チーム・マネジメント

チームマネジメント、人間-機械システム、そしてヒューマンファクターズを考える

空気を知り、生存していくために 【空気】

 私たちは、空気(air, atmosphere)を目では見えず、日常では意識することはありません。空気はあって当たり前の存在と思っています。無くてはならないが意識しないことを「空気のような存在」と呼んだりもします。存在しないわけではなく、空気の流れを風として感じ、空気が汚れていると息が詰まります。そして、最近では「空気を読む」ことが強調されます。

 

 当たり前のような空気ですが、地球の大気圏の最下層にある気体のことを示しています。無色透明で、主成分は窒素(nitrogen)が約78%、酸素(oxygen)が約21%、残りの大部分はアルゴン(argon)等の稀ガスから構成されます。地球温暖化の原因とされている二酸化炭素(carbon dioxide)は、現在の構成比として0.035%ですが、18世紀には0.028%であり、急激に上昇しています。人間は、空気中の二酸化炭素が3~4%を超えると頭痛・めまい・吐き気などを催し、7%を超えると数分で意識を失います。
 二酸化炭素には水蒸気と同様に赤外線を吸収する性質があり、地球から宇宙向けて放射される熱放射の一部を吸収して、地表面付近の気温を上昇させる働きがあります(温室効果 greenhouse effect)。氷河が溶けて海に氷解する映像、異常気象のニュースから地球温暖化(global warming)を知ることができます。気温上昇が抑えられれば良いですが、このまま続けば悪循環のスパイラルに陥る可能性があります。すなわち、気温が上昇して海などから水が蒸発して水蒸気となります。水蒸気も温暖化ガスであり、大気中に増えた水蒸気によって温室効果が高まり、更に水蒸気が増えます。この循環が暴走していき、地球の海から水がすべて蒸発したら、気温は1000℃を超えて、もはや地球上には生命が生存できなくなります。二酸化炭素が約97%の金星(Venus)のように灼熱の大地に。
 空気から呼吸で取り込んでいる酸素は、人間を含む動物にとって必要不可欠な気体ですが、酸化(酸素と化合すること)からイメージするように、必ずしも良いだけではわけではありません。まず酸素は我々の身体も構成する有機物を分解する作用があります。私たちが活動するためには、摂取した食物を分解して、ブドウ糖(grape sugar, d-glucose)を生成します。ブドウ糖を酸素で分解することによって、活動に必要なエネルギーを取り出すとともに、酸素との化合物である二酸化炭素と水に分解します。
 上空10~50 kmの成層圏では、太陽からの紫外線を受けて、酸素原子2つからなる酸素分子が分離して原子状の酸素が発生します。更に原子状の酸素と酸素分子が結合して、酸素原子3つからなるオゾン(ozone)が生成されます。このオゾン層が太陽からの有害な紫外線を吸収し、地上へ届く量を減らす働きをしています。冷蔵庫の冷媒やスプレー缶に使用していたフロン(flon)などが成層圏で紫外線で分解されて塩素原子(chloride ion)を生じてオゾン層を破壊することがわかり、南極大陸上空にオゾン層に穴があいたオゾンホール(ozone hole)が確認されました。それに伴い、白内障や皮膚がんが増加したことが報告されています。1987年に「オゾン層を破壊する物質に関するモントリオール議定書」が採択され、フロンなどの生産・使用を規制されています。その成果もあって、オゾンホールは縮小していることが確認されています。人類が環境改善できた良い事例となっています。

 

 ここまでが科学的な空気の説明ですが、日本人が敏感になっている「空気」の存在もあります。「空気を読む」ことが求められ、読めないとダメな烙印を押されかねません。その場の空気が支配して、最終的な決定も下したり、みんなを圧倒する力を持っています。実体はなく、科学的には解明できないです。
 その「空気」を理解するため、「世間」が衰退してきて流動化したものが「空気」であるとの説明には納得させられました。旧来の日本には村社会があり、生活する世の中が世間でした。その世の中で生きていくためには、その一員として、決まりや掟を守ることが求められます。「世間」を構成するルールとして、①贈与・互酬の関係、②長幼の序、③共通の時間意識、④差別的で排他的、⑤神秘性(呪術性)が挙げられています(参考文献4を参照してください)。5つのルールのうち、幾つかだけが機能している状態が「空気」だと言うのです。
 欧米では宗教によってそのような掟を啓示していますが、宗教心が薄いというか、あまり意識していない日本人だから空気に左右されるかもしれません。農耕が中心であった日本人にとって、神道の影響もあり、村そして世間が絶対の存在でした。工業・商業化の波を受けて、農作が中心であった世間から離れ、会社がその役目として①贈与・互酬の関係、②長幼の序、③共通の時間意識を担うようになりました。終身雇用・年功序列も崩れており、その役割を担えなくなってきています。現代では、その代わりとして、空気に求める構図となってきていると思われます。それは自分が所属する共同体を探していることになるでしょうか。
 しかしながら、恒常的ではなく不安定な空気によって、重大な事項が決定されるならば、その影響は計り知れないものになります。決定が遂行される頃には、そんな空気は消尽してしまい、何故その結論が導き出されたのかも理解できなくなります。そんな不完全な空気に左右されるのは怖い気がします。山本 七平さんは、歴史を振り返り、太平洋戦争への突入、戦艦大和の特攻などを空気の観点から再考しています。

 

 チームは共同体であり、気をつけないと不安定な空気に包まれる危険があります。先に述べた「世間」を構成するルールのうち、③共通の時間意識や④差別的で排他的は特に当てはまりやすいです。チーム活動において、全ての空気が悪いわけではなく、前向きでチームをまとめる良い意味での空気が醸し出されることもあります。
 空気が支配で問題となるのは、対立する価値観を認めず、絶対価値観のみで冷静な論理根拠も伴わず、物事が決まってきたら注意すべきです。一体化がチームの特徴でもありますが、チーム内での対立や摩擦を全て排除するためには、自らの意見を抑えて空気に従わなくてはなりません。山本 七平さんは、そんな空気に対抗するために「水を差す」という言い方で対案を提言しています。

ある一言が「水を差す」と、一瞬にしてその場の「空気」が崩壊するわけだが、その場合の「水」は通常、最も具体的な目前の障害を意味し、それを口にすることによって、即座に人びとを現実に引きもどすことを意味している。  山本 七平

 客観的な事実で現実に戻れれば、空気による過ちは低減できるかもしれません。気まずい空気でも、ユーモアで笑いを起こせれば、吹き飛ばすことができるかもしれません。もし空気が支配しているが、水を差すことができなければ、時間かせぎや先送りも有効な方法かもしれません。その頃には空気は消滅しているでしょう。

 

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Credit: NASA

 

参考文献

  1. 空気のはなし―科学の眼で見る日常の疑問
  2. 生命の星の条件を探る
  3. 「空気」の研究
  4. 「空気」と「世間」 (講談社現代新書)