チーム・マネジメント

有人宇宙の運用管制から、チームマネジメント、人間-機械システム、そしてヒューマンファクターズを考える

我々の祖先である生命は地球で生まれたのだろうか 【パンスペルミア】

 46億年前に地球が形成され、地球上において生命が誕生し、進化してきたと信じてきました。地球誕生当時、超高温で灼熱の大地であり、有機物は存在できないほどでした。もちろん生命も生存できません。その後、原始の大気と海をつらぬく稲妻による放電によって、無機分子から生命に必要なアミノ酸が生成されることをスタンリー・ミラー(Stanley Miller)が実験によって明らかにしました。

 生命の構成要素となるアミノ酸ヌクレオチド(Nucleotide)などが生成されるのだから、長い期間を経て生命が生まれたと解説を安易に理解していました。しかし、地球が誕生したのが46億年前、地球上に生命の存在が確認されているのが40億年前と推定されています。その6億年のあいだで、アミノ酸がタンパク質へ.ヌクレオチド核酸へと変化して、自己複製を備えた生きた細胞へ進化するには、十分な時間ではありません。もし地球上で生命が誕生したのならば、考えられないほどの奇跡が起きたことになります。その奇跡は超天文学的確率になります。

 そのような研究を通じて、地球上で繁栄を迎えている生命の起源は、宇宙から飛来した説が有力となっています。「パンスペルミア(Panspermia)説」と呼ばれており、語源はギリシャ語で「あらゆる種の混合」を意味しています。日本語では「胚種(はいしゅ)広布説」とも呼ばれています。古い学説で生命は目に見えない胚種の形で偏在し、環境が良くなると生成するという説から由来しており、現代では地球の原始生命は宇宙から飛来したという説を示すことが多いです。

 

 大気が安定してきた若い地球へどのように生命が辿り着いてきたのでしょうか? 宇宙人が宇宙船に乗って地球へ生命の素を降り注いだのか? 宇宙人の可能性はゼロではないものの、論理的に考えて困難であることは明らかです(以前の記事)。生命が超真空である広大な宇宙空間に浮遊することも難しいでしょう。宇宙から飛来するものと言えば「隕石(Meteorite)」があげられます。地球の大気で燃え尽きない大きさの隕石の中心に生命の源があれば地球に到達できます。しかし、そのような隕石が地球に衝突すれば、衝撃と摩擦で高熱に達して溶解してしまい、生命は生き残れないです。

 隕石よりも有力視されているのが「彗星(Comet)」です。彗星は太陽系の遠方から到来するため、銀河系内外で生まれた生命が辿り着くことができます。彗星の内部には、水の存在が確認されています。また、宇宙空間で強烈な宇宙線を浴びて放射性のアルミニウム26(26Al)が生成され、アルミニウム26が崩壊する熱によって、彗星内部が暖められ、生命の生存に適した液体の水を保っていることが考えられています。そのような「温かい水たまり」では、微生物が住み続けられる環境を保つことができます。

 そのような彗星が地球の周りを周回したり、地球へ激突することによって、生命がたどり着いたというシナリオは、パンスペルミア説の立証を強化することになっています。地学の研究から生物が地球上に誕生したのは40億年くらい前であり、地球に彗星が頻繁に衝突していた重爆期の最後から間もないときであることが明らかにされました。

 遙かに遠い宇宙から到来して、永遠とも感じる時間をかけて、彗星は水の惑星に辿り着く。その間、住み着いていた微生物や胞子は、宇宙空間にむき出しになったり、強い宇宙線や紫外線によって、死に絶えてしまうかもしれません。しかし、ごく僅かな生き残りが、環境の良い増殖できる場所に移り住めれば、爆発的に生命を広めることができます。そのように、生命の情報である遺伝子が伝わって来たのではないかと考えられています。

 

 構成する分子の観点から考察すると、地球上に存在する生命は、小さな微生物から大きくて複雑な植物や動物に至るまで、共通点があります。多様多彩な生命ですが、水、核酸酵素という構成要素から構成されています。

 核酸は遺伝子の担い手であり、デオキシリボ核酸(DNA: DeoxyriboNucleic Acid)はデオキシリボース(Deoxyribose)とアデニン(A: Adenine)、チミン(T: Thymine)、グアニン(G: Guanine)、シトシン(C: Cytosine)の4つの塩基から構成されます。リボ核酸RNA: RiboNucleic Acid)は、リボース(Ribose)とアデニン(A: Adenine)、ウラシル(U: Uracil)、グアニン(G: Guanine)、シトシン(C: Cytosine)の4つの塩基から構成されます。DNAとRNAは、塩基の一部でチミン(T)とウラシル(U)が異なり、それぞれ対応します。

