チーム・マネジメント

有人宇宙の運用管制から、チームマネジメント、人間-機械システム、そしてヒューマンファクターズを考える

生身の身体で宇宙へ挑むことができるのか 【サイボーグ】

 人間は宇宙船の助けなしで宇宙では生存すことはできません。超真空の宇宙空間では、身体を構成する体組織も瞬時に分解して蒸発してしまいます。気圧を保つ容器(Capsule)内に留まることが必須となります。呼吸を維持するためには、酸素の供給を受けて、吐き出した二酸化炭素を除去することも求められます。生命代謝を図るには、食料・水を摂取して、排出物を廃棄しないとなりません。そして、無重力状態において骨格を保つために運動も欠かせません。

 宇宙ステーションにおける宇宙飛行士の活動を通じて、人間が長期間(最長1年間)に渡って宇宙で活動するために必要な技術やシステムの開発は進んできました。空気や水に関して、二酸化炭素を除去して酸素を生成する技術や、使用済みの汚れた水を綺麗な飲料水まで再生する技術も確立され、輸送する空気や水を大幅に削減できる見込みができました。食料について、国際宇宙ステーション(ISS:International Space Station)でレタス等の栽培を試みていますが、現状ではほぼ全ての食料を地上からの輸送に頼っています。


Space in 4K - First Lettuce Grown and Eaten in Space

 大容量の荷物を輸送できる超大型ロケットがあれば、数年分の食料を積むこともできるかもしれません。人間が活動するために食事は不可欠で基本として1日3食を摂取することになります。フリーズドライ(Freeze Drying)食料ならば、水分を昇華させて乾燥させるので重量を軽くでき、食べる前にお湯を加えて元に戻します。1食100gとしても1か月で1人が摂取する食料は9 kgくらいとなります。目的地に到達するまで人間を冬眠させて代謝を下げ、食料の消費は抑えられるかもしれませんが、まだSF(Science Fiction)の世界です。

 また、長期宇宙における無重力の影響について、最近の研究成果によると、視力低下そして失明する可能性が指摘されています(参考記事)。重力について以前に考察しました(以前の記事)。無重力の対策について人類が宇宙に生活する場所としての宇宙コロニー(Space Colony)構想でも検討されています。巨大な構造物ならば、軸回りに回転させることで得られる遠心力を、人工重力として活用できるかもしれません。

 

 人類が地球圏を離れて活動するならば、最も対策の目途が立っていないのは、放射線対策と考えられます。耐放射線の技術が大幅に向上していれば、福島第一原子力発電所事故に対する対応も後手に回らず、早急に冷却設備を復旧させて水素爆発も起きずに済んだかもしれません。以前の考察で放射線が宇宙に満ちていことを説明しました(以前の記事)。地球上では磁気圏や大気・海が宇宙からの有害な宇宙線(Cosmic Ray)を遮ってくれます。そして、ISSが飛んでいる高度400kmも磁気圏内であり、地球が守ってくれています。

 宇宙から地球へ直接入射する宇宙線を一次宇宙線と呼んでいます。一次宇宙線は、太陽系外の超新星爆発によって生成される高エネルギーの銀河宇宙線、太陽から放射される太陽宇宙線の2つにわけられます。銀河宇宙線は、大部分が陽子であり、α線(ヘリウム原子核)が8%、β線(電子)が1%、その他の原子核が0.2%から構成されます。鉄やニッケルくらいまでの原子核が多いですが、重い元素の原子核重粒子)も存在します。それに対して、太陽宇宙線も、大部分が陽子で、α線β線、それより僅かに重い原子核(鉄まで重くないです)も含まれています。

 太陽系へ注ぎ込む銀河宇宙線の量は大きな変動はないですが、太陽宇宙線は太陽活動の活発さによって変化します。11年周期で太陽活動の極大期が確認されています。太陽極大期では、太陽宇宙線が強くなって銀河宇宙線を弾き飛ばすことも確認されています。銀河宇宙線重粒子が低減するため、地球圏外の惑星間航行に適しているかもしれません。しかし、予測が難しい太陽宇宙線の束(太陽風)を縫うように航行進路を取らなければなりません。太陽風を直撃してしまえば、致死量の放射線を浴びてしまいます。

 

 地球大気圏には、一次宇宙線が地球の大気中の原子核に衝突して生成される二次宇宙線が存在しています。二次宇宙線は中間子・陽電子・電子などの高エネルギー粒子です。同様に宇宙船の外壁に宇宙線が当たり、そこから別の放射線が生成されます。この放射線によっても宇宙飛行士は被ばくすることになります。

