チーム・マネジメント

有人宇宙の運用管制から、チームマネジメント、人間-機械システム、そしてヒューマンファクターズを考える

命は鴻毛より軽し 地球よりも重い 【命の尊さ】

「人の命は地球よりも重い」1977年ダッカ日航機ハイジャック事件に対して、時の福田首相が述べた言葉です。命は大切で重いことに異論ないですが、地球と比較することに様々な意見が出されました。ことわざには「命は鴻毛(こうもう)より軽し」ともあり、正義のためならば命を捨てることは少しも惜しくないとの意味でする。

現代のように死が遠い存在に感じられる時代、それに対して、自然災害に見舞われた後や戦争下で身近に命の危険を感じる時代では、受け取る命の重みは変わってくると思います。現代でも、未知(宇宙を含む)へ挑戦するにあたって、生命へのリスクは常に伴います。そのため、死と向き合う勇気が必要となります。
アポロの時代が理解できない理由のひとつには、現代の私たちがリスクを背負うことにあまり慣れていないということがある。1961年に月探査計画が発表されたとき、当時第一線で活躍していた40代から50代の米国人の指導者や経営者には、第二次世界大戦の記憶が鮮明に残っていた。だから彼らにとって冷戦とは、使う爆弾が大きくなりその威力が増しただけで、基本的にはそれまでやってきたことと変わりはなかったのだ。国に仕えるひと握りの宇宙飛行士の命を危険にさらすという考えは、それほど異常な話には思えなかった。 アポロ11号
戦時中のパイロットは、軍人として殺略することを教わるわけですが、憧れた飛行機乗りを目指して、自分の命を投げ打って志願し、厳しい訓練を耐え、航空機隊に配属されていきました。そして、敵パイロットの命を奪わなければ、自分の命を落とすという極限の状態に置かれます。命の重みを考えればそこには大義が必要であり、国家を護るそもそも家族を守るために自分を犠牲にできたと思います。

現代ではどうでしようか。生命を脅かす例として、宇宙船の船内は約1気圧に保たれていますが、外壁の先は超真空の宇宙空間です。急減圧で船内の空気が一気に吸い出されれば、人間の肺の中に残っている空気は猛烈な勢いで爆発し、体内の血液は一瞬にして沸騰します。脳や身体の組織は酸素をくれと叫びだし、損傷を受けた生体システムは直ちに機能を停止します。

それでも空そして宇宙に挑戦している。未知を解明して、テクノロジーによってリスクを最小に抑え、緊急時の対処を訓練しているとしても、航空機パイロットや宇宙飛行士は命を懸けた仕事です。間近で見つめて、立ち向かう勇気を理解しようと思いますが、地上で仕事をしている者として判ったとは言えません。死への恐怖から必死に訓練に励み、自信によって恐れを克服していく姿が印象的でもあります。
最後の宇宙飛行の前(それまでの宇宙飛行でもそうだけど)、僕は遺書を確認したり、お金や税金の件をきちんと整理したりと、死を目前にした人がするようなことをひととおり済ませた。でも、だからといってお墓に足を一歩突っ込んでいるような感覚はなかった。むしろ、僕の心は安らぎ、「僕に何かあったら家族はどうなるんだろう」という不安も減った。おかけで、エンジンに打ち上げの火が灯ったとき、僕は目の前の課題に100パーセント集中することができたんだ−生きて帰還するという課題にね。 カナダ宇宙飛行士 クリス・ハドフィールド
日本は平和そして安全であり、祖先に守られている気がしますが、海外へ行けば自分の命は自分で守らないことをひしひしと実感します。現代は非情な面もあり、今日は問題なく過ごしていたとしても、明日には路頭に迷うことがあるかもしれません。もっと身近のリスクとして、交通事故、大怪我、喫煙、不健康な生活などもあげられます。教訓として、先ずは命を守ることを学び、正しい姿勢を身に付け鍛錬し、志に命を懸けて生きていく。まだまだそんな悟りには到達していませんが。


参考文献

  1. アポロ11号 月面着陸から現代へ
  2. 大空のサムライ (光人社NF文庫)
  3. 宇宙飛行士が教える地球の歩き方
  4. 機長の危機管理―何が生死を分けるか (講談社プラスアルファ文庫)