 酵素ついては,20種類のアミノ酸によって構成されます。たった20種類のアミノ酸が繋がり、その数や配列の違いから10万種類ものタンパク質が構成されます。タンパク質によって生命の身体を作り出されています。

 

 宇宙に渡って彗星が生命を運んでいるとすれば、生命の基礎となる遺伝子の起源は同じかもしれません。地球人以外にも宇宙人がいたとしても、起源をたどれば兄弟なのかもしれません。

 

Rosetta arrives at comet

 

参考文献

  1. アストロバイオロジー―地球外生命体の可能性
  2. 私たちは宇宙から見られている? 「地球外生命」探求の最前線
  3. 彗星パンスペルミア

 

個人の考え、思想を変えることができるのか?【意志】

 自分と他人を分ける自己を認識し、自ら行動する主体として自我が形成されます。哲学や心理学における問いの始まりかもしれません。デカルト(Descrartes)の『我思う、故に我あり』、パスカル(Pascal)の『考える葦』として示されています。哲学を語るほどの教養はありませんが、ここでは「意志」について取り上げていきます。

 自らを省みても、人は意志を持っている、すなわち 物事を思慮し、選択、判断して実行しようとする積極的な心ぐみを抱いています。個人主義(Individualizm)は個人(自分だけでなく他人も)の意義と価値を重視することが基礎であり、自由主義(Liberalism)は、個人の自由を尊重し、国家の干渉を排除しようとする原理です。

 さらに進んでリバタリアニズム(Libertarianism)となると、自由意志を尊重して、政府による制限や介入をなくして、個人が全て自らの意志によって決定し、それに対する責任は自らが負うということを求めています。世界でいうリベラル(Liberal)ならば、弱肉強食の自由主義のみに突き進むのではなく、社会的公正を重視して社会福祉など政府の積極的な介入も求める考えです。ただし、日本でリベラルというと何を示しているのかはわかりません(今回で明らかになるのでしょうか)。

 究極な自由主義ならば全てを自由意志で決められるかもしれませんが、実際の社会に出れば、自分の意志だけでは決められないし、上位の権威を持つ者に従わなければなりません。権威に対する服従について研究した『服従の心理』をスタンレー・ミルグラム (Stanley Milgram)が著作しています。記憶に関する実験と称して、記憶が弱いと権威からの指示に従って電気ショック(罰を受ける担当は演技し、実際に電気を流していません)を加えることができるのか、詳細に記録が取られました。

 その研究によって、ナチスによる強制収容所において、何ぜ国民が残虐な行為に加担していったのかを明らかにしています。ある行為を行うため、作業を分担して責任も細かく分担します。そのため、虐殺に対して、命令書を作成する人、サインする人、人々をガス室へ誘導する人、ガスを投入する人などと分割して、自分の判断で殺人行為を行なったと感じなくなりました。

 権力を伴う階層組織と服従によって悲劇が生まれてきたことは、特に戦争の歴史が物語っています。長らく教わってきた道徳や倫理から逸脱させてしまうほど、個人の意志を権威と服従によって容易にねじ曲げてしまいます。逆説的に考えれば、自由意志を尊重すれば、殺略が絶えない陰湿な歴史の再現を防止することができるのでしょうか? しかしながら、現代社会は分業化が進んでおり、各自が組織の中で働き、全ての結果に対して責任を持つ人物はいません。日本が無謀ともいえる太平洋戦争に突き進んだことも、同様な仕組みが働いていました。

 意志や思想を変えるプロセスとして、テロリストの調査を行ったイスラエル心理学者アリエル・メラリがトンネルに喩えて説明しています。トンネルは、細く長い管状の通り道で、外界から完全に遮断され、入口を入れば出口まで光はありません。この2つの要素 ①外部の世界からの遮断、②視野を小さな一点に集中させることによって、自爆テロに突き進んでしまう。チーム活動にもトンネルの仕組みを活用できますが、広い視野を失ったり、洗脳に近い効果があるため、長い期間に及べば副作用は認識しておく必要があります。