 放射線遮蔽について、α線は紙1枚でも遮蔽でき、β線は宇宙船外壁で使われるアルミニウムでも止めることができます。γ線(電磁波)ならば重金属の鉄や鉛で吸収することができます。高速中性子線は、鉛でも通過しますが、陽子1個の原子核を持つ水素に当たると減速します。高速中性子線は水やコンクリートなどの水素を多く含むもので遮蔽できます。重量を考えなければ、分厚い鉄・鉛・コンクリートによって遮れば、α線β線γ線中性子線から防御できそうです。ただし、鉛の比重は11.3であり、10cmの立方体で11.3kgの重さにもなります。

 地球圏から離れて宇宙飛行を試みようとすけば、さらに重大な問題に直面します。銀河宇宙線に含まれる重い元素の原子核重粒子)が飛び回っています。この重粒子からなる放射線は驚異的な速度とエネルギーを有しており、人体に当たればその破壊力は凄まじいです。DNAは引きちぎられて変異を引き起こし、発生する腫瘍はその他の放射線と比べても悪性度が高いとの報告があります。重粒子に衝突すれば修復不能なほど破壊的に損傷します。

 そして、遮蔽壁に重粒子が当たったとすると、核分離を生じさせて、他の二次宇宙線を発生したり、他の軽い原子核に変移する可能性もあります。そのため、重粒子に対しては遮蔽壁も有効ではありません。重粒子の中でも多く存在するのが鉄の原子核で、確率的には1年間に渡って地球圏外で過ごしたとすると、鉄の原子核に最低一度はぶつかる危険性があります。

 

 船外活動(EVA:Entra-Vehicular Activity)のために宇宙飛行士は宇宙服を着用しますが、宇宙服は、内部気圧を維持することが主目的であり、耐放射線の性能はありません。原発事故に対応するため、放射線防護服を着用した人が活躍しています。ひとつの目的は、放射性物質を身体に付着したり、体内に入ることを防ぐことです。ふたつ目は、遮蔽物が入っており、放射線による被ばくを軽減するものです。使用済みの放射線防護服は使え捨てであるため、福島第一原子力発電所内には廃棄待ちの使用済み防護服が山積みになっています。

 放射線が頻繁に多く飛び交う環境では、全てを封じ込めるのは不可能であるとも言えます。放射線が体内細胞にぶつかれば異常をきたしますが、放射線の大部分は通過するだけです。重粒子が遮蔽物や壁に衝突すれば二次的な放射線を生成され、それによって被ばくすることがあるから厄介です。

 イスラエル企業StemRadが開発した放射線防護ヴェスト「AstroRad」をNASAへ供給するとのニュースがありました。「AstroRad」は原子力事故等で作業者が身に着けるように開発された「360 Gamma」を宇宙線へも対応できるように改修したものです。ヴェストとして着用して、器官の幹細胞密集部を保護することに特化しています。細胞分裂した細胞ががん化することを防いで、がん発症を抑えることを目的にしています。

 

 耐宇宙線の発案として、薬物による放射線障害の低減、遺伝子編集による放射線への抵抗力強化なども挙げられていますが、実用化には程遠いです。現在のがん治療方法を進めて、免疫系を強化し、異常な細胞を見つけ出して排除することができるかもしれません。がん治療でも困難さはわかりますが、がんを抑制することが先か、がんの進行が先かによって、生死を分けてしまいます。

 SFの世界かもしれませんが、死に絶えた臓器の一部を機械等に置き換えて、人は生き残ることができるのでしょうか。実社会においても病気や障害のため、人工透析を受けている患者、人工心臓を組み込んだ患者、義手・義足を装着した障害者もおります。

 1960年に米国の科学者 マンフレッド・クラインズが「サイボーグ(Cyborg)」を提唱しました。サイボーグ(Cyborg)は、Cybernetic Organismの略語であり、宇宙空間・海底などの特殊な環境に順応できるように、人工臓器などで体を一部を改造された生物を指します。先ほど述べたように、医療目的で患者の機能を回復させるサイボーグは進歩しています。健常者が装着して機能を強化させるサイボーグも開発されています。パワードスーツとも言える日本企業 サイバーダインのHAL(Hybrid Assistive Limb)は実用されています。

 

