チーム・マネジメント

有人宇宙の運用管制から、チームマネジメント、人間-機械システム、そしてヒューマンファクターズを考える

チームとしての訓練 【クルー・リソース・マネージメント】

チーム育成を考える上で、航空分野で進められている取り組みから学ぶことが多いです。その中でも、航空事故の教訓からクルー・リソース・マネージメント(CRM: Crew Resource Managment)が生み出され、CRMに基づいた訓練は個人のスキルアップを目指した従来型訓練とは異なります。


CRM開発の発端は、航空機の安全・信頼性が格段に向上したのにもかかわらず、人命を失う重大な航空事故が無くならないことでした。シミュレーション(模擬訓練 : Simulation)を通じて評価したところ、意外な新たな見地として、優秀なパイロットであるが、誤った(古い?)プロフェッショナル意識に基づくワンマン的な機長(Captain)が事故を起こす可能性があることです。ワンマン的な機長の下では、副操縦士(Co-pilot)が優秀であっても異常報告や提言は生かされず、機長が誤った判断や操作をすれば事故へ繋がります。隣にライセンスを持った副操縦士が座っているのに、機長一人で操縦してるのと同じで、チームとしての力が発揮できません。


その結果を改善させるため、CRMとして「(コックピットにおいて)利用可能なすべてのリソースを、最適な方法で最も有効に活用することにより、クルーのトータルパフォーマンスを高め、より安全で効率的な運航を実現することを目的とする考え方」が導入されました。ここで示すリソースには、地上の管制官キャビンアテンダントなども含まれます。チームメンバーの全員でチームとしての能力を最大限に発揮できることを目指していきます。


従来型訓練というと、個人個人の能力向上を図るのが第一の目的でした。改めて考えてみれば、チーム活動で必要なスキルは別に修得する必要がありますが、実務を通じて修得すると思われていました。例えば、シミュレーション訓練後のデブリーフィング(Debriefing)において振り返って反省します。デブリーフィングでは、その対応は良くなかった、難しい状況に陥るから回避すべきなどと、技術的な点が主に話し合われたり、個人に対する反省や改善内容が識別されます。


CRM訓練としてのシミュレーションでは、デブリーフィングにおいて、細かな技術的な内容に深入りせず、①コミュニケーション、②意思決定、③チームビルディング、④状況把握能力、⑤ワークロード管理などの観点からディスカッションを進めています。最初はCRM訓練という全く新たな訓練プログラムがあるのかと思っていましたが、これまでの訓練をCRMの観点から見つめ直して実施し、自分に欠けていたチームスキルに気付き、修得していきます。


ただし、気を付けないとならないのは、CRM訓練だけではチーム力は向上しないことです。CRMによってチームのトータルパフォーマンスが向上する成果も上がっていますが、欠点としてCRMが「互助会のような助け合いの制度」となってしまう危険性も指摘されています。「個人で劣るからチーム(組織)で何とかしよう」という考えが出てきたら黄色信号です。チーム以前に個人スキルの高いことが前提であり、自ら進んで切磋琢磨して知識の獲得やスキルの向上が求められます。


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