 意志や行動を変えるプロセスとして、古典ですが有名なパブロフ(Pavlov)の研究があります。パブロフの発見は、ベルを鳴らすと犬が涎を垂らすという、ある刺激に対して反復などで条件付けを行なうと同じ反応を起こすようになることです。善悪を問わず脳に自動的な回路が形成されることになり、行動を操作できるようになります。良いほうに活用すれば、意欲をわかせて成功に結び付けたり、悪い癖などを直すことに用いることができます。

 パブロフの発見には、もっと重要な発見があり、あまり知られていないので、その方法によって他人から操作される危険があります。それは「逆説的段階」と呼ばれてます。条件反射が身についた後、ベルを鳴らしても餌を与えたり与えなかったりして一貫性のない対応をすると、ベルの音を聞いても反応したりしなくなったりし、更に反応が反対になる傾向が観察されました。通常の生活や行動をパターンを乱され、予測がつかなくなると、心理的に不安定な状態におかれ、物事が上手くいかなくなってきます。「逆説的段階」を知っていれば、その心理的操作を避けることができます。

 更に逆説的段階が進むと、学習させた条件反射が消え去るだけでなく、犬の性格がまったく正反対に変化することが見られたそうです。もともと大人しかった犬が、乱暴で人を噛むようになったことが報告されています。その知識を悪用して、別人のように変化させてしまう。「生存にかかわるような外傷体験によって、それまで信じてきた行動様式や価値観がまったく役に立たないという事態に直面する中で、それが逆転してしまうという反応が誘発されるという。」 逆説的段階を受けたのではないかという事例を読んだだけで寒気がします。

 志や決意がなければ何も成し遂げることはできませんが、その基礎となる意志は操作される可能性があります。人がひとりで達成できることには限りがあります。複数の人々が集まって組織として活動しなければ大きなことは成し遂げることができません。しかし、進む方向を誤ると悲劇を引き起こすことは歴史が物語っている通りです。

 

Commendation - President John F. Kennedy


参考文献

  1. 服従の心理 (河出文庫)
  2. マインド・コントロール
  3. 隠れた脳



最前線であり、付加価値を生み出している場所 【現場】

 価値や成果を生み出している場所は「現場」です。日本語の「現場」を端的に表している英語はないかもしれません。"Field"や"Site"なども場所の意味しか表していません。最前線(Front Line)は現場の意味合いが若干含まれています。現場という考え方が日本独自なのかもしれません。

 日本では現場の力が強く、今日までの発展に貢献してきたことに間違いはありません。私も現場の人間ですが、現場が強すぎたから、失われた数十年と呼ばれる低成長・衰退、日本を支えてきた企業の没落にも現れているのかもしれません。もう一度、現場について問い直してみました。

 「現場論」の著者 遠藤 功さんは現場というものを以下の4点にまとめています。

[現場の概念]現場とは「これまで」と「これから」の間の「いま・ここ」である
現場は固定的、断面的なものではなく、流動的、連続的な「生き物」だ。過去から未来に向かって進行する中の「いま・ここ」が現場である。「いま・ここ」を生きるというのは、刹那的に生きるということではない。未来に向かって「いま」を懸命に生きるということだ。現場は「いま」に立脚しながら未来を見据え、未来を創造する場所にほかならない。

[現場の目的]現場は価値創造を実行するために存在する
企業の現場は目的性をもって存在する。その目的とは戦略の「実行」であり、価値を創造することにほかならない(「価値創造主体」としての現場)。「夢を形にする」当事者こそが現場である。

[現場の役割]現場は価値創造に必要な業務を日々遂行し、人材を育てる
「価値創造主体」としての現場は、「業務遂行主体」「人材育成主体」という2つの「顔」をもっている。戦略実行のための業務を日々遂行し、さらには企業にとって必要な人材を育て、鍛え上げる役割を担っているのが現場である。

[現場の特性]現場には「可能性」と「リスク」の両方が存在する
「夢を形にする」役割を担う現場は大きな「可能性」を秘めている一方で、「業務の固まり」という特性から派生する「刹那的な達成感」や、「人の固まり」という特性から派生する「現場モンロー主義」という、企業経営にとっての「リスク」も抱えている。

 現場は、日々変わっていく存在であり、共有した目標に向かって価値を創造していく存在でもあります。現場では様々な問題が持ち上がります。予測していなかったことも多く(準備不足かもしれません)、その場その場で即興的に対応しなければなりません。対応できる柔軟性があることは強みです。そのため、現場とチームの親和性は高いです。