 サイボーグ技術が発展すれば、宇宙線放射線に打ち勝てるのでしょうか。ロボットの遠隔操作は、ドローンや重機などでも示されているように進歩してきています。しかしながら、福島第一原発事故でも明らかになったように、現在の技術では高い放射線を伴う環境下ではロボットを活用することはできません。1979年に起きたスリーマイル島原発事故でも遠隔操作による技術の必要性は認識されていました。日本では原発に重大事故は起きないとの神話を信じて、高放射線下の遠隔ロボットについて真剣に研究開発も進めてきませんでした。

 電子機器が高い密度の放射線にさらされると、誤作動を生じさせたり、過電流が流れて回路をショートさせます。シングルイベント(Single Event)として、航空宇宙で使用される電子機器では対応策が取られます。荷電粒子がメモリ素子などに当たると記録されているデータが反転します。1つのビット反転ならば自動修復する機能を搭載します。ただし、複数の反転が同時に生じてしまうと復旧できなくなります。また過電流を検出して機器を遮断し、自動的にリセットして機能は復旧できます。しかし、頻繁にリセットが発生すれば使い物にならず、過電流保護装置が故障すれば回路破損につながります。

 

 人間が地球圏を離れることは、まだまだ大きな壁が立ちはだかります。放射線を予測して低い線量の部分を駆け抜けていかなくてはなません。重粒子を完全に防ぐことはできず、放射線防護策についても見直さないとなりません。そしてダメージを受けた後、早急に回復できるような治療法も求められます。

 

Hubble Frames an Explosive Galaxy

 

参考文献

  1. 宇宙での放射線の問題とその計測
  2. 放射線の遮へい (08-01-02-06) - ATOMICA -
  3. 宇宙船搭乗員の放射線防護 (09-02-07-09) - ATOMICA -
  4. 宇宙用材料と放射線 (08-04-01-10) - ATOMICA -
  5. 人工知能は敵か味方か
  6. イスラエル発の防護ヴェストが、火星に向かう人類を「宇宙線」から守る|WIRED.jp

 

不確実の高い世界を生きていく 【VUCA】

 世界中が混沌として見通しが立てられなくなってきました。全てが目先の短期的な利益だけを求めて動いているようです。ICT(情報通信技術)が発展して、世界中を情報が駆け巡り、世界は狭くなった感じがします。地球の裏側で生じた事件が身近な生活までも脅かすようになりました。

 ソーシャルネットワークSNS)によって、人々の絆が深まると思われましたが、実際には大きな分断を生じさせています。人々は仲間のみで繋がり、意見の異なる人の考えを受け入れず、その人々を無視することができます。好みのニュースや情報のみを参照するようになり、都合が悪いことは見えなくして、誤った事実(Fake News)が真実として信じられています(Post-Ture)。

 日本にいても危機が迫っているように感じます。日本人は平和ボケしているように思いますが、日本の周辺で紛争や問題が山積しているにもかかわらず、何も生じていないような錯覚に惑わされます。ニュースや新聞で騒いでいることはご承知の通りです。日本人が真実を知らないように、わざと隠そうとする意図が働いていると勘ぐってしまいます。

 

 現代の不確実に対して用いる言葉として、語源は軍隊用語でありますが、「VUCA」があげられます。Volatility(不安定さ)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑さ)、Ambiguity(瞹眛さ)の頭文字を取った頭字語(Acronym)です。

 不確実性が高い状況の中でどのように生きていくのか? 現代を生きる人々が最も知りたいことかもしれません。しかしながら、その不安は解消することはできなく、その不安定な時代を受け入れなれければならないです。少し将来における目標を立てたとして、外部環境は安定しており、順調に進捗できるとします。外部環境が荒れており、逆風が強ければ目標を達せられず、順風であれば大きく上振れします。リスクマネジメントでは、その振れ幅をリスクとして認識します。

 良いことも悪くなることも自分たちでは制御できません。そうするとどちらに転んだとして対応できる柔軟さが重要となってきます。その不確実な状況でも、自ら選択して制御できることも多くあります。ビジョナリーカンパニーの著者 ジム・コリンズ (Jim Collins)は、苦境があっても乗り越え、未来を切り開くリーダーを10X型リーダーと呼んでいます。10X型リーダーは、目標達成に向けて着実にペースを乱さず、20マイル(32キロメートル/時)行進を実践していきます。

