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チーム・マネジメント

チームマネジメント、人間-機械システム、そしてヒューマンファクターズを考える

遠隔地からシステムを操作するために必要なこと 【テレメトリ】

ヒューマンインタフェース 情報通信
遠隔に設置したシステムを監視したり、目視等で確認できない状態をセンサで計測してデータとして送信することを遠隔測定(テレメトリ: Telemetry)と呼んでいます。地上ネットワークに接続されたシステムならば有線で伝送されますが、航空機や宇宙システムなどでは無線通信を活用して伝送されます。

一度に伝送できるデータ量は大幅に増えましたが、全てのデータを常時伝送することは不可能です。限られたデータ伝送量の中で、システム監視のために必要なデータをテレメトリとして選定することが重要になってきます。データ項目を絞ると共に、データの更新頻度を落とすこともあります。例えば、1秒更新を10秒更新とすれば、10秒更新のデータを10個伝送することができます。

無線通信を使用するならば、電波は限られた周波数資源であり、無線局として免許取得または登録する必要があります(日本では総務省が管轄しています)。電波の周波数帯域によって区分されており、主にVHF(Very High Frequency)(30MHz〜300MHz)やUHF(Ultra High Frequency)(300MHz〜3GHz)が用いられます。FM放送、TV放送、携帯電話、無線LAN(WiFi)でも使用されている帯域です。更に高周波数のSHF(Super High Frequency)(3GHz〜30GHz)も活用され、3.9 GHzのLTE(Long Term Evolution)も普及してきています。

衛星通信では、マイクロ波を用いた通信が行われ、周波数帯域の呼び方も異なる体系が用いられて、S-Band(2GHz〜4GHz)、X-Band(8GHz〜12GHz)、Ku-Band(12GHz〜18GHz)などが用いられます。 マイクロ波では周波数が高く(特に10GHz以上)なれば、雨や雨雲のために電波が減衰する降雨減衰(Rain Attenuation)が顕著となります。通信が妨げられることがあります。

無線通信ではデジタル伝送が主流となっており、雑音に対する影響を受けにくい方式が用いられています。しかし、電波は大気や宇宙空間を伝搬することで信号が減衰しますので、伝送距離が長くなれば信号を検出するのが困難となります。伝搬において混在する雑音には、宇宙雑音(太陽やほかの恒星や銀河系からの雑音)や人工雑音(電気・電子機器により発生する)があります。

テレメトリは遠隔地から送信されてくるため、遅延の問題が生じてきます。参考として、東京-ニューヨーク間の国際電話やインターネット通信の遅延について概算で見積もってみます。東京-ニューヨーク間の距離を11,000 kmとして、国際回線で用いられる光ファイバーの屈折率は1.5ですから伝送速度は20万km/sとなり、遅延時間は0.06秒となります。すなわち、東京から送信後0.1秒くらいでニューヨークに最初のデータが到達します。その後データを送信続ける時間はデータ量に依ります。

真空又は大気中における電波速度は30万km/sです。高度400kmの国際宇宙ステーション(ISS: International Space Station)では、地平線に観測できた時の距離は2,300kmですので、遅延時間 8 ms (msは1000分の1秒)となります。実際にISSとの通信は、静止軌道(高度3万6,000km)に位置する通信衛星を経由しているため、通信衛星との往復における遅延時間 0.24秒となります。この遅延は音声交信では気になりませんが、軌道上で発生していることを0.24秒後に管制センターで知ることになります。

更に遠距離を計算してみると、月との距離の38万kmでは遅延時間1.3秒となります。火星との距離は、地球と最接近 5,600万kmでは約3分、最も遠い4億kmでは約22分もの遅延が発生します。これほどの遅延時間となっては、直接の音声交信は難しくなります。火星最接近した時でさえ、話した内容が約3分後に相手に伝わり、それに対して相手が話した内容が更に約3分後に伝われます。

宇宙システムの状態を示すテレメトリをハウスキーピング(Housekeeping Data)と呼んでいます。機器のオン・オフ、電流・電圧、温度、通信状況、制御装置出力などが対象となります。このデータからシステム状態を把握するにはシステムの理解が必要となってきます。運用者はテレメトリを見てシステムの状態を頭の中で思い描かなくてはなりません。特にシステムへ指令(Command)を送信して、所定の状態になったことをテレメトリを通じて確認しなければなりません。

航空機や宇宙システムの場合、速度・位置データは刻々と変化するため、更新頻度を高くなるため、データ量も多くなります。ボーイング777の巡航速度は900km/hですから1秒間に250 m進むことになります。ISSの平均速度は27,720 km/hで1秒間に7.7 kmのスピードで航行しています。航空機は多くのテレメトリを伝送しないため、フライトレコーダが搭載されて詳細データが記録されています。もし航空事故が発生した時には回収されたフライトレコーダのデータを解析して事故原因の調査が進められます。

遠隔操作を伴うシステムには、テレメトリに関わる設計が重要になりますが、全てを把握するデータを入手することはできません。また、実際の遅延は、機器内部の処理、送受信における処理、ネットワークにおける処理における遅れも積み重なり、概算した伝送遅延よりも更に遅くなります。テレメトリでは臨場感を喪失したり、現状把握が困難になることもあり、状況変化が激しい環境では対応できない可能性があります。

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Credit: NASA

参考文献