 あらためて気づかされたのは人を育てる機能です。業務を通じて後輩を鍛える重要さは理解しており、知識や情報だけでは何も生み出せず、それを実際の作業に活用して、本質的な付加価値を生み出すことができます。その実務によって、人は経験を積み、成長することができます。正にその仕組みを現場が持っています。

 負の面として、現場が生み出す目の前の達成感によって、環境が変化しているのに正しい仕事をしているとの錯覚を生じさせます。長い間に成果を上げてきた組織ならば、持ち場の作業をこなせばよいとの思考停止に陥ります。誤ったことや安全を逸脱した行為が日常となり、大きな問題に発展する芽を抱えることになります。そのことは集団思考で述べた点です(以前の記事)。

 

 現場という言葉が、何時から使われ、その語源は確認できませんでした。ただし、職人の世界から生み出されたと想像できます。無から有(すなわち 価値)を生み出す技能を保持した人々が、徒弟制度を通じて、実務を通じて技能を世代から世代へと受け継ぎ、閉じられた組合が組織されました。中世の欧州ではギルド(Guild)と呼ばれました。

 近代工業の発達に伴って欧州ではギルドが衰退しました。日本では現場へ引き継がれ、モノづくりの原動力となったと考えられます。ただし、職人の技能で暗黙知以前の記事)の部分は引き継がれなかったため、釘を使わない組み木の技、正宗と刻印された名刀、ストラディヴァリウス (Stradivari)のヴァイオリンなどは再現できません。

 

 工業化、機械化、自動化、そして人工知能の応用によって、そもそも現場が置かれる場所(Location)が変わり、コンピュータ内の仮想空間に一部はなっているのかもしれません。モノづくりの現場も衰退しており、日本でしか作れないものも少なくなり、日本の強みは失われているのが現実です。スイス製時計の事例を通して、高品質安価な日本製時計に押されて、スイス製時計の売り上げが大きく低下しました。有名ブランドを持つスイス企業は、安価な時計は作らず、機械に頼らず手で組み立て高品質・高価格の時計を製造してきました。クルマの値段くらいに匹敵しますから、点検・整備プログラムも用意されており、熟練した技術者を保有しています。

 そのような変革は、現場のみでは変化できないと思われます。目の前の作業に追われて現場の視野は狭くなっているし、長期的な視点で展望を描くことはできないです。現場が衰退していくと、コスト削減という名で人員削減が行われます。一人抜け二人抜けと、最低限の人数で業務が回るまで、そして残った人員が大幅な残業を強いられます。これまでの考察からも分かるように、現場から人材を育成する機能が失われ、現場で蓄積してきた暗黙知も消失していきます。

 

 現場の強さそして半面の脆さが見えてきました。現場は内部から生まれ変わることはできません。組織としての現場は保身に走り、現場の長は現場を支えてきてくれた人々を裏切るわけにはいきません。外部環境の変化に伴って状況が悪化し、閉塞感に襲われます。そこで日本独自の「黒船待望論」が生まれてきます。外圧によって変えてもらおうとすることです。

 外圧に頼らずに権限を用いて、組織のトップダウンで意思決定ができれば良いのですが、少し前まで電子立国を支えてきた企業の変質を聞くと、集団思考そして現場の弊害が顧みられます。創業者が経営しているならばトップダウンによる変革は可能なのかも知れません。その時こそリーダーシップによるトップダウンが必要とする場面かもしれませんが、その方針に生活が掛かっている人々が従うことができるのかはリーダーを信頼しているかにかかります。
 
 現場について問題提起はできました。自らの現場も顧みて再度認識できたことは多くありました。現場の機能を残したまま、他の業務に移行して、現場の発展を維持することができるのか? その問に対して、明確な答えはなく、引き続きに考察していきます。ヒントの一つとして、京セラ名誉会長 稲盛 和夫さんが考案したアメーバ経営が参考になるかもしれません。組織をアメーバ(ameba)のように小集団に分割して、分裂・統合を進めていけば、変化に対応できる現場を築けるかもしれません。
 
jsc2016e089486
 
参考文献
  1. 現場論: 「非凡な現場」をつくる論理と実践
  2. クラフツマン: 作ることは考えることである (単行本)
  3. ワーク・シフト ― 孤独と貧困から自由になる働き方の未来図〈2025〉
  4. 結果を出すリーダーはみな非情である
  5. 「ついていきたい」と思われるリーダーになる51の考え方
  6. アメーバ経営の進化