状況の変化に過敏に反応し、常時「もしこうなったら?」と自問している。①事前に準備する、②補給品の蓄えを十分に確保する、③非合理的といえるほど十分に安全余裕率を高くする、④リスクを抑える、⑤良い時でも悪い時でも規律に磨きをかける、を徹底している。こうすることで、強靭で柔軟な態勢を維持しながら危機と向き合うのだ。失敗から何か学びたいならば、失敗しても生き残るほど強靭で柔軟でなければならない-10X型リーダーは心の奥底でこう理解している。 ジム・コリンズ

 

 ひと昔以前の世界ならば、多数の人々を巻き込む危機は、戦争や災害など本当に個人では避けることができないことでした。突然に現実となり、予測は不可能な外部から与えられる事象でした。世界の結びつきが強くなり、ネットワークが張り巡らされた社会となり、複雑な(Complex)システムとなりました。小さなことでも増幅されて大きな影響が生じる事態になってきます(以前の記事)。現代の不確実は、断絶的に生じるのではなく、前触れや予告が瞬時に拡大して連鎖していき、多くの人々を飲み込んでいくようです。

 ビッグデータとして大量なデータを分析すれば、不確実の世界でも次に何が起こるのかをわかるのでしょうか。優秀なデータ・アナリシスト(Data Analyst)ならば、データから複雑な現象がどのようにして起きたのかを説明できるかもしれません。ただし、予測は難しいというより、不可能に近いと思われます。新奇な事象が放り投げられれば、その後は全く異なる展開をたどっていきます。

 人工知能(AI)の発達を通じて見えてきたのは、これまで人間にしかできないと思われていた単純な思考、目的を達する知的な作業は機械に置き換えられることができることです。しかしながら、AIを実装して稼働させるためには、新規に多くのハードウェアを組み合わせ、大量な電力を必要とします。AIでも実行できる業務であっても、費用対効果を考慮すると、人間が担当したままとなる作業も残ります。

 

 現在のAIは問題解決にしか能力を発揮できないので、問題を設定したり、方向性を示すのは人間の役割となります。特に不確実性が高い時代では、全体をとらえることができる大局観を磨き、全体の中で問題の要所を抑えて、それを組織やシステム(AIを含む)を通じて解決させる(「する」ではありません)能力が重要となります。そのためには、同じ情報やデータを眺めていても、その中から相違点(Anomaly)に気づける・感じれる能力が求められるようになるのかもしれません。

 

The volcanic ash plume from Mount Kilauea

 

参考文献

  1. 「ポスト真実」の時代 「信じたいウソ」が「事実」に勝る世界をどう生き抜くか
  2. ビジョナリー・カンパニー4 自分の意志で偉大になる
  3. ビジネススクールでは学べない 世界最先端の経営学
  4. TEAM OF TEAMS (チーム・オブ・チームズ)
  5. 「暗黙知」の経営―なぜマネジメントが壁を超えられないのか?

 

地球・生命にとって最も重要な要素 【水】

水五訓
一、自ら活動して他を動かしむるは水なり
一、障害に遭って激しくその勢力を百倍にして得るは水なり
一、常に己れの進路を求めてやまざるは水なり
一、自ら潔うして他の汚濁(おだく)を洗い、清濁(せいだく)併せ容れるは水なり
一、洋々として大海を満たし、発しては雲となり雨と変じ、凍って玲瓏(れいろう)たる氷雪と化す しかもその性失わざるは水なり


 人間は、数日食物を摂取できなくても生存を維持できますが、水の摂取が断たれれば生きてはいられません。人は成人で1日に180リットルほどの水を体内で使用しています。お風呂一杯分に相当する量です。それほどの大量な水を飲む必要はなく、体内で使用する大部分の水は、腎臓によって不純物をろ過して再利用されます。毎日飲むことや食事を通じて摂取する水の量は2.5リットルが目安とされています。

 水は人間の体内で様々な働きをしています。生命維持のために主な役割としては以下の4つがあげられます。一つの生命体として存在していますが、体外から空気や食物を取り入れて、体内の水を通じて身体の隅々まで行き渡らせます。代謝にて生成された老廃物は水に溶け込んで持ち出され、尿や便としてまとめて体外へ排出されます。

① 血液の主成分として酸素や栄養素を体内にくまなく運搬する。
② 老廃物を溶かし込み尿として体外へ排出する。
③ 体温を調節する。
④ 体液(細胞内液、細胞外液)の主要構成要素として細胞を機能させる。

 

 地球上では、大気の循環に従って雨として水が空から降ってきます。地上の生命は雨の恵みを受けて、生きるために必須な水を蓄えることができます。雨水が集まって、川となって滔々と流れ、地表に留まらずに地下に浸透します。湧き水として現れ、地下水として保水されます。地下水として汲みあげられる水は、地層によって異なりますが、数百年から数千年前に地表から地下へ浸透されてろ過された水です。

 人間の命よりも長い時を過ごした貴重な水が、ミネラルウォーターとして手軽に購入できることは驚くべきことなのかもしれません。しかしながら、地下へ浸透する水の量以上に地下水を使用すると地盤沈下を起こしてします。海洋における水の流れも、北大西洋北部や南極周辺海域で冷やされて重くなった水が沈み込み、海洋深層水となって世界を循環しています。一周するのに三千数百年をかけて移動している深層水を汲み上げて活用されています。

 

 水の惑星である地球には多くの水が存在していますが、塩水が97.5%で、淡水は2.5%しかありません。その淡水の中でも約70%は氷河や雪、氷の形で閉じ込められています。したがって、飲料水、農業用水、工業用水などで直接使用できる水は1%もありません。日本は水資源が豊富な国の一つであり、上水道の普及率も高く、水道の蛇口をひねれば飲料水が手に入ります。考えてみれば生きるのに恵まれた環境です。

 世界に視点を広げてみれば反対に水不足に苦しむ国々もあります。水を求めて離れた水源まで水汲みの重労働を虐げられたり、高額を支払って水を購入しなければならないこともあります。農業では、灌漑設備を整えて、散布用の水が必要になります。酪農・畜産においても、動物を飼育するために大量の水資源を使用します。工業では水は様々な用途で使用される資源であることは言うまでもありません。農作物、畜産物そして工業製品を輸入するということは、現地の貴重な水資源を消費していることにもなります。

 そう考えてみると、日本は技術力が高いだけではなく、環境が清潔で綺麗な水を入手できるため、高度で高品質な工業製品を製造できる能力があるのかもしれません。古(いにしえ)から日本酒を醸造できたのも、清く澄んだ水が湧き出ていたからです。

 水の再利用を図るためにも、水処理技術が重要になってきています。水と混ざっている不純物を取り除くため、ろ過によって固体物を分離します。水の利点でもありますが、様々なものを溶かしています。不純物を除去するため、酸化・還元反応が用いられます。酸化(oxidazation)とは、言葉の通りに酸素によって起こる物質の反応のことです。その可逆反応が還元(reduction, deoxidization)です。酸化によって、有機物を二酸化炭素(CO2:Carbon Dioxide)と水(H2O)に分解します。

 

 太陽系で一番多い元素は水素(H:Hydrogen)、次はヘリウム(He:Helium)であり、水素とヘリウムで元素の質量の99%を占めています。3番目に多いのが酸素(O:Oxygen)です。ただし、太陽系において太陽の占める部分が巨大すぎて、ほぼ太陽の組成比となります。地球の組成について、大気、陸、海に分けてまとめてみました。

 地球の大気を容積比で表すと、窒素(N:Nitrogen)が78%、酸素(O)が21%、アルゴン(Ar:Argon)が0.9%となります。水蒸気(Water Vapor)は場所と時間によって大きく変動して最大4%です。地球温暖化の原因となっている二酸化炭素(CO2)は上昇しており、18世紀の0.03%からまもなく0.04%に達する勢いです。

 地球の地殻は質量比で、酸素(O)が46%、ケイ素(Si:Silicon)が27%を占めます。そして、アルミニウム(Al:Aluminium)、鉄(Fe:Iron ラテン語"Ferrum")、カルシウム(Ca:Calcium)、ナトリウム(Na:Sodium, Natrium)、カリウム(K:Potassium)、マグネシウム(Mg:Magnesium)、チタン(Ti:Titanium)が含まれ、これまでの元素で99%を構成します。次が水素(H:Hydrogen)となりますが、軽いこともあって構成比0.14%です。炭素(C:Carbon)は0.03%に過ぎません。

 海水の成分は、水(H2O) 96.6%、塩分 3.4%から構成されます。この塩分として、塩化ナトリウム(NaCl:Sodium Chloride) 77.9%、塩化マグネシウム(MgCl2:Magnesium Chloride) 9.6%、硫酸マグネシウム(MgSO4:Magnesium Sulfate) 6.1%などが挙げられます。

 

 水分子(H2O)を構成できる水素(H)と酸素(O)は宇宙では多いことになりますが、地球では海に大部分(97.5%)が含まれています。宇宙で水がありふれた物質であるため、地球以外にも水の惑星が存在する可能性は十分にあります。

 水分子の奇妙な振る舞いによって、生命が育まれたこともあって興味深いです。水分子を構成する酸素原子が2つの水素原子の電子をかなり強く引きつけ、酸素原子はマイナスに、水素原子はプラスに帯電した状態になっています。そのことが水分子同士の結合を更に強くしています。この強い分子間力が働いているため、摂氏0度から100度の広範囲において、水が液体の状態を維持できます。

 私たちの身の回りで常温で液体となる物質は、水はもとより、油として食用油、石油やガソリン、そしてアルコールくらいです。金属では水銀(Hg:Mercury)が唯一の物質です。したがって、一般的に温度と圧力の狭い範囲において液体の状態になります。温度が低ければ固体となり(凝固)、温度が高くなると分子の活動が活発となって分子間力を振り切り、気体となります(蒸発)。

 

 水が凝固して氷に変わり、水が蒸発して水蒸気に変わる場合にも、奇妙な特性があります。氷を作るために水を冷やして熱を奪っていくと、水温が0度になって氷ができ始めるが0度から温度は下がりません。全て氷になってから0度以下に低下し始めます。見方を変えると、水から氷に転移すると潜んでいた熱を放出することになり、潜熱と呼ばれています。水の比熱(物質1グラムの温度を摂氏1度挙げるのに要する熱量)は1カロリーであるが、1グラムの水が凝固して放出する潜熱は約80カロリーとなり、思っているよりも大きいです。氷や雪がなかなか融けない原因もこの潜熱の大きさにあります。

 水から水蒸気に転移する場合にも潜熱があり、1グラムの水を蒸発するには約530カロリーの熱が必要です。1グラムの零度の水を100度に沸騰させるのに必要な熱量は100カロリーであり、それを蒸発させるには更に5倍の熱量が必要ということになります。水蒸気には大量な熱を潜んでいることになります。この潜熱が台風による破壊的な力を生み出すとも捉えることができます。

 化石燃料を燃やして二酸化炭素が増加して温暖化が進めば、北極・南極に閉じ込められていた氷河が溶けて、そして海水が蒸発して水蒸気になります。水蒸気も温室効果をもたらす温暖化ガスであり、小さな変化(二酸化炭素の濃度上昇)でも負のスパイラルに落ち込んで、ますます地球上の気温が上がり、水蒸気が増えて歯止めが効かないほど温度が上がります。最終的には地球上で生命は住めなくなります。


 もう一つ水の奇妙な特性として、氷が水に浮きます。グラスに氷水を入れて見慣れたことで、氷点下となった池や湖の水は表面だけが凍っています。水は4度で密度が最大となるからです(ただし、塩水は塩分が濃くなるほど密度が最大になる水温は低下します)。コップの中の対流実験を思い出してみると、冷たい水(重い水)が下層に溜まりますが、氷になると上層へ上がってきます。一般的に他の物質では固体のほうが重くなります。

 地球史において地球上が全て氷で覆われたことが2度あったことがわかっています。スノーボールアース(Snowball Earth) すなわち 雪玉地球 事件です。地球の表面が氷となっているため、太陽からの熱や光を宇宙へ跳ね返して地球の地表は温まらずに、凍てついた冷厳な銀世界が広がっていました。ますます地球は冷え切って生命も途絶えて、死する地球となるところでした。

 地球の中心では、高温を維持したマントル(Mantle)が存在し、火山活動も活発でした。海の上層は凍ってしまいましたが、地球が持つ熱によって海底には液体の水が取り残されました。そのために生命は生き抜いたとの説が有力となっています。生命を守ったのは氷が水に浮く特性があったからです。

 水の惑星は、生命に満ちた惑星になることもできますが、温まりすぎて水蒸気が多くなると高温で生命が生きられない星に、冷えすぎて氷に覆われれば生命が凍える星に変移してしまいます。現在の地球は、天の采配があったのか、生命に適した狭い領域に留まっています。両脇は崖であり、転げ落ちたら奈落の底に突き進んでしまいます。

 

Japan Looking From North to South

 

参考文献

  1. 「水」をかじる (ちくま新書)
  2. 生命の星の条件を探る
  3. 水リスク?大不足時代を勝ち抜く企業戦略
  4. 入門ビジュアルテクノロジー よくわかる水処理技術 (入門ビジュアル・テクノロジー)
  5. 謎解き・海洋と大気の物理―地球規模でおきる「流れ」のしくみ (ブルーバックス)
  6. 海はどうしてできたのか (ブルーバックス)