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チーム・マネジメント

チームマネジメント、人間-機械システム、そしてヒューマンファクターズを考える

【惨事(Tragedy)】 栄光なる失敗 アポロ13号(後半)

事故教訓

先日、映画「オデッセイ THE MARTIAN」を鑑賞することができました。NASAが全面協力のもとで製作されたので興味がありました。技術者として冷静に実現性を評価してしまったこともありましたが、ワトニー宇宙飛行士(主演 Matt Damon)が絶望とも言える状況下において、前向きな姿勢を失わず、科学技術を用いて生き延びる姿に魅入ってしまいました。

そして何故か、太陽が赤色巨星となって地球が飲み込まれる数十億年後、それ以前に人類が核乱用などによって地球に住めなくなる(数百年先かもしれません)までに、人類は宇宙を生存領域として拡大することができるのかとの疑問が湧いてきました。一番重要なのは生命の星である地球を維持し、ゆっくりながらも着実に宇宙活動を進めていくべきなのかもしれません。

現状を知るためにもアポロ13号の事故に関する解説に戻ります。

(e) 二酸化炭素濃度の上昇

月着陸船に3名のクルーが4日間滞在するため、月着陸船のバッテリー電力を確保するために必要最低限な機器以外は遮断されました。宇宙では太陽が当たれば数百度、反対に影側はマイナス数百度に達します。船内を保温するヒーターも切ったため、船内も摂氏5度を下回る環境となりました。

3名のクルーが吐き出す二酸化炭素を十分除去できず、船内における二酸化炭素の濃度も上昇しました。二酸化炭素は、地球温暖化の原因とも言われていますが、地球の大気中で0.03%程度です。二酸化炭素の濃度が3~4%を超えると頭痛・めまい・吐き気などを催し、7%を超えると数分で意識を失うことになります。アポロ宇宙船では、水酸化リチウムが含まれたフィルターが二酸化炭素を吸収して、船内の二酸化炭素濃度を低下させていました。

フィルターの交換が必要でしたが、開発メーカが違うため、月着陸船のフィルターは円形、司令船のフィルターは四角形であり、そのままでは司令船フィルターを装着できません。船内にある紙、袋、テープなどを用いてアダプターを制作し、司令船フィルターを用いて二酸化炭素濃度を低下させました。

補足ですが国際宇宙ステーションでは、ナノメートルオーダーの細孔が規則的に並んだゼオライト(Zeolite)によって二酸化炭素を吸着させ、その後吸着した二酸化炭素を超真空の宇宙空間へ排出しています。

(f) 脱水症状

クルーは、水の摂取を控えており、宇宙では喉の渇きを感じなくなるため、脱水症状を起こしているのに気づいていませんでした。水は神経インパルスの伝達で重要な働きをする電解質を溶かすのに欠かせず、水分が不足すれば思考や動きが鈍ります。

電解質は病気に対する身体の防衛機能の一部を受けもっているため、水分の不足から感染症にかかりやすくなるそうです。実際にヘイズは脱水症状から腎臓に感染症を発症していました。更に長期間の脱水症状が続けば、ラベルとスウィガードも感染症を発症する危険性がありました。

(g) 司令船の再起動

宇宙飛行士が地球に帰還するためには、遮断した司令船を再起動することが必須でした。チェックリスト手順が準備されていないため、短期間(4日間)で完成させなければなりませんでした。管制官が厳しい訓練を通じてシステムを理解していなければ準備は間に合わなかったと思います。

チェックリスト手順を確立する上で最大の課題は電力が限られていることでした。打上げ時に落雷を受けたアポロ12号を復活させた経験もある管制官 EECOMのジョン・アーロン(John Aaron)が、司令船の再起動から着水までの計画をとりまとめ、「藁人形スケジュール(Strawman schedule)」と命名したものを作成しました。なぜ藁人形かと言うと、石をぶつけてもかまわないものが由来のようです。意味的には叩き台です。司令船の機器をいつ起動させ、支援船と月着陸船を切り離し、どれだけの電力を配分するかを細かく記載していました。
 EECOM: Electrical, Environmental and Consumables Manager

最終的には、支援船から月着陸船へ給電する配線を活用して、抵抗損失は大きくなりますが逆に月着陸船から支援船を介して司令船へ給電させることによって、電力不足を解消しています。

今日では手順を電子データでクルーに伝えることが可能ですが、アポロでは再起動手順を音声でクルーに伝え、クルーが全てのステップを書き留めていました。

(h) 地球大気圏へ再突入

地球大気圏へ再突入する際、地球の引力で加速している宇宙船は次第に濃度の高い大気に突き当たり、空気加熱によって2700度を越える高温のプラズマが宇宙船の表面に生じます。表面を覆うプラズマによって外部との通信が途絶され、ブラックアウト(Blackout)と呼ばれています。

宇宙船の構造は、主に軽量なアルミニウムで形成されているため、高温プラズマに直接曝されると溶けてしまいます。そのため、熱防御システム(TPS: Thermal Protection System)が必要となります。宇宙船の表面に耐熱シールドを取り付け、耐熱シールドの材料である炭素繊維強化プラスチック等が溶解することによって熱吸収、蒸発することによって熱放出を行います。

耐熱シールドが損傷していると、隙間から高温プラズマが船内に入り、構造を溶かして破壊します。2003年に起きたスペースシャトル コロンビア号の空中分解事故は耐熱シールドの損傷が原因でした。アポロ宇宙船では、支援船が切り離されるまで耐熱シールドは外部から保護されていますが、酸素タンクの破裂によって損傷している懸念がありました。

再突入時安全に地上に到達するためには、再突入回廊(Re-entry Corridor)に宇宙船の経路を乗せることが必要です。地球の水平線に対して、5.5度から7.3度の狭い角度を保って大気圏に再突入させる必要がありました。その回廊の外側ですと十分な減速ができずに再度宇宙へはじき出されます。内側ですと制限を超えた加重が掛かり、宇宙船が持ちこたえられない可能性があります。

アポロ13号では、地球に帰還予定がなかった月着陸船が接続されたままで、月着陸船の冷却システムから排出された水蒸気によって、再突入回廊から徐々に外れてきていました。そのため、再突入前に月着陸船エンジンによって再突入回廊へ保持する必要がありました。
再突入に対する最終確認(Go NoGo)を回した後、私は管制室にて寂しさを感じた。我々はクルーを解き放つ準備が出来ている。通信途絶(Blackout)の間、彼らは自らで対処しなければならない。我がチームはもはや手助けはできず、彼らを肩越しで見守ることもできない。 ジーン・クランツ(Gene Kranz)
通信途絶(Blackout)が終了時刻を過ぎ、クルーとの音声交信を担当するCAPCOM (Capsule Communicator)がアポロ13号への呼びかけを開始しました。
 「オデッセイ ヒューストン スタンディングバイ」
アポロ13号からは回答はありませんでした。そして、予定時刻から1分28秒が経過した後、アポロ13号からテレメトリ(遠隔データ)を再受信し、操縦士のスウィガードから返事がありました。
 「オーケー ジョー(CAPCOMの名前)」

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Credit: NASA

参考文献