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チーム・マネジメント

チームマネジメント、人間-機械システム、そしてヒューマンファクターズを考える

アポロ計画を成功に導いた段階的プロジェクト計画法 【PPP】

アポロ計画「1960年代中に人間を月に到達させる」というミッションを実現させるため、NASAが採用した手法として『段階的プロジェクト計画法(PPP: Phased Project Planning)』があります。ドイツでロケットを開発して第二次世界大戦後にアメリカへ渡り、アポロ宇宙船を打ち上げるサターンVロケットの開発を率いたフォン‐ブラウンは、「アメリカが月に人間を運ぶことができたのは、ロケット技術でもコンピュータ技術でもない。システムエンジニアリングだ」と言っていました。その中核が段階的プロジェクト計画法でした。


段階的プロジェクト計画法は、システム開発の過程を幾つかのフェーズに分けて、フェーズで実施する作業内容を明確にし、フェーズ完了時にその成果を審査して次のフェーズへ移行できるかを判断します。フェーズの区分はシステムの複雑さや規模によって変わってきますが、宇宙システムに対する一般的なフェーズ区分について説明します。


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段階的プロジェクト計画法 (PPP: Phased Project Planning)


フェーズA: 概念設計 (Concept Design)

どんなことがしたいのかというミッションを考え、ミッションを遂行するために必要なシステムについて、システム構成、基本的な設計手法や開発方針等を検討していきます。その結果を受けて、システム要求及び開発計画としてまとめます。既存の技術では達成不可能なことが識別された場合、研究開発を開始する必要があります。


今日では様々な分野において研究開発が進み 、使い古された技術から最新鋭技術を用いれば、新規に開発する要素は少なくなりつつあるのかもしれません。概念設計の段階で、時間を十分取ってミッションを推敲し、ユーザーの要求、運用者(パイロット、ドライバー等も含む)の意見を聴き、システム・コンセプトへ反映することが重要になってきました。


フェーズB: 予備設計 (Preliminary Design)

システム要求を具体化して実現できるシステムを検討します。システム構成についても細分化し、サブシステム又はコンポーネントに分割していきます。予備設計の結果を受けてシステム仕様書(System Specification)を作成し、システム仕様書の制定をもってシステム仕様を決定します。


1つの機器ではシステムを構築できませんが、システムを複雑にすれば設計・製造コスト、運用における保守コストが跳ね上がります。便利そうだなどの不必要なシステム要求は削り、システム構成要素を最低限にするべきです。


フェーズC: 詳細設計 (Critical Design)

システム仕様書に基づいて、ハードウェア・ソフトウェアまで設計を詳細化し、試作・検証を行い、設計が確定されます。確定した設計結果は、設計仕様書、インタフェース仕様書、図面、製造・試験の計画書そして手順書などに記述されます。


詳細設計では、最も時間を費やし、多くのエンジニアの関与が必要になります。設計成果は全て文書化されます。昔は全て紙で管理しており、文書管理だけでも大変でした。現代では情報化が進んだため、紙は電子ファイルに置き換わっていますが、データーベースでの管理が必須になります。


詳細設計が終わると、実際のハードウェアなどの製造が着手されますので、後戻りや設計変更は困難になります。詳細設計の段階でも、運用のことも考慮して設計に反映させ、ユーザーや運用者も設計評価に関与させるべきです。システムが完成してから使ってみると、使いづらい、機能しないなどで追加機能の付加、設計変更が生じるのを防ぐことができます。


フェーズD: 製造・試験 (Manufacture and Test)

詳細設計の結果に基づいて、システムを構成するコンポーネント、サブシステム、機器を製作します。製造後、全ての要素をシステムとして組み込みます。システム試験を実施して、システムが性能・品質要求を満たしていることを確認します。


システム試験では、全てが一発合格とは行かず、必ず不整合や不具合が発生します。原因は、製造時の問題、インタフェースの不適合・誤解釈、そもそもの設計ミスなどがあげられます。一部改修、設計変更、それでも解決できないならば、システム仕様の見直しや適用除外(Waiver)の処置がなされます。所定の機能が発揮できず、新たに運用上の制約が生じることもあります。


システムとして組み上げられ、実際に機能を確認できるのは、システム試験以降となります。システム試験の手順や結果は運用初期に行われる機能確認(チェックアウト)の源泉としても参考になります。宇宙システムでは、全ての製造・試験の記録が残され、データパッケージとして納められます。


フェーズE: 運用・維持設計 (Operations and Sustaining Engineering)

運用ではシステムを実際に稼働させてミッションを遂行されます。運用初期に機能確認(チェックアウト)を実施して、実環境においてシステム要求を満たしていることを確認します。


長期に渡る運用期間において、機器が故障したり、予期せぬ不具合が発生します。維持設計(Sustaining Engineering)として、機器交換を支援したり、不具合の原因を特定して復帰するように対策を取ります。また、運用を通じて貴重なデータが得られますので、システムに対する理解が深まり、システム性能を最適化するための調整が実施されます。


システムを稼働させれば、光熱費等のリソースを必要とし、人が介在するシステムでは人件費もかかります。これらの運用コストを低減する活動も進められます。


フェーズF: 廃棄 (Disposal)

運用期間が完了し、老朽化したシステムは廃棄する必要がありますが、廃棄にもコストが発生します。民生品、自動車等は使用後の廃棄・リサイクルを考慮して既に設計が進められています。大規模システム 例えば 高層ビル、原子力発電所、宇宙ステーションの廃棄はそれだけで一大プロジェクトになります。



参考文献