チーム・マネジメント

チームマネジメント、人間-機械システム、そしてヒューマンファクターズを考える

最前線であり、付加価値を生み出している場所 【現場】

 価値や成果を生み出している場所は「現場」です。日本語の「現場」を端的に表している英語はないかもしれません。"Field"や"Site"なども場所の意味しか表していません。最前線(Front Line)は現場の意味合いが若干含まれています。現場という考え方が日本独自なのかもしれません。

 日本では現場の力が強く、今日までの発展に貢献してきたことに間違いはありません。私も現場の人間ですが、現場が強すぎたから、失われた数十年と呼ばれる低成長・衰退、日本を支えてきた企業の没落にも現れているのかもしれません。もう一度、現場について問い直してみました。

 「現場論」の著者 遠藤 功さんは現場というものを以下の4点にまとめています。

[現場の概念]現場とは「これまで」と「これから」の間の「いま・ここ」である
現場は固定的、断面的なものではなく、流動的、連続的な「生き物」だ。過去から未来に向かって進行する中の「いま・ここ」が現場である。「いま・ここ」を生きるというのは、刹那的に生きるということではない。未来に向かって「いま」を懸命に生きるということだ。現場は「いま」に立脚しながら未来を見据え、未来を創造する場所にほかならない。

[現場の目的]現場は価値創造を実行するために存在する
企業の現場は目的性をもって存在する。その目的とは戦略の「実行」であり、価値を創造することにほかならない(「価値創造主体」としての現場)。「夢を形にする」当事者こそが現場である。

[現場の役割]現場は価値創造に必要な業務を日々遂行し、人材を育てる
「価値創造主体」としての現場は、「業務遂行主体」「人材育成主体」という2つの「顔」をもっている。戦略実行のための業務を日々遂行し、さらには企業にとって必要な人材を育て、鍛え上げる役割を担っているのが現場である。

[現場の特性]現場には「可能性」と「リスク」の両方が存在する
「夢を形にする」役割を担う現場は大きな「可能性」を秘めている一方で、「業務の固まり」という特性から派生する「刹那的な達成感」や、「人の固まり」という特性から派生する「現場モンロー主義」という、企業経営にとっての「リスク」も抱えている。

 現場は、日々変わっていく存在であり、共有した目標に向かって価値を創造していく存在でもあります。現場では様々な問題が持ち上がります。予測していなかったことも多く(準備不足かもしれません)、その場その場で即興的に対応しなければなりません。対応できる柔軟性があることは強みです。そのため、現場とチームの親和性は高いです。

 あらためて気づかされたのは人を育てる機能です。業務を通じて後輩を鍛える重要さは理解しており、知識や情報だけでは何も生み出せず、それを実際の作業に活用して、本質的な付加価値を生み出すことができます。その実務によって、人は経験を積み、成長することができます。正にその仕組みを現場が持っています。

 負の面として、現場が生み出す目の前の達成感によって、環境が変化しているのに正しい仕事をしているとの錯覚を生じさせます。長い間に成果を上げてきた組織ならば、持ち場の作業をこなせばよいとの思考停止に陥ります。誤ったことや安全を逸脱した行為が日常となり、大きな問題に発展する芽を抱えることになります。そのことは集団思考で述べた点です(以前の記事)。

 

 現場という言葉が、何時から使われ、その語源は確認できませんでした。ただし、職人の世界から生み出されたと想像できます。無から有(すなわち 価値)を生み出す技能を保持した人々が、徒弟制度を通じて、実務を通じて技能を世代から世代へと受け継ぎ、閉じられた組合が組織されました。中世の欧州ではギルド(Guild)と呼ばれました。

 近代工業の発達に伴って欧州ではギルドが衰退しました。日本では現場へ引き継がれ、モノづくりの原動力となったと考えられます。ただし、職人の技能で暗黙知以前の記事)の部分は引き継がれなかったため、釘を使わない組み木の技、正宗と刻印された名刀、ストラディヴァリウス (Stradivari)のヴァイオリンなどは再現できません。

 

 工業化、機械化、自動化、そして人工知能の応用によって、そもそも現場が置かれる場所(Location)が変わり、コンピュータ内の仮想空間に一部はなっているのかもしれません。モノづくりの現場も衰退しており、日本でしか作れないものも少なくなり、日本の強みは失われているのが現実です。スイス製時計の事例を通して、高品質安価な日本製時計に押されて、スイス製時計の売り上げが大きく低下しました。有名ブランドを持つスイス企業は、安価な時計は作らず、機械に頼らず手で組み立て高品質・高価格の時計を製造してきました。クルマの値段くらいに匹敵しますから、点検・整備プログラムも用意されており、熟練した技術者を保有しています。

 そのような変革は、現場のみでは変化できないと思われます。目の前の作業に追われて現場の視野は狭くなっているし、長期的な視点で展望を描くことはできないです。現場が衰退していくと、コスト削減という名で人員削減が行われます。一人抜け二人抜けと、最低限の人数で業務が回るまで、そして残った人員が大幅な残業を強いられます。これまでの考察からも分かるように、現場から人材を育成する機能が失われ、現場で蓄積してきた暗黙知も消失していきます。

 

 現場の強さそして半面の脆さが見えてきました。現場は内部から生まれ変わることはできません。組織としての現場は保身に走り、現場の長は現場を支えてきてくれた人々を裏切るわけにはいきません。外部環境の変化に伴って状況が悪化し、閉塞感に襲われます。そこで日本独自の「黒船待望論」が生まれてきます。外圧によって変えてもらおうとすることです。

 外圧に頼らずに権限を用いて、組織のトップダウンで意思決定ができれば良いのですが、少し前まで電子立国を支えてきた企業の変質を聞くと、集団思考そして現場の弊害が顧みられます。創業者が経営しているならばトップダウンによる変革は可能なのかも知れません。その時こそリーダーシップによるトップダウンが必要とする場面かもしれませんが、その方針に生活が掛かっている人々が従うことができるのかはリーダーを信頼しているかにかかります。
 
 現場について問題提起はできました。自らの現場も顧みて再度認識できたことは多くありました。現場の機能を残したまま、他の業務に移行して、現場の発展を維持することができるのか? その問に対して、明確な答えはなく、引き続きに考察していきます。ヒントの一つとして、京セラ名誉会長 稲盛 和夫さんが考案したアメーバ経営が参考になるかもしれません。組織をアメーバ(ameba)のように小集団に分割して、分裂・統合を進めていけば、変化に対応できる現場を築けるかもしれません。
 
jsc2016e089486
 
参考文献
  1. 現場論: 「非凡な現場」をつくる論理と実践
  2. クラフツマン: 作ることは考えることである (単行本)
  3. ワーク・シフト ― 孤独と貧困から自由になる働き方の未来図〈2025〉
  4. 結果を出すリーダーはみな非情である
  5. 「ついていきたい」と思われるリーダーになる51の考え方
  6. アメーバ経営の進化