そのようなカオスの中で、生き残りを模索しなければならないのです。

 

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参考文献

  1. 物理数学の直観的方法―理工系で学ぶ数学「難所突破」の特効薬〈普及版〉 (ブルーバックス)
  2. 私たちは宇宙から見られている? 「地球外生命」探求の最前線
  3. スペースデブリ: 宇宙活動の持続的発展をめざして
  4. Modern Spacecraft Dynamics and Control
  5. Satellite Orbits: Models, Methods and Applications
  6. TEAM OF TEAMS (チーム・オブ・チームズ)