チーム・マネジメント

チームマネジメント、人間-機械システム、そしてヒューマンファクターズを考える

個人の考え、思想を変えることができるのか?【意志】

 自分と他人を分ける自己を認識し、自ら行動する主体として自我が形成されます。哲学や心理学における問いの始まりかもしれません。デカルト(Descrartes)の『我思う、故に我あり』、パスカル(Pascal)の『考える葦』として示されています。哲学を語るほどの教養はありませんが、ここでは「意志」について取り上げていきます。

 自らを省みても、人は意志を持っている、すなわち 物事を思慮し、選択、判断して実行しようとする積極的な心ぐみを抱いています。個人主義(Individualizm)は個人(自分だけでなく他人も)の意義と価値を重視することが基礎であり、自由主義(Liberalism)は、個人の自由を尊重し、国家の干渉を排除しようとする原理です。

 さらに進んでリバタリアニズム(Libertarianism)となると、自由意志を尊重して、政府による制限や介入をなくして、個人が全て自らの意志によって決定し、それに対する責任は自らが負うということを求めています。世界でいうリベラル(Liberal)ならば、弱肉強食の自由主義のみに突き進むのではなく、社会的公正を重視して社会福祉など政府の積極的な介入も求める考えです。ただし、日本でリベラルというと何を示しているのかはわかりません(今回で明らかになるのでしょうか)。

 究極な自由主義ならば全てを自由意志で決められるかもしれませんが、実際の社会に出れば、自分の意志だけでは決められないし、上位の権威を持つ者に従わなければなりません。権威に対する服従について研究した『服従の心理』をスタンレー・ミルグラム (Stanley Milgram)が著作しています。記憶に関する実験と称して、記憶が弱いと権威からの指示に従って電気ショック(罰を受ける担当は演技し、実際に電気を流していません)を加えることができるのか、詳細に記録が取られました。

 その研究によって、ナチスによる強制収容所において、何ぜ国民が残虐な行為に加担していったのかを明らかにしています。ある行為を行うため、作業を分担して責任も細かく分担します。そのため、虐殺に対して、命令書を作成する人、サインする人、人々をガス室へ誘導する人、ガスを投入する人などと分割して、自分の判断で殺人行為を行なったと感じなくなりました。

 権力を伴う階層組織と服従によって悲劇が生まれてきたことは、特に戦争の歴史が物語っています。長らく教わってきた道徳や倫理から逸脱させてしまうほど、個人の意志を権威と服従によって容易にねじ曲げてしまいます。逆説的に考えれば、自由意志を尊重すれば、殺略が絶えない陰湿な歴史の再現を防止することができるのでしょうか? しかしながら、現代社会は分業化が進んでおり、各自が組織の中で働き、全ての結果に対して責任を持つ人物はいません。日本が無謀ともいえる太平洋戦争に突き進んだことも、同様な仕組みが働いていました。

 意志や思想を変えるプロセスとして、テロリストの調査を行ったイスラエル心理学者アリエル・メラリがトンネルに喩えて説明しています。トンネルは、細く長い管状の通り道で、外界から完全に遮断され、入口を入れば出口まで光はありません。この2つの要素 ①外部の世界からの遮断、②視野を小さな一点に集中させることによって、自爆テロに突き進んでしまう。チーム活動にもトンネルの仕組みを活用できますが、広い視野を失ったり、洗脳に近い効果があるため、長い期間に及べば副作用は認識しておく必要があります。

 意志や行動を変えるプロセスとして、古典ですが有名なパブロフ(Pavlov)の研究があります。パブロフの発見は、ベルを鳴らすと犬が涎を垂らすという、ある刺激に対して反復などで条件付けを行なうと同じ反応を起こすようになることです。善悪を問わず脳に自動的な回路が形成されることになり、行動を操作できるようになります。良いほうに活用すれば、意欲をわかせて成功に結び付けたり、悪い癖などを直すことに用いることができます。

 パブロフの発見には、もっと重要な発見があり、あまり知られていないので、その方法によって他人から操作される危険があります。それは「逆説的段階」と呼ばれてます。条件反射が身についた後、ベルを鳴らしても餌を与えたり与えなかったりして一貫性のない対応をすると、ベルの音を聞いても反応したりしなくなったりし、更に反応が反対になる傾向が観察されました。通常の生活や行動をパターンを乱され、予測がつかなくなると、心理的に不安定な状態におかれ、物事が上手くいかなくなってきます。「逆説的段階」を知っていれば、その心理的操作を避けることができます。

 更に逆説的段階が進むと、学習させた条件反射が消え去るだけでなく、犬の性格がまったく正反対に変化することが見られたそうです。もともと大人しかった犬が、乱暴で人を噛むようになったことが報告されています。その知識を悪用して、別人のように変化させてしまう。「生存にかかわるような外傷体験によって、それまで信じてきた行動様式や価値観がまったく役に立たないという事態に直面する中で、それが逆転してしまうという反応が誘発されるという。」 逆説的段階を受けたのではないかという事例を読んだだけで寒気がします。

 志や決意がなければ何も成し遂げることはできませんが、その基礎となる意志は操作される可能性があります。人がひとりで達成できることには限りがあります。複数の人々が集まって組織として活動しなければ大きなことは成し遂げることができません。しかし、進む方向を誤ると悲劇を引き起こすことは歴史が物語っている通りです。

 

Commendation - President John F. Kennedy


参考文献

  1. 服従の心理 (河出文庫)
  2. マインド・コントロール
  3. 隠れた脳