チーム・マネジメント

チームマネジメント、人間-機械システム、そしてヒューマンファクターズを考える

プロフェッショナルとしての1万時間の壁 【ベテラン】

 経験を積んで、その道に熟達している人をベテラン(veteran)と呼んでいます。米国において単に"Veteran"と呼んだ場合、退役軍人を示し、日本語の古兵(ふるつわもの)が英語の意味とも一致しています。我々が通常使っているベテランはどちらかと言うと和製英語であり、エキスパート"Expert"のほうが熟練者・達人を示していて適切かもしれません。

 実際の戦闘ではありませんが、百戦錬磨の古兵という意味も込めて、ここではベテランとして取り上げてみます。どのような職場にも、長年の経験を積んでいるベテランを見かけます。ただし、そのベテランとして格は人それぞれです。ベテランのふりをしていたり、ある分野に対する熟達者かもしれないし、他に代わる人がいない名人級な人も存在します。

 

 業務の経験値を高くならなければなりませんが、職人ともいえる卓越したレベルの技能と経験を獲得するためには累積1万時間以上継続した訓練が必要と言われます。単純計算してみると、1日8時間を費やしたとしても、3年半くらいの年月が必要となります。プロフェッショナル(Professional)として1万時間を必須とすると「石の上にも三年」のことわざにも一理あります。

 人間が技能やスキルを磨いて一人前になるためにはそれなりの期間が必要ですが、現代では効率が問われ、その必須の期間を若い人々に与えることができなくなっています。会社で人を育てることができなくなったから、即戦力としての人材を外に求めますが、そのような人材は世の中に限られています。しかも、日本だけではなく世界で取り合いとなっています。

 能力主義の格差が起きており、1万時間をクリアして引く手数多(あまた)な人たち、技能や経験を十分積めずに底辺に居続ける人たちに2分されてきています。世界的に若者の失業率が高いことも、この弊害が表れているように思えます。学生時代に自らの方向性を見出し、1万時間を達成できるかもしれません。しかし、求められるスキルも変化していることもあり、社会に出ても常に訓練を続けなければなりません。

 

 仕事でも、スポーツや趣味でも同じですが、新しいことにチャレンジするには、何段階の訓練が求められます。各段階を超えるためには、見えない壁が存在します。

① 導入期
上達の最初のステップで、専門期の厳しい練習に耐える意欲を育てる。専門的な知識や技術を身につけるよりも、練習そのものが楽しく、夢中になって取り組む「快体験」をすることが主眼になる。エキスパートの多くも、この時期は専門性を前面に出して教える指導者に付くことはほとんどなく、親や兄弟、そして友人と一緒に楽しく活動したり、自宅近所の教室の先生から楽しく指導を受けていたりすることが多い。

② 専門期
導入期で快体験を味わい、「もっと上達したい」という欲求をもった人が、次に進むステップ。「質の高い練習」を継続して行い、基礎基本を学ぶ。「成功体験」や「(夢中になる)フロー体験」を積むことが重要なため、その人の習熟度合いに合わせた難易度の課題を練習することが非常に大切になる。このため、専門的な指導者に付くのが一般的。

③ 発展期
上達の最終段階。基礎基本を越えて、自分の個性的なスタイルを確立し発展させる。この時期を経ることで、前記の「機械的」あるいは「手際のいい熟達者」から「適応的熟達者」に脱皮できる。選手や生徒が指導者から距離を取って自立的に成長することが大切なので、指導者はコーチというよりもアドバイザー的役割になる。

 引用:300人の達人研究からわかった上達の原則

  ベテランでも専門期を脱してもその先を目指さないかもしれません。これまでの経験から決められている技巧を効率的に続けることができます。手際のいい熟達者です。環境や条件が変わったり、技巧が古くなったとたんに、変化に適応できずに使えない人になることもあり得ます。本物のベテランになるためには、発展期を目指して自らスキルを上げていかなければなりません。

 以前ならばベテランは「できた人」として、過去の実績だけで評価されていました。だが、いざ非常事態となれば「できた人」では役に立ちません。本物のベテランならば「できる人」で居続けなければなりません。それには、環境や時代の変化を捉え、要求や向上レベルを高めたり調整して、更なる高みを目指さなければいけません。

 

 上達すべきスキルとは何か? 大量の情報にアクセスできるネットワーク、狭い意味の人工知能機械学習参考記事)を考えると、昔のように何々の職業に就いたほうが良いといえません。専門的な知識を身に着けたとしても、知識だけならば誰でもネットで入手できます。存在価値も直ぐに陳腐化していきます。

 社会がどのように変化しても必要となり、機械に変わられないもの。情熱を持ち続け、前向きに行動する習慣があることと思います。成果があげるのに、根気のいる作業そして途方もない努力が必要であっても、情熱があれば成果に結びつけることができます。そもそも機械などを用いて効率化を目指したら絶対に選択しない偉業です。

 世の中には悩ましい些細な問題で溢れています。それに追われてしまえば、毎日は過ぎ去っていき、充実した日々は過ごせません。人生で悩むのは立ち止まっているからであり、前向きに進んでいく力が重要です。進んでいけば見える景色は変わっていきます。そのためには、早起き、挨拶、整理整頓などの良い習慣が必要となります。健康・健全な身体を保つことも不可欠です。

 

 社会に出て成果をあげるには、1人でできることには限りがあります。複数の人々が集まって組織やチームの中で相乗効果を発揮し、社会に求められる貢献を行っています。個人が持つ弱点を少なくし、長所を生かすことがチーム構成の基本です。算数では1+1=2ですが、相乗効果によって1人+1人は3人力、5人力、10人力……にも達します。

 学校において、部活動などでチームとして目標を目指す訓練を積めますが、本業の学業では相変わらず個人個人に成績をつけ、学力(知識量、試験スキルなど)のみを評価しています。実社会で求めれるのはチームや組織で仕事ができる社会スキル(Social Skill)です。世界保健機関(WHO)は、社会スキルを「日常生活の中で出会う様々な問題や課題に、自分で、創造的でしかも効果のある対処ができる能力」と定義しています。「人生に必要な知恵はすべて幼稚園の砂場で学んだ」を著したロバート・フルガムの考えには一理あります。

 

 現代における「ベテラン」とは、「できた人」ではなく「できる人」で居続ける必要があります。知識や技能だけでなく、人間性や社会スキルが問われ、組織やチームの中で活躍し続ける人材であることが問われています。

 

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参考文献

  1. 失敗学のすすめ (講談社文庫)
  2. 機長のマネジメント―コックピットの安全哲学「クルー・リソース・マネジメント」
  3. ワーク・シフト ― 孤独と貧困から自由になる働き方の未来図〈2025〉
  4. 300人の達人研究からわかった 上達の原則
  5. 危機管理のノウハウ part 3 危機に強いリーダーの条件 (PHP文庫 サ 1-3)
  6. これから知識社会で何が起こるのか