機械が真似できず 人間が得意とする 【ヒューリスティックス】
機械による自動処理が進んだのに伴い、人間が得意とする思考法であるヒューリスティックス(Heuristics)に注目が集まっています。ヒューリスティックスとは、決められた手順に従うのではなく、過去の経験から学び、実践的な解決策を発見することによって問題を解く方法です。日本語に訳せば「自己発見型問題解決法」となりますが、直感的に馴染まないので、ここでは「ヒューリスティックス」のままで通します。
ヒューリスティックスは、決められた手順に従わない方法で、すなわちアルゴリズム(algorithm)に書き下せません。したがって、コンピュータでは処理できずに自動化できません。人間でなければ出来ないことですが、問題によってはアルゴリズムに従ったほうが良い結果が得られることもあるので、その点は認識しておく必要があります。
選択肢が膨大にある問題や未知の要素を含む問題では、全ての選択肢をしらみつぶしで評価していては、様々な情報収集、膨大なデータ処理や検証が必要となり、全てを評価することは不可能となります。長期計画ではそのような問題に直面するため、短期的な視野で問題を提起して選択肢を制限し、その選択肢から理由付けをして解決策を選択しています。その場合では、時間軸のすり替えが行われ、中長期の5年や10年が経過してみると最善の解決策ではなかったことが分かってきます。
ヒューリスティックスは、全ての選択肢を追わず、これまでの経験や直感から無視すべき要素を落とし、選択肢を幾つかに絞ります。絞った選択肢を制限時間の中で検証して評価することで、最善(最適ではないかもしれません)の選択肢を意思決定します。あらためて見ると、将棋棋士 羽生プロが語った思考方法も同様でした。
この経験や直感による判断には人間の熟練度や考え方(思想)が反映されます。そして、判断する人によって解決策は変わってきます。すなわち意思決定にバイアスがかかるので、多様な視点を持つ人が議論に参加して問題解決を図るべきなのかもしれません。
ヒューリスティックスは「仮説思考」に似ている面があります。「仮説思考」とは、目標達成や問題解決のために、限られた情報からとりあえずの仮説(hypothesis)を立て、その仮説を実行・検証・修正することにより、効率的に最適解を導き出す思考法のことです。仮説→実験→検証(→仮説修正)のプロセスは、イノベーションのプロセスに繋がってきます。
1億通りの方法があるとして、全てを検証するのは不可能であるため、上記プロセスを通じて様々な実験を100回、1000回と実施することによって、その1つでも革新的な成果が上がればイノベーションとなります。
長期的で全体を見渡す広い視野に立って、ヒューリスティックスを活かしてみることも、現状を打破するための突破口になるかもしれません。
参考文献
- なぜ直感のほうが上手くいくのか? - 「無意識の知性」が決めている
- リスク 不確実性の中での意思決定 (サイエンス・パレット)
- 決断力 (角川oneテーマ21)
- 批判的思考 (ワードマップ)
- 仮説思考 BCG流 問題発見・解決の発想法
- イノベーションのDNA 破壊的イノベータの5つのスキル (Harvard Business School Press)