チーム・マネジメント

有人宇宙の運用管制から、チームマネジメント、人間-機械システム、そしてヒューマンファクターズを考える

システム運用における規則を再考する

一概に規則(ルール)といっても、法律、組織内規定からチーム・ルールに至るまで範囲が幅広いです。人は生活を通して社会ルールを理解して自然と身につけてきます。これまでの学校教育において、日本国憲法民法、刑法について、1条から順番に全ての条文を習ったことはありません。日頃はあまり意識していませんが、法治国家として法律の下で我々は生活していることになっています。そこには意識のギャップがありますし、実際に弁護士や裁判官などの法律家でなければ、事件にでも巻き込まれない限り、法律を一字一句理解する必要はないかもしれません。

それに対して、システムを運用する人は規則を理解することは必須となります。例えば自動車の運転において、運転手は交通ルールを理解して守らなければ、事故リスクが増大し、他人を傷つける過失を犯す可能性もあります。教習所に通った場合も、法規を学んで試験でも理解度を確認されます。

航空機のパイロットは、飛行規則(又は飛行方式、英: Flight Rules)に基づいて操縦する必要があります。飛行規則は大きく分けて、有視界飛行方式 (VFR: Visual Flight Rules)、計器飛行方式 (IFR: Instrument Flight Rules)に区分されています。VFRは、パイロットの眼で他の航空機を探し出して、それらを回避しながら飛行する方式です。VFRでは、気象条件や上昇高度に制限が定められ、飛行では右側優先であり、他の機体と衝突を回避するために右へ避けることが求められます。IFRは、航空管制官からの許可を受け、計器の情報を基に飛行する方式です。

その航空における規則から派生して、有人宇宙システムの運用においても飛行規則(Flight Rules)が定められています。例えば、電気ブレーカが跳んだ場合、電気ショートのために火災が発生する可能性があるため、再度給電する場合の条件が定められています。

今日では業務を進める上で、些細なことまで規則として規定され、従うことが求められます。規則として記載されたルールを守るだけでは、規則が形骸化して当初の目的を果たしていない可能性も出てきます。また制定した時は規則として有効でしたが、時代の変化と共に無意味になることがあります。
有名な実験で、まず檻の中に鎖でバナナをぶら下げ、6匹の猿を入れました。バナナを引っ張るとすべての猿が冷たいシャワーを浴びる仕掛けがしてありました。新しい猿を1匹この集団の中に入れ、元からいた猿を1匹檻からだしました。バナナを取ろうとすると元からいた5匹の猿に邪魔され、新入りはバナナをを取るのはタブーであることを学習するようです。交代を続けて、元からいた猿が全て檻の中からいなくなっても、バナナは手つかずになっていたそうです。檻の中の猿たちは冷たいシャワーを浴びたこともなければ、バナナを取ってはならない理由も知りません。
そのような弊害を防ぐため、規則を暗記するだけではなく、何故規則が必要となったかという理由を理解することが重要になります。法律に関わる試験では、ご承知の方もあると思いますが、基本書と呼ばれる参考書の中で逐条解説という解説書の理解が必須となってきます。逐条解説には、法律に記載された用語の定義、条文の趣旨や説明が解説されています。飛行規則(Flight Rules)にも、ルールが記載されていると共に、その下にその根拠や理由 (Rationale)も併記されています。

状況によっては、一方の規則に従うと、他の規則が成り立たない場合も生じます。そのような状況が明らに想定されれば、事前に各規則の優先度を定めておけば良いですが、想定外の事態も生じます。それを打開するためにも、ルールの重要度を理解して判断し、必要とされる時までに決断することが求められます。ルールを暗記しただけでは有効に対処できません。