チーム・マネジメント

有人宇宙の運用管制から、チームマネジメント、人間-機械システム、そしてヒューマンファクターズを考える

不可逆的選択に対する最終決定【Go/No Go】

 意思決定において、行動を決行するのか、中止するのか、判断に迷うことがあります。失敗が判明した後に元の状態に戻れるならば、先ずは実行してみて反応を見ることができます。失敗と判れば、直ぐに引き返し、影響は最小限に抑えられます。しかし、不可逆的な事項で、失敗したら重大な結果を伴うことならば、意思決定を慎重にならざるを得ません。

 しかしながら慎重を期したとして、全ての不安は解消されず、決断できずに時間だけ過ぎていくことになりかねません。先送りしたほうが良い案件もあるかもしれませんが、多くの場合は決定しなかったことで後手にまわって、次々と不利な状況となります(以前の記事)。

 意思決定はプロセスであり、チームとして決定する手続きが明確ならば、複数の目を通して、見落としを少なくでき、専門的な評価がなされるので、不確定要因はリスクの範囲内に抑えられるかもしれません。トップ1人で意思決定するようも格段に不安要素は減らすことができます。そのような体制が理想的なトップマネジメントの姿なのかもしれません。

 

 進むか(Go)それとも止まるか(No Go)について、明確の基準があれば判断を間違えることはなくなります。製造現場においてGo/No Goゲージ(Gauge)を設けて、通過したものを合格、通過できなかったものを不合格と判定します。ここでも設定する合否判定基準が重要となってきます。

 ロケットの打上げのように、一度燃料に着火してしまったら、固体燃料ロケットは止めることができず、液体燃料ロケットでも停止によってエンジンが損傷するかもしれません。射点から離れて上昇を開始し、予定していた軌跡を通過しなければ、地上に落下するかもしれません。地上に危険を及ぼすならば、射場安全(Range Safety)が破壊指令(Destruction Command)を送信して粉々に爆破します。有人ロケットならば破壊前に、打上げ脱出システム(Launch Escape System)を起動させて、クルー居住部をロケットから分離そして退避させます。

 ロケットでは、打上げ許容基準(LCC:Launch Commit Criteria)が規定されており、この基準を満たさない事象が確認されたならば、打ち上げは延期されます。基準も技術的な制約(性能低下、機器が壊れるなど)から設けられたもの、リスク軽減・安全性確保から設定されるもの(天候、領域に船舶がないなど)、政策的な制約(利害関係者との合意など)となるものがあります。

 

 すべてが順調であり、問題も起きておらず、基準もクリアしていれば、Goの意思表示を行うことは容易です。チームの意志として進むことが望まれている時、No Goを伝えることは勇気がいります。判断基準が明確であり、基準を逸脱することが明らかならば、止めることは誰もが納得します。

 ただし、基準を明確にしておかなかった場合、決断までの短時間のうちに、根拠とともにNo Goを伝えて、関係者を説得しなければなりません。人間の感情や恐れの要素が入り込み、技術根拠ではなく、政治的なプレッシャーから間違った決断をしてしまうことも考えられます。No Goの主張を貫くことができず大事故に至ったのは、チャレンジャー号事故を振り返って頂ければわかります(以前の記事)。

 状況が刻々と変化する中で、準備中や未解決な案件が片付くまで、Goを出すことができないこともあります。その場合、課題XXXが未解決であるがGoとの宣言(Go pending XXX)もあります。ただし、実行時点になっても課題が解決されていなければ すなわち No Goとなります。

 

 Go/No Goコールは映像的にも格好良く、このシーンに憧れて管制官になった人もいます。しかしながら、些細な決定まで毎回Go/No Goコールを行うのは時間も手間もかかるので、電子投票システムを活用してボタンで意思表示することも有効かもしれません。




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参考文献

  1. Failure Is Not an Option: Mission Control from Mercury to Apollo 13 and Beyond (English Edition)
  2. アポロ13号 奇跡の生還 (新潮文庫)