暗記ではなく行動の記憶 【スキル】
知識が価値を生む時代になり、情報やデータが重要視されるようになりました。科学技術の発展を受けて、膨大なデータを蓄積・処理できるようになり、ニュース等でもビッグデータというキーワードが頻繁に使われています。その広大なデータの海から必要な情報を選び出し、これまで結び付かなかった関連性を明らかにすれば、新しい見地を発見できるかもしれません。
ただし、ここで振り返りたいのは、新しい見地を発見できるのは人間であってデータや情報処理システムではないということです。データ自体が価値を生むのではなく、人間が持つ知識(Knowleadge)が価値を生む。ドラッカーが提唱していた「知識社会(Knowleadge Society)」を再認識することになりました。
ここでは、頭で覚える記憶ではなく、行動の記憶 いわゆる スキル(Skill: 技能)について取り上げていきます。
運転免許を取得するため、教習所へ通ったことを思い出します。教習テキストを読んだだけで、クルマを運転できませんでした。エンジンの始動だけでも、ドア閉を確認し、座席やミラーの調整を行い、シートベルトを締め、キーを挿し、ギアがニュートラル(オートマチック車ではパーキング)を確認し、ブレーキを踏み、キーを回し(最近はボタン)、スタータが動いてエンジン音が鳴り、計器が点灯し、エンジン回転数が上昇したの確認します。初心者の頃は一つひとつ確認しながら確実にゆっくり実施していましたが、今ではあまり意識せず手短にエンジン始動できます。
キーボード配置もABC順ではなく左上からQWERTYとなっています。初心者の頃、ブラインドタッチの練習をされたと思います。最初は1文字1文字を入力するのに、なんで規則性の無い配置なんだと思いながらゆっくりタイプしていました。今ではあまり意識しないで入力したいキーを押していると思います。もともとQWERTY配列は、早くタイプするとタイプライターが壊れるために規則性の無い配列になったとの説もあります。最近タブレットなどで、ABC順やあいうえお順のソフトキーボードから入力しようとすると、逆に入力が遅くなります。
同じ動作を繰り返して訓練することによってようやくスキルを獲得できます。ただし、獲得したスキルはなかなか忘れないものです。例えば、子供の頃に自転車が乗れるように練習したと思いますが、しばらく使っていなくても、直ぐに思い出して自転車に乗れます。逆の見方をすれば、スポーツなどでも言われますが、最初に悪い癖がつくとそれを修正するのがきわめて困難です。いったん獲得したスキルの記憶を消すことは難しいです。
心理学者 ラスムッセン(Rasmussen)は、人間の行動を3つの基本形に分類しています。ラスムッセンの研究を通して、スキルについて考えています。
条件反射型行動 (Automatic Reaction) - スキルレベル(Skill Level)
自動的な反応で感覚から直ぐに行為にいく流れとなる。実践を積み、訓練することによって、条件反射的に行動できるようになる。
マニュアル型行動 (Routine Response) - 規則レベル(Rule Level)
発生事象に対して、対処方法があらかじめパターン化され、事象に対して適当な対処方法を当てはめることによって対処する。
問題解決型行動 (Problem Resolving) - 知識レベル(Knowledge Level)
事象に遭遇したとき、まず問題を認識して分析を始める。続いて、解決のための手段や方法、そして結論を考える。その結果、決断して実行に移す。
